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ChatGPTを使って「ひとりブレインストーミング」を実行する手順 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.783



特集 ChatGPTを使って「ひとりブレインストーミング」を実行する手順〜〜〜アイデアや発想は書き留めるだけでは先に進まない(3)


米国の科学ジャーナリスト、マット・リドレーは「人類とイノベーション」(ニューズピクス、邦訳は2021年)という書籍で、イノベーションの本質のひとつを「アイデアとアイデアの生殖(セックス)である」と喝破しています。


たとえばスティーブ・ジョブズが「発明」したように見えるスマートフォンだって、まったくのゼロから作られたわけではありません。いまでは絶滅寸前ですが、ガラケーと呼ばれた日本の携帯電話のテクノロジーがあり、無線通信の長い歴史があり、パソコンというデバイスがあり、それらをうまく組み合わせるかたちで「手のひらの中のパソコン」としてiPhoneという概念が生み出されたのです。


だからイノベーションは、アイデアとアイデアが交差する地点で起きやすくなります。つまりは起業家や技術者や各種の専門家がたくさん集まり、さかんに交流を行う土地が最適なのです。「北朝鮮ではなくカリフォルニアであり、フエゴ群島ではなくルネサンス期のイタリアだ」とリドレーは書いています。


この「アイデアとアイデアの生殖(セックス)」は、人間社会におけるイノベーションだけでなく、個人の頭脳のなかでの思考にも当てはまります。記憶の中に貯め込まれているさまざまなアイデアや概念、事例などを取り出し、それらを生殖させる。つまりつなぎあうことによって新たなアイデアが生まれるのです。


まず前段の準備として、情報を集めて整理しておくことが必要です。これはわたしは2021年の著書「読む力」でさんざん解説したところなのではありますが、ここでもう一度整理しておきましょう。


(1)情報収集

大事なのは、いかに多様な視点からの情報を収集できるかということです。なにかのできごとがあると、それについてのニュースは同じような解説ばかりになります。例えば新しいiPhoneの発売だったら、どの記事も同じようにスペックや特徴、価格を書いているだけ。これらをいくつ読んでも、情報は多様化しません。だから「この新しいiPhoneはスマホの未来にどうつながるのか」「アップルの戦略は変わるのか」といった別の視点の記事を探すことが肝要です。


(2)収集した情報を並べ、それらから多様な視点を身につける。

異なる視点を組み合わせることで、新しい洞察やアイデアが生まれます。この際、集めた情報をメモアプリなどでリスト化し、視覚的に並べておくという方法をお勧めします。


(3)対話型AIの助けを借りる

異なる視点を組み合わせる際に、ChatGPTのような対話型AIの助けを借りるとたいへん楽になります。


具体的な題材として、多拠点居住生活を考えてみましょう。わたしはもう10年以上も前から東京と長野、福井の三つの拠点を毎月のように移動しながら暮らす生活をずっと続けていますが、新型コロナ禍でこの多拠点居住が急速に普及しました。三拠点はさすがにあまりいらっしゃらないようですが、都会と田舎の二拠点で生活している人はずいぶんと増えた印象があります。


それに伴って、多拠点生活をめぐるさまざまな研究や分析、記事などを目にすることも増えてきました。


この記事では、パーソル総研がおこなった定量調査から多拠点居住には5つのタイプがあると分類しています。「多拠点生活志向」「地域愛着」「趣味満喫」「家族支援」「受動的ワーク」


最初の3つは積極的に多拠点生活を楽しみたいと考えている能動的タイプ、後ろの2つは組織や家族など他者の意向で多拠点生活をしている受動的タイプ。そして彼ら多拠点居住者が幸せであるかどうかを調べると、能動的タイプは幸福度が高いけれども、受動的タイプは幸福度が低いという結果が出ているとしています。


また地域への貢献度で言えば、「多拠点生活思考」タイプは貢献度が高いけれども、同じ能動的タイプの中でも「地域愛着」や「趣味満喫」タイプは比較的低いという数字も紹介されています。そこで「地域愛着」や「趣味満喫」、加えて受動的タイプの人たちの地域貢献度をどう高めるのかという問題意識も大事と指摘しています。


そして結論として、以下のような提言がされています。


「地方自治体においては、定住人口と交流人口の間の『関係人口』という概念の解像度を高めるべく『多拠点居住者』への着目を提案したい。その際、多拠点居住者とは一様ではなく、5つのタイプに分類され、その関心は多様であった。これは、地域の情報発信や政策立案に際して考慮すべき点がそれぞれ異なる事を示唆している」


タイプ別に施策を考える必要がある、ということが強調されています。


「労働・消費への貢献度が高い能動的な多拠点生活者はもとより、現時点において地域との関係が薄い『受動的ワークタイプ』なども潜在的な力を秘めていると考えたい。受動的な多拠点生活者についても地域における『居場所』と『出番』をいかに自然な形でつくり出すかが重要な検討ポイントであると考える」


上記の記事はまとめれば、多拠点生活者を5つのタイプに分類し、それぞれの特性を理解し地域貢献やウェルビーイングに活かしていくことが必要である、という内容です。




多拠点生活をめぐる記事をもう一本紹介しましょう。これは別荘に絞ったコラムですが、「購入と貸別荘のどちらが良いか」という面白い着眼で書かれています。記事では借りるメリットとして「初期費用が安い」「気分に合わせて異なる別荘地も楽しめる」。デメリットしては「人気の観光地ではレンタル費用が高い」「物件のクオリティがバラバラ」「混雑時には予約が取りにくい」などを指摘しています。


この記事では主に貸別荘をイメージしていますが、わたしは長野と福井の家はどちらも貸別荘ではなく、普通の賃貸物件です。賃貸のメリットとしては記事で書かれていることに加えて「住環境が変化したり悪化すれば、すぐ借り換えられる」ということもあるでしょう。デメリットとしては「滞在していない時期も家賃を払わなければならず割高」ということが挙げられます。


さて、まったく視点の異なるこれら2つの記事をリスト化して保存していたとして、ここから新しいアイデアを膨らませることができるでしょうか。そこでChatGPTの出番です。2つの記事のURLを指定した上で、こう聞いてみました。


「最初の記事では多拠点生活の5つのタイプに分類されていますが、このタイプの違いによって「拠点の住宅を購入するか賃貸するか」という違いは生じると思いますか」



これに対してChatGPTの回答は次のようなものでした。

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