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なぜベストを尽くさないのか

イラスト@shigureniさま
タイトルは日本科学技術大学教授上田次郎先生のご著書からです。

以前、任期付き雇用の暴力性について記事を書きました。

私は心理職の雇用に関心があります。自分が苦しんだからです。
任期付きの職場をいくつか経て、辞めるときのあの、クライエントに対するどうしようもない罪悪感と、自身への無力感を抱くことに私はもう疲れました。
もちろん何があるか分からない世の中なので確実なことは言えませんが、臨床家としていくら自己研鑽を積んだとて、現実的な将来の経済的不安はなくなりません。経済的安定があってこそ安心して自己研鑽を積めるし、クライエントに対しても安定した支援ができる、そう考えています。

実際、週2、3、4(職員)、常勤(教員)でそれぞれ学生相談を経験してみて、日数が増えるほどにやれることは増えたし、常勤になった方が圧倒的に仕事をしやすかったです。クライエントである学生への利益も大きく(緊急対応はもちろん、たとえば1回キャンセルがあっても枠が合えばその週のうちに振替も可能です)、関係者である教職員連携も手厚くできたと感じています。
だからこそ、学生相談がこれから、あるいは既に始まっている、教員から職員へ⇒職員から外注へ、という流れに危機感を覚えてもいます。

そんな折に、スクールカウンセラーの問題が目に留まりました。「教職の専門性に加えて、心理、福祉分野の専門性を身に付けられる教員養成が制度的に可能になるように改革を進めていきたいと考えている」というやつですな。

その流れで「いやいや教員にどこまで求めるねん」「スクールカウンセラー(以下SC)を常勤化すべきだろう」という意見が出てきたわけです。

で、折しもこんな記事も出てきました。「賃金未払い、不安定な雇用…スクールカウンセラーが告白「劣悪すぎる労働条件」

このニュースを読んで、「なるほどSCも雇い止めとかに悩んでいるんだな・・・」と非常に共感したわけです。同時に、首相の発言に対する反発も鑑み、これはSC常勤化の流れが促進されるのでは?と期待しました。

が。この記事の最後の方にある「雇用契約の無期化を望む一方で、フルタイム化は望んでいないということだ」という一文に首をかしげました。
心理職ユニオンさんの報告書をたどると、「1つの勤務校に毎日(週5日)出勤する(兼業不可)」を希望しているのは5%なんですね(厚生労働省が公認心理師を対象にした調査では44%が常勤化を希望する、と回答したようですが)。

雇用の不安定さを嘆く一方で、フルタイムは望まない?
この結果がふしぎだったんで、よくSCって「外部性(まれびとであること)が大事」とか言われるけどそれって雇用の不安定さをごまかすための詭弁じゃね?といった内容をTwitterでつぶやいたところ、そこそこ60くらい「いいね」がついたんですね。
加えて、いくつかリプが来ました。そのリプの内容をまとめると「学生相談とSCは異なる(←まあわかる)」「常勤になる期待よりも不安の方が大きい(←わからない)」って感じでした。
でも実際、友人のSCに尋ねても同じような返答が返ってきました。

「自分のやりたい臨床実践をやりたい」
「ライフスタイルを変えたくない」

だいたいこの2点でした。
まあ、だったら雇用が不安定なのはしゃあないよね・・・と。

自己責任という言葉は好きではありませんが、特に「心理臨床ができなくなるから(今やっている臨床の質が変わるから)」という理由で常勤化はNoというのがいちばん理解に苦しむ説明でした(いや、もちろん理解はできるんですけど、それ?と思ってしまって。一対一の密室での個別心理臨床原理主義か、と)。
「自分のやりたい臨床」が、「現場で役に立つ」ということよりも優先されるのであれば、ある程度の雇用の不安定さは仕方ない気がします。
生徒や教職員からしたら、週1回しか来ない心理臨床やってくれる人より、週数日、あるいは毎日いてくれる人の方が圧倒的にメリット大きいと思うんですけど。
常勤化により仕事の質が変わるのは当然。けどどう考えても、ずっと学校にいる人の方が現場の役に立てる。それに、ずっといる方が生徒や教職員にも「心理の先生ってこんな感じなんだ」と理解してもらえる。組織にコミットすればするほど、いなくなったときの困り感も大きいので、常勤化や無期雇用の流れは促進されるでしょう。けど、やる前から「それはやりたくない」という人が思いのほか多い。
子育て世代の女性などが、高時給パートとして都合が良いというのもあるんでしょうな。いずれにせよ、常勤か非常勤か、選べるようになるといちばん良いのでしょうが、これでは各団体も常勤化を訴えづらかろう・・・と思います。

SCが常勤化すれば、学校現場に心理的な文化というものが根付くことになります。学生相談に一定の期間携わっていた者として、発達のもっと早い段階から手厚い支援を受けられていれば、と思うことは多々ありました。
それに、小中高でSCが常勤化すれば、おのずと学生相談の雇用にも良い影響があるのでは、という下心もあります。

まあ、社会的にSC常勤化を訴えていく好機なのに、SC当事者が及び腰なのがなんかすげえもったいない気がする、というお話でした。Why Don't you do your best? 個人的にはどうしてもそう感じてしまいますが、きっとSCの方々にも理由はあるのだと思います。
とはいえ、44%の方に期待したいですね(若手が多いのかな?)

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