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#104 本当に役立つ TOEIC の話し

英語教育や英語学習に関する記事を全く書いていない。ずっと英語畑にいるのに、何も書いていないのもどうかと思う。ちょうど先日、久しぶりに TOEIC を受けるという友人にいくつか説明とアドバイスをしたので、一度まとめておこうと思う。



変わりつつある TOEIC

TOEIC(= Test Of English for International Communication) はアメリカの非営利法人 ETS(Educational Testing Service)が作成している、世界最大の英語テストだ。日本で一般的なのは TOEIC L&R(= Listening & Reading)と呼ばれる「聞き取り」と「読み取り」の能力を測定するテストで、それぞれが 495点満点、合計 990点が満点となる(1000点満点ではない)。

日本では、主に就職活動の際にスコアを求められることが多く、何度も受験している学生も多いと思う。しかしそんな TOEIC に対しては色々と批判がある。例えば次のようなことだ:

1. 現実世界での会話には、試験のように明確な答えがあるとは限らないのでは?
2. 読解問題に正解できても、文章の内容が理解できているとはいえないのでは?
3. 4択式なので、全部同じ記号をマークすれば、4分の1は得点できるのでは?

TOEIC に対する不信感

ETS は上の指摘に応えるためにいろいろと努力をしている。

1に関しては、会話中に明確な答えが存在せず、「男性はおそらく提案に賛成しかねている」といった曖昧な内容が正解となる問題が近年出題されるようになった。現実世界に試験内容を合わせたというわけだ。
 2に関しては、問題文を先に読んで、その答えを文中から見つける「スキャニング」と呼ばれる読み方だけでは対応できない問題が出始めた。現実のビジネス現場では、そもそも「問題文」は存在しないわけなので、問題に対する答えだけを見つけようとする、いわゆる「TOEIC 読み」が通用しない問題をあえて設けているようだ。
 3に関しては、TOEIC の採点は単純に正答した問題の得点を加算する方式ではなく、特殊な偏差値方式で得点を出している。ETS によると、「全部同じ選択肢をマークした場合、実際には 25% の正答率でも、その半分程度しか得点できない」ように採点プログラムが工夫されている。

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スコアゾーンによって、中身が異なる

大学生からも社会人からも、「TOEIC で高得点が取れても、実用にはあまり結びつかないですよね?」とよく聞かれる。これには、次のように説明したい。

スコアが850点程度までで、「TOEIC のための勉強」ばかりしてきた人は、「どうにか正解を選べて得点できるが、実用能力にはあまり結びついていない」状態であることが十分あり得る。上で説明した、「テストの内容を現実に近づける」ために工夫されているような問題を全部落としても、850点くらいは取れてしまうからだ。せっかく勉強した時間が、もったいない。

逆に、海外在住などでかなり実用能力がある人が受験しても、750点程度どまりということもあるようだ。多くの場合、リーディングセクションの得点が極端に低い。これは、海外「生活」では「スピードを出して、多くの文章を読む」ことがあまり求められないからだ。大学院留学などで読む量、速度ともに訓練されていれば、1年間の留学の後に900点を下回ることはないだろう。

そして、「TOEIC 試験対策」的な勉強だけで、950点以上を取るのは難しい。僕の経験では、950点以上を取れていれば、実用能力もそれなりにある、と考えて良さそうだ。SNS 記事などでよく言われる「TOEIC スコアは高いが、英語が使えない人」というのは、おそらく 850点近辺の人のことを指しているのではないだろうか。

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TOEIC 読みは、卒業しませんか?

ここで僕は、「同じ700点〜850点なら、実用につながる700点〜850点の方がいい」と思うのだが、どうだろうか?上で書いたように、950点以上と異なり、700点〜850点というのは「スコアの中身」が人によってかなり異なるゾーンだ。どうせ時間をかけて勉強し、同じスコアを取るなら、中身を伴っている方がいい。

700点〜850点を目指す場合に僕がおすすめしたい勉強法、試験の解答法は、ずばり「TOEIC 読みをしないこと」だ。普段の勉強でも試験本番でも、長文問題は最初から普通に読み、内容を把握した上で問題に入る。ビジネス現場でも海外から来たメールはまず全体を読んで内容を把握しなければならず、「問題」は通常存在しない。むしろ、メールの中に不明瞭な部分や合意した内容と異なる情報がないかを見つけ、それを相手にフィードバックすることがビジネス現場での「読み」だ。

僕の経験では、無理やりリーディングセクションを最後まで「TOEIC 読み」で解いて、あちこち間違えるのと、最後の方の長文数問は完全に捨ててしまって、手前までをじっくり読んで正答率を上げるのでは、スコアはあまり変わらない人が多いように思う。
 問題に対する答えを探し回ると視線がテキストのあちこちを移動するので、本来テキスト内に埋め込まれている照応関係(代名詞が何を指すか)や文脈を読み逃してしまうのだ。できるところまでをしっかり読んで解答し、残り時間が数分になったら、読めなかった部分を適当にマークして出すのがいいと思う。その場合も、上述の理由で同じ記号ばかりマークしてはいけない。

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最後は、筆記用具だ!

最後に、ひんしゅく覚悟で英語力とは全く関係のない「スコアアップ術」を一つ。それは筆記用具の選び方だ。TOEIC を受ける時に、普通のシャープペンと普通の消しゴムを使っている人はいないだろうか?それは大変に不利なやり方だ。TOEIC には、下のようなシャープペンと消しゴムを持っていこう!

一般的な 0.5mm のシャープペンと、上の 1.3mm のマークシート用シャープペンでは、一箇所マークするのにかかる時間が2秒くらい違う。0.5mm だと3秒くらいかかるところ、1.3mm だと1秒で塗れる。リーディングセクションは100問あるので、2秒の差は200秒、つまり約3分半の違いとなる。3分半あれば、メールやSNSを読み取る問題なら、大問を一つ見直せる。これだけで十点以上違ってくることも十分あるだろう。
 消しゴムによる差も大きく、普通の消しゴムで消そうとして隣のマークも消したりしてしまうと、塗り直しも含めて時間のロスが大きい。上のような消しゴムならピンポイントで消すことができ、ロスを回避できる。

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限られた経験ながら、TOEIC 指導をしていて思うのは、ある問題を「正解」できたとしても、その中身が人によってかなり異なることだ。「応募先にスコアを出すだけだから、正解できればそれでいい」という発想で勉強してしまうと、「中身を伴わないスコア」になってしまう。ぜひ「中身を伴ったスコア」を目指したい。3月に戻ってきた時には、もう少しいろいろと、英語の勉強法について書いてみたいと思う。

今日もお読みくださって、ありがとうございました。
(2023年12月23日)

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