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恋愛茶屋 3月1日午後4時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

ーあーあ、ほんとにやんなっちゃうよなあ~

カウンターに座る大学生のスギタは、また大きくため息をついた。

ーマスター、ここってビールとかないんすか?
ーあったとしてもお出ししませんよ。スクーターでいらしたじゃないですか。
ー酒呑めるところに行けばよかった。。。
そう言いながらも、大きめにカットされたアップルパイをワシワシと食べている。

ー「ほかに好きなひとができたから別れたい」って、そんなはっきり言われたらどうしようもないっすよ、けど1年もつきあったのに。。。これまでの思い出とか俺の存在もふっとばすくらい、そいつの方がいいのかって。納得いかねー。。。そいつのどこがそんなにいいんだろう。。。

ー次の出会いを探した方がよろしいのではないでしょうか。
ーそんな冷たい。ここ恋バナ喫茶じゃないすか。
ー店の名前は「茶屋」ですよ。

店主もため息をつきたいような顔になっていた。

ーその相手の男のひとは、お知り合いですか。
ー学校いっしょで、友達の友達。
ー思い浮かべてみて、どうですか。
ーええ?
ーその方を思い浮かべてみて「あいつだったらしょうがないかも」と一瞬でも思ったら、次を探した方がいいと思います。

その言葉の後、フォークをくわえたまましばらく天井を見上げていたスギタは、だんだんうつむき始めた。

ー。。。マスター、ほかに何か食うものないですか。。。
ー今日はアップルパイしかないですよ。
ー大盛りカレーとか食いたい。。。

うつむいたまま、またアップルパイをワシワシと食べるスギタだった。

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