#17 タイムマシン 〜5年越しの出会い〜
過ぎ去った時間が戻ってくることはありませんが、過去の出来事が意外な形で未来に影響を与えることはあるように思います。先日、5年前の「不確かな出会い」が「確かな出会い」になって戻ってくるという幸せな出来事がありました。今日はそんなタイムマシンのような話です。
もう一度サックス吹きたい!
大学時代から長年サックスを吹いていたのですが、仕事に疲弊してしまい、楽器に触れずにいる時間が長くなっていました。そんな時、あるニュースが配信されてきました。2018年2月に開催される「第37回サクソフォーンフェスティバル2018」で面白い曲が演奏されるというのです……
サックスのクラシック作品では、ソプラノ・アルト・テナー・バリトン4本によるアンサンブルや、数十人による「サクソフォーン・オーケストラ」の演奏もさかんに行われます。しかし、サックス奏者が104人も必要な曲というのは初耳でした。調べると、ソリスト4人+エキストラ100人の構成で、エキストラを一般公募するとのこと。日本初演という文言につられて、意気揚々と参加申し込みをしました。
日本初演のシャリーノ作品
エキストラの演奏に必要なスラップ・タンギングやオーバートーン奏法などの説明を事前レクチャーで受け、当日は朝一番のリハーサルに参加した後、夜の本番までは他の参加者の演奏を聴いて過ごしました。本番の動画が残っています。舞台上には白装束のソリストが4人、舞台をぐるぐる回る100人のサックス奏者……エキストラの仲間とは、「新興宗教の儀式みたいだね」と話していました。下の動画では、27:12 〜エキストラ100人が登場します。
S .シャリーノ《口、足、音》4人のソリストと100人の動くサクソフォーン奏者のための(1997)
指揮:橋本晋哉 サクソフォン:原博巳、江川良子、井上ハルカ、小山弦太郎
JSA シャリーノ・スペシャル 100人アンサンブル
本番後、エキストラとして出演した人たちと駅まで一緒に歩いたものの、すでに夜遅く大勢での打ち上げはできませんでした。後ろ髪を引かれる思いで、「またどこかで会いましょう」と話して別れました。
ドイツに向けて、写真撮影
5年が経ち、104人サックスのことはきれいに忘れた2023年7月、渡独後に使うプロフィール写真を撮ってもらうために、池袋の写真スタジオを訪ねました。note や Facebook で使うために、サックスを持って写る写真も合わせて撮ってもらえるよう予約しました。衣装に楽器ケースを持って、スタジオに入ります。すぐに写真家の方が来てくださいました。
僕はブラジルのマーカス・ボナというブランドの、ソプラノサックスとアルトサックスが両方入るダブルケースを使っています。ケースを一目見ただけで分かるというのは、ひょっとしてサックス関係者?と思っているとすかさず、
その方はサックス奏者として音楽活動をメインとしながらも、写真家としても活躍されている二刀流アーティストでした。イメージサンプルとして持ち込んだCDのジャケット写真を見ながら、撮影のイメージを膨らませます。「サックス吹きがサックス吹きの写真を撮る」楽しい時間の始まりでした。
* * *
彼女が別のお客さんの撮影をしている間、もらったチラシのプロフィール欄を読みます。師事した先生は○先生に□先生……頭の奥底の記憶が呼び起こされます。「ササキさんどうぞ」と奥のスタジオに呼ばれたので、おそるおそる聞きます。
彼女は当時音楽大学の学生、アマチュア枠の僕と一緒にエキストラに参加したのでした。楽器を持っての撮影は興奮の連続で、「標準撮影枚数40枚」のプランでなんと120枚ほど撮影してもらいました。「モノクロに仕上げて、楽器だけカラーで浮き上がらせる」という難しい加工も彼女の手によるものです。
「確かな出会い」へ
スタジオを後にする前に連絡先を交換し、2人で写真も撮ってもらいました。5年前、本番後のあの「後ろ髪引かれる思い」は今日につながったのか……あの日「何か終わりきらない」と思ったのは、今日の出会いの前段だったのか、と思いながら車で帰路に着くと、手元のアップルウォッチが鳴ります。早速彼女からのメールでした。
彼女のスタジオ勤務は週に数日のみとのこと、今回の出会いは本当に低い確率をくぐり抜けての幸運でした。「人生頑張ります」なんて、普段は使わない大袈裟な表現ですが、こんな出会いを経験すると、自然と「人生頑張ろう」と思えます。成果を報告する人が一人増え、成果の報告をしてくれる人も一人増えた、そんな「5年越しの出会い」の物語でした。
今日もお読みくださって、ありがとうございました🎷
(2023年7月25日)
サポートってどういうものなのだろう?もしいただけたら、金額の多少に関わらず、うーんと使い道を考えて、そのお金をどう使ったかを note 記事にします☕️