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Crockett & Jones Coventry ドレスシューズ

男は誰しも007に憧れ、真似をする。

ショーン・コネリーはAnthony Sinclairで仕立てたスーツを身に纏い、Turnbull & Asserのターンナップカフのシャツを着た。
手首には、ROLEXに少しサイズの小さなグレーストライプのNATOバンドを巻いた。

それに対して、ダニエル・クレイグはTom Fordを身に纏い、手首にはOMEGA。
しかしながら彼のスタイルはショーン・コネリーのオマージュが多く、スーツはコンジット・カットを意識したスタイルで、時計もコネリーと同じNATOバンドを愛用していた。

そして、そんな彼の足元にはCrockett & Jonesがあった。

靴マニアには、Crockett & Jonesのファンは多い。
それは世界一木型が多いと噂されるラインナップだったり、比較的手頃な価格帯であったり、様々なブランドのOEMをしている技術力もあるだろう。

Crockett & JonesのOEMといえば、Paul Smithなどのデザイナーブランドにも作っているし、過去にはJohn Lobbもそうだったし、George Cleverleyの既成靴、独Eduard Meier、日本のLloyd Footwearもそうだ。
少し気の利いたブランドの靴をよく見ると、大抵はCrockett & Jones製だ。
かつてはOEM専門のメーカーであったが、1990年代にファクトリーブランドとしても生産を開始し、現在も人気を博している。

そして例に漏れず、僕の足元にもCrockett & Jonesがある。

様々な木型があると言われる同ブランドだが、僕個人としては「細身のロングノーズ」のイメージが強かった。
しかし、靴は並んでいる状態と履いた状態で全く異なる表情をする事がある。
この靴もそうだった。

Crockett & Jones Coventry

この靴は、確かGINZA SIX内のFREEMANS SPORTING CLUBで買った。
ひやかしに試着したが、思った以上にかっこよかったのだった。
これはお店での取り扱いをやめるとの事で、他のセレクトショップでは定価で並ぶ中、40%ほど安く5万円強だった記憶がある。
そんなの、本来なら英国靴が買える値段ではない。

この靴の木型は341と呼ばれるもので、エッグトゥで見た目によらず案外ショートノーズだった。
そして、履いて横に伸びると一気に高級感が増す。
近年ベーシックな木型として人気が出ているそうだが、履けば納得だ。
履いても脱いでも綺麗な形だし、トゥキャップの山羊のようなメダリオンも美しい。

綺麗に横幅が出てきた

ちなみに、Crockett & Jones純正のシューツリーはなかなか店頭では売っていないので、ネット通販で買った。
「5hの341の靴だとどのサイズが合いますか?」と問い合わせたら在庫の同木型のもので試してもらえ、ギチギチだが6が良いと教えてもらった。
普段からそのように履く人間としてはそれで満点の回答であった。

これも例に漏れず、小さな靴にギュウギュウに足を押し込んで履いた。
某掲示板では「クロケットのソールは世界一滑る」と噂される通り、はじめのうちは実際にツルツル滑るしギュウギュウなので足は痛いしで大変だった。
オールソール交換をするまでは本当に各所を噛まれてばかりだったが、その頃になるとすっかり足に馴染んだ。

レザーからダイナイトに貼り替えてもらった

履き心地は、正直なところ世間で絶賛されるほどではないと思う。
おそらく「木型が多いから必ず合う靴があるはず、俺は別に合ってないけど」というスタンスの人が多いのではないだろうか。
これはスタンダードラインなので、一番上のハンドグレードラインを履けば意見が変わるのかもしれないが。
確かに革は光るが硬いし、吊り込みも素晴らしいとは言えない。
酷評しているように見えるだろうが、とはいえいい靴であることは間違いない。

だからこそ、履くのだ。
なんとも言えない雰囲気が、この靴にはある。

…なんてことを思っていた矢先。
BEAMS Fでも取り扱いをやめるらしく、30%引きの6万円程度でマイサイズが投げ売りされていた。
なんとも言えない雰囲気のためだけに、僕は買ってしまった。
もちろんサイズは同じ5h。
小さすぎないかと店員さんに心配された。

色違いで買う阿呆

ちなみに、UNITED ARROWSでも同じ価格で投げ売りされていた。
SHIPSは未だに現役で、定価で売り続けている。
取り扱いが終わってゆくとはいえ、ここまで多くのセレクトショップに愛されていたと思えば名品なのだろうか。

一度勝手が分かってしまえば、プレメンテナンスをするだけで「ここまでは馴染むだろう」という目安もある。
ツルツル滑らないようなペンギン歩きもマスターした。
おじさんがペンギン歩きをする姿は滑稽だが、靴と安全には替えられない。

下ろして数週間で問題なく一日履けている

この靴は、幸いなことにブラックとダークブラウンの2色展開だ。
もしライトブラウンやタンブラウンがあれば、そしてもしまた投げ売りされていたら、間違いなく買っていただろう。

Crockett & Jonesの購入は、おそらくこれで終わるだろうと思う。
僕の財布を労わり、そして靴箱を祝して、よく冷えたウォッカ・マティーニを頂こう。

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