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2月17日(土)めまいのする散歩

めまいがひどいので、御茶ノ水にある専門の病院に行った。
受付で「今日予約している○○です」と名乗ると、いぶかしげな顔をされる。しばらくパソコンを操作して、わたしの名前を検索しているらしかった。ややあってから、きまりわるそうな声で、
「たしかにご予約いただいていますけど、今日じゃなくて来月です。3月16日にご予約されてます」
と言われた。
一週間前、インターネットで予約したので、これはどう考えてもわたしのミスなのだった。

「どうもすみません。今日、空いていないですよね」とダメもとで尋ねてみると、受付の人は「そうですねぇ〜」と困った声をだした。人気の病院で、予約はぎっしり詰まっているらしい。
一ヶ月後にまた来るしかないのだろうか、と気が遠くなっていると、
「キャンセルが出たので、今日の十二時でしたら、診察できます。少しお待ちいただきますが」
と言われた。ラッキーだ。お礼を言い、カフェのような待合スペースでしばらく本を読む。四十五分ほど待つと名前を呼ばれた。

担当医は、六十代ぐらいの男の先生だった。
「めまいがするようになってから、もう何年も経ってるのね。ずいぶん長いねえ。ここ以外にも、どこか病院行ったことあるでしょ?そんなに長いんだったら」
パキパキした口調で尋ねられる。前に住んでいた町の耳鼻科と、地元の脳神経外科に行ったことがあると答えた。
「そのときの詳しい治療歴とかがわからないとねえ。ここでまた一から治療するとなると、時間のむだなんだけどなあ」
医師はぼやき、
「年齢と症状からして、たぶん、自律神経系のめまいだよね。一番原因が分かりづらくて、治しづらいめまいなんだよねえ」
と言った。前の病院での治療歴など控えておらず、今日は完全に丸腰だった。ここはめまいの専門病院なので、とにかく体一つで行ってしまえば治してもらえるだろうと思ったのだ。甘かった。

医師は治療歴がわからないことをぶつくさ言いながら、わたしに水中ゴーグルみたいなものを着けさせた。そのままわたしの椅子を後ろに倒し、めまいが起きるかどうかをチェックした。
「おお!目がぐるぐる回ってる!こーれは分かりやすい!」
なぜかはしゃいだような声をあげる医師。わたしは強制的にめまいを起こされて気分がわるくなった。
「すごいねえ、これはジセキが原因のめまいだね」
と医師は言った。
「耳の石、って書いてジセキね。何かの拍子に耳石がはがれて、三半規管に入ってぐるぐる回るからめまいが起きる」
エプリー法、という名前の体操のような治療をしてもらった。たぶんこれで軽快すると思う、とのこと。
「予約の日をまちがえて来てよかったねえ。あなたのめまいは結構ひどいよ。これを一ヶ月がまんするのはしんどかったと思う」
と、医師はいたわるような言葉をかけてくれた。
「しかし耳石がはがれた原因がわからないねえ。これは普通、60代ぐらいの女性がなる病気だよ。あなたの歳でなるのは珍しいねえ」
不思議そうに言われても、さっぱり身に覚えがない。頭を強く打ったりしなかったか、と聞かれたが(頭を打った拍子に耳石がはがれることがあるらしい)思い出せない。
お礼を言って診察室を出る。
「予約の日をまちがえてよかったねえ」
と医師はまた言った。

病院は三千円ぐらいだった。CTをとったりするかと思い、念のためパートナーから一万円借りてきていたのだが、CTはとらず、薬も出なかった。思ったより安く済んだことにほっとする。

図書館に行き、カフェで本を読んだり、夕方までのんびりする。
本を十三冊も借りる。
帰宅してパートナーに一万円を返す。
パートナーは家で仕事関係の勉強をしていた。一日中やっていたらしい。

夜寝るとき、体を横たえるとまためまいが起きた。教えてもらったエプリー法の体操を、明日やってみよう。

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