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【新歌推介】 CHOR 《人之初》:カントポップ業界を裏方として支える実力者がアビー・ロードに集結して録音したサイケデリック・ロック 【香港音楽】

曲名:人之初
歌手:CHOR(鍾楚翹)
リリース日:2023/07/15

作曲:CHOR(鍾楚翹)
作詞:梁栢堅
編曲:Goro Wong/ CHOR(鍾楚翹)
監制:Goro Wong

作曲家、編曲家、演奏家などとして香港音楽シーンを裏で支えるかたわら、浮遊感溢れるハイセンスなソロ曲を発表しているCHOR(鍾楚翹)の新曲。

CHORは今年3月に人気歌手の張敬軒(ヒンス・チョン)と周國賢(エンディ・チョウ)のイギリス公演にもサポート・メンバーとして参加している。この新曲『人之初』は、その2つのライブの合間にあった1週間ほどの期間に、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音されたものだという。

そのため、この曲の演奏には同じく周國賢のサポート・メンバーとして渡英していた旧知のミュージシャン(編曲者としてもクレジットされているGoro Wongなど)がギター、ドラム、ベースとして参加している。

そうした実力派演奏家たちの参加もあってか、打ち込み主体で浮遊感が前面に出たドリーム・ポップ、シューゲイザー風だったこれまでの彼女の楽曲とは異なる重厚なロック・サウンドに仕上がっていて、とてもかっこいい。

それでいて彼女の旧作と共通する幻想感も十分感じられる。彼女自身はこの作品を「サイケデリック・ロック」(迷幻搖滾)と形容している。たしかにロックの激しさとサイケの怪しさがうまくミックスされているように思う。


タイトルは日本でも著名な中国の古典『三字経』の冒頭の3文字。古典では「人之初,性本善」(人の初めの性はもともと善である)と続く。

本作の歌詞も、その古典のイメージに引っ張られてか、哲学的でどこか教訓めいた、お経のような内容になっている。

人之初 看因果 光影中福與禍
(人は初め 因果を見る 光と影の中の幸福と不幸を)
人不少 也不多 血骨也在稱砣
(人は少なからず また多からず 血も骨も秤の上に)
人之初 看因果 始終一天躺臥
(人は初め 因果を見る やがていつの日か横たわる)
人不少 也不多 有天再渡冥河
(人は少なからず 多からず 冥河を渡る日が来たる)

CHOR自身はインタビューで歌詞の意味を聞かれて「要するに『健康には気をつけよう』ってこと」と語っている。外見が煌びやかでも内面が健康とは限らない。どんな選択をして、何を楽しもうとその人の「自由」だけど、それによって命を失ってしまっては、もはや何も楽しめなくなってしまう。

もともとは彼女自身が痩せすぎて不健康だった時期があり、その経験に基づいた曲を作りたいと考えていて、デモの段階では『骷髏人』(骸骨人間)というタイトルをつけていたんだとか。

楽曲全体にどこかダークで不気味な雰囲気が漂っているのも、そもそも病や死を題材にして制作されているからかもしれない。



*ちなみにInstagramの投稿によると、CHORは日本語も勉強していて、一時期仕事をセーブして日本語学校にも通っていたらしい。


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