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#115 「教師とは、何かを教える人のこと」:僕が教わった英語の先生(その4)

大学院修士課程に在籍中、筑波大学との交換留学生として、一年間オーストラリア、ニューサウスウェールズ州のウロンゴン大学(University of Wollongong)へ留学しました。それまでは英語が得意だとは言っても日本国内で使っていただけだったわけで、留学を経てはじめて実体験を経た英語力になったように思います。
 日本国内では「ウーロンゴン」の記述の方が多いですが、ここでは実際の発音にならって「ウロンゴン」と記述します。
(ヘッダ写真:Wollongong Flagstaff Hill Lighthouse



四人目:大学院修士1年間 Bev Derewianka 先生(ウロンゴン大学)

教わった先生の4人目、オーストラリアでお世話になった先生をご紹介します。現在も名誉教授としてご活躍中で、YouTube チャンネルもお持ちなので、動画も見られます。

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二日酔いの朝

運命の出会いは意外な形でやってくるように思います。ある朝、おそらく前日夜に友人と飲みすぎたせいで、二日酔い気味ながら、急いで車に乗って大学院の授業へ向かいました(当時の筑波大学では、自動車通学は普通でした)。授業は原口庄輔先生の音韻論だったのではないかと思います。原口先生は残念ながら2012年にお亡くなりになりましたが、僕のその後の人生を大きく左右した先生の一人でした。話を戻して、その日の授業冒頭、先生が意外なことをおっしゃいました。

だれか、オーストラリアへ留学しないか?
モナシュ大学へ一人、ウロンゴン大学へ一人、派遣できるぞ!

朝一番の授業での意外なニュース

交換留学なので、筑波大学へ学費を納めていれば先方での学費はかからない、とのことでした。希望者は僕と同級生の女性の二人。メルボルンのモナシュ大学は言語学や言語教育学で非常に有名な大学でしたが、二人ともそちらを希望すれば、どちらかが落ちることになります。
 客観的に見て成績優秀だったのは女性の方だったので、彼女にモナシュを譲り、僕はウロンゴンで出願することを申し合わせました。談合が功を奏して二人とも無事合格し、1997年夏に出発しました。実は、ここでモナシュへ行っていたら、今の研究テーマには出会っていなかったのです。

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ウクライナとの縁

これから夏本番、という日本を7月初旬に出発し、着いたオーストラリアは真冬でした。降り立ったシドニー空港に、今はもう退役してしまった超音速旅客機のコンコルドが駐機中だったのが印象的でした。シドニーから南へ約1時間半、どちらかというとリゾート地っぽい街、ウロンゴンへ到着しました。

僕の指導教官は、ビバリー・デラヴィアンカ先生でした。姓のデラヴィアンカ(Derewianka)はウクライナ由来の名前で、ご主人の姓でした。僕のドイツでの指導教官の先生もウクライナ出身なので、ウクライナにずいぶんと縁があります。そういえば、友人の一人もかつてウクライナの日本大使館で働いていました。

学生は先生をみんなベブ(ビバリーの愛称)と呼んだので、ここでもベブ先生とします。ベブ先生は、「選択体系機能言語学」(Systemic Functional Linguistics: SFL)で知られるシドニー大学の言語学者マイケル・ハリデー先生にも学ばれ、シドニー郊外のマクォーリー大学で博士号を取得された方でした。「選択体系機能言語学」を応用した「ジャンル・アプローチ」(Genre-Based Approach)という言語指導理論を確立された先生で、ニューサウスウェールズ州教育省のカリキュラム作成にも関わられ、現在もウロンゴン大学名誉教授として活躍なさっています。

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英語のロール・モデル

英語、特に会話の上達には、「この人の英語を真似て、この人みたいに話せるようになろう」と思える「お手本」、ロール・モデルが不可欠です。いいロール・モデルが見つかれば、あとは使うフレーズや間の取り方など、その人を真似ていけば、自然な上達が望めます。僕の場合は、ベブ先生がロール・モデルでした。先生が話している YouTube 動画を紹介します。

下の動画の 3:48〜 に、ベブ先生(左側の白黒の服を着ている先生)の語学教育に関する解説があります。この端正で知的な話し方にあこがれて、似たように話せるように真似したものです。この動画は10年程前のものですが、僕が覚えている先生はこんな感じです。いつ聞いても惚れ惚れする英語です。

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「先生とは、何かを教える人のこと」

前回紹介した筑波大学の安井先生からは「25歳の恥は掻き捨てだよ」という言葉をいただき、その後長年に渡って、その言葉に勇気をもらいました。ベブ先生の言葉にも、一つ忘れ得ない言葉があるので、ご紹介しようと思います。ウロンゴンに着いて間もない頃、これまでの履歴などについて話していた時のことでした。

先生:Are you an English teacher?
(あなたは英語の先生なの?)
 僕:I’ve been teaching English for four years, but not at a mainstream school.
(……四年間英語を教えてきましたが、正規の学校ではありません)
先生:Is that so-called “Juku”?(日本でいう「塾」のこと?)
 僕:Yes, yes. You know the word!(そうです、ご存知なんですね)
先生:So you taught English at Juku, right?
(じゃあ、塾で教えていたのね?)
 僕:Yes, but anyway not at a formal school.
(そうです、でも学校で教えていたわけではないので……)
先生:If you taught, you’re a teacher regardless of the place.
(教えていたなら、あなたは先生よ。場所は関係ない)

上の会話は、塾や予備校など「学校以外の場所」で教えている人にとっては、「涙が出るほど嬉しい」言葉だと思います。というのも、当時の日本では、仮に長年の指導経験を積んだとしても、「塾・予備校での指導です」と言った途端、教育界での指導経験としてはゼロとみなされ、評価されないという悲しい現実があったからです。現在は、たとえば予備校で十分な指導経験がある人が学校へ転職するような場合には、その経験はきちんと評価されているのでしょうか、そう願います。

「教師 = 何かを教える人のこと、教える場所は関係ない」という先生の言葉は、今思い出しても胸が熱くなります。

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次の動画は先生の昨年の収録です。右上のサムネイル画像から、先生がずいぶんとお痩せになったのが分かり、少し心配です。お元気なうちに、先生の「ジャンル・アプローチ」と AI の交点を探った研究の成果をご報告にまたウロンゴンを訪ねたい、と思っています。少し急いだ方がいい、と思っています。

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今日で、僕が英語を教わった尊敬する4人の先生方の紹介が終わりました。時にお世話になった先生方のことを思い返してみるのはいいですね。今後は具体的な英語学習の方法などについても、書いていきたいと思います。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🇦🇺
(2024年3月15日)

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