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自分モードであなた自身のビジョンアートを制作する〜ビジョンのアトリエワークショップレポート@東京大学

直感と論理をつなぐ思考法で紹介している妄想を起点に個人のビジョンをデザインするワークショップをビジョンのアトリエワークショップとして実験を始めています。

「直感と論理をつなぐ思考法-VISION DRIVEN」は、京都造形芸術大学で全5回の「僕らの未来展」の制作を行うという、個人の妄想を深掘り表現、制作をしながら解像度を上げていくというアート的なビジョンデザインの方法論として開発したプログラムでした。プログラムの概要はこちら

この過程で、東大でアーティストの熟達の研究をされている岡田猛先生と出会い、共同研究をしていくことになったその第一弾のワークショップを12/2に東大で行いました。その内容を参加していた方にレポートしていただきました。(田代さんありがとうございます!)

制作をしながら内面のモチベーションを形にしていくという新たな取り組み、研究者の視点でどう進化していくのか楽しみにしていてください。

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『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』の著者である、佐宗邦威さんによる「ビジョンのアトリエワークショップ」が東京大学で開かれた。

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12月に入り、ひんやりと冷たい雨の降るその朝、会場に集まった人たちの顔には期待と興奮の表情がうかがえた。それもそのはず、デザインやイノベーションの分野で今話題となっている上記の書籍の著者本人がファシリテートするワークショップに参加できるのだ。

佐宗さんは、ご自身の『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』の中で、ビジョン思考を4つのステップに分けている。それが①妄想→②知覚→③組替→④表現だ。

ステップ①でまず自分の妄想をカタチにする。次のステップ②では言語モードをオフにし、五感で感じ取ることでビジョンの解像度を上げていく。③の組替で分解・再構築した後は、最後の④で展示することで自分らしい表現に落とし込む、といったプロセスだ。

このように体系的かつシンプル、そしてある意味直観的な過程を経ることで、普段「他人モード」になりがちな私たちの思考を意識的に「自分モード」に切り替えていく。そしてそこに眠る妄想を掘り起こし、具体性のあるアクションに落とし込んでいくことができるのだと佐宗さんは言う。

今回のワークショップでは、このプロセスのうち、ステップ①妄想、②知覚、そして④表現の部分を凝縮し、ビジョンを具体化するための余白、すなわち自分のアトリエを築く、ということを一日かけて行った。


まずは自分のビジョンをスケッチブックに描くワーク。言葉で書く人の中には、箇条書きする人もいれば、点々とスペースを使う人も。また、絵を描く人もいて、漫画的な表現もあれば、描写的なスケッチもあるなど、十人十色だ。

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ビジョンをグループ内で共有した後は、偏愛コラージュ〜あなたの好きをまとめてみよう〜というワーク。自分の興味・関心を写真として持って来てもらい、これを画用紙に貼りながら分類していくという作業だ。一人一人が独自のコラージュを製作していく中、画用紙の繋ぎ合わせ方にもこだわる人が出てきたりして、創造性が垣間見えた。

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それが終わったら、ペアになって共有タイム。自分の「好き」を共有する参加者の顔には笑みがこぼれる。

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また、「素朴なものを好む、という印象です」「旅人ですね」といったコメントを受けて、「他の人からそう言われると、なるほど、と思いますね」「考えたこともなかった」と口にする人も。自分の「好き」というのはあまり他人目線で見る機会がないためか、このペアワークを通して、抽象的だった嗜好の輪郭がなんとなくはっきりしていくようだった。

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続いて、今度は妄想インタビューシートを使ったペアインタビュー。質問事項は「子供時代の夢」から「3年間の時間と100億円のお金があったら、何をするか」まで数点。キラキラした目で子供時代の夢を語る人が多く見られる一方、「最初は『夢とか語らなくちゃいけないのか』と思ったが、やっているうちにタイムラインになっていることに気づき、自分の考えの進化に気がついた」という人もいたのが印象的だった。


お昼休憩の後は、瞑想ワーク。目を閉じて呼吸に集中する。そこで佐宗さんのナレーションが入る。

『あなたはこれから天井を越えて上へ高く昇っていきます・・・大気を上がっていき、地球を越え、宇宙も越えてブラックホールへ。そこを抜けると、目の前には家が建っています。どんな家でしょうか? <中略> 机の上に置いてある手紙には何て書いてあるでしょうか?<中略> 家を出て目の前に広がっている風景はどんな風景でしょうか?・・・』

といった具合だ。この5分ほどの瞑想が終わると、それぞれそこで見た様子をスケッチしていく。それと合わせて、「もしも○○だったら(What if…)」という文(固定観念を意識的に崩したもの)を付箋に書き、自分のスケッチにそれを添えていく。

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「もしも付箋」を貼ったら、今度は再度ペアになって、自分のスケッチを見返した上でそこに自分が感じる「こだわり」を互いに引き出すこだわりインタビューの時間だ。ここまで来ると、自分のビジョンの輪郭がかなり明確に見え始め、冒頭で描いたビジョンスケッチよりも具象性を帯びた絵を描く人が多かった。

ここで一旦小休憩。そして休憩後は、ついに、1時間の最終製作の時間。ここまでやってきたワークを通じて個々の中に見えてきたビジョンを、自分らしい方法で表現するステップだ。

絵を描く人、自分の絵にひもや風船を添える人、レゴを器用に組み立てる人、光を作品に盛り込む人。16人の参加者が16通りの方法で試行錯誤するその姿は、真剣そのもの。

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ワークショップの最終段階は、展示会だ。一人一人が自分で創った作品を、タイトルと説明書きを添えて、会場の壁やテーブルの上に展示する。

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それを見てまわりながら、参加者は感想やコメントを付箋に書き出し、作品の近くの紙に貼っていく。さすが丸一日虫の眼でビジョンと向き合ってきただけあって、かなり細部まで注意したコメントが多く見られた。

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何人かの参加者が自分の作品について発表し、そこでワークショップの全行程が終了した。

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このワークショップで特徴的だったが、「自分自身の想い」に対する気づきがあった人が多かったということだろう。

自分の心の奥底に内在している「好き」や「憧れ」を複数の方法で可視化していき、直ぐに他人からフィードバックをもらう。その客観視を踏まえてさらにマイ・ビジョンの解像度を上げていく。その作業を、普段立ち止まって考えることの少ない「社会のあたりまえ」を意識的に崩す「あまのじゃくメガネ」をかけながら行う・・・

そこには、佐宗さんが長年の経験を持って打ち出した、極めてシンプルで直観的な自分との向き合い方があった。参加者の感想にも

「自分でも気づかなかった場所へ連れていってもらえた感じがした」

「『つまらない』『ふつう』『あたりまえ』と思われることやものについて、インタビューや視覚的表現を通して考えることで、気づけないことを気づけるようになった」

「妄想をイメージにアウトプットしたり、アウトプットしたイメージに対してインタビューで深掘りされることで、自分が潜在的にやりたいこと、重要としているものが見えて、自分が本当に欲しているのは、それだったのか!という気づきがありました」

といった声が多く、そこには「気づき」が共通していた。

一人一人が自らのアトリエを築き、その工房で手を動かし、自分と向き合う。イノベーションとは、きっとそういったアーティストとしての探求と、社会的な文脈をつなげるためのサイエンスという二つの川が交わるところで創発する、ビジョン化された妄想が根となって育っていくものなのだろう。

そんなことに気づかされたワークショップだった。

TEXT by SHUHEI TASHIRO


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