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競輪が好きだと、胸を張って言えるようになった【さすかるインターン生・佐藤一貴さんインタビュー】

2022年6月、福島県いわき市で産声をあげた「さすかる」。
さすかるは、地域活動において個別的になりがちな分野や領域に横串をさし、地域のさまざまなひと・もの・ことをかけ合わせ、新たな価値や文化を持続可能な形で構築していくことを目的に結成された編集チームです。

昨年夏、寺澤亜沙加・前野有咲が中心となり、さすかるの最初の事業として、領域横断型インターンシッププログラム「さすかるインターン」を実施しました。各地から7名のインターン生がいわきに集まり、8月〜9月の約1ヶ月半、各インターン先で自分と地域に向き合いながら活動を行いました。

初代さすかるインターン生の7名は、いわきで何を体験し、どんなことを感じたのか。インターン生一人ひとりに、「さすかるインターン」を通して得た学び、参加後の変化について伺ったインタビュー記事をご紹介します。

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今回紹介するのは、NORERU?インターン生の佐藤一貴さんです。いわき市平出身の佐藤さんは、「防潮堤」「競輪」の2つのテーマを軸に、いわき沿岸のサイクリングロード「いわき七浜海道」のリサーチや、いわき平競輪場でのツアーイベントを行いました。「競輪が好きだと、やっと胸を張っていえるようになったんです」と語る佐藤さんは、実況を通じて競輪を好きになる人を増やしたいと、インターン終了後もさまざまな活動を続けています。

NORERU?インターン生・佐藤一貴さん


「好き」を受け入れてみる

いわきに関わりがある若者が集まる「いわき若者会議」という団体のSNSで、さすかるインターンの情報を見つけました。私はもともと自転車が好きで、いわき出身の先輩と小名浜の工場夜景をめぐる散走イベントをやりたいねと、話していたタイミングでした。

後日、いわきに自転車好きな人が集まるコミュニティスペースがあると聞き、さっそくインターン先の一つ、自転車文化発信・交流拠点「NORERU?」に行ってみることに。自転車に興味はあったのですが、自転車を通じて何をやりたいかは明確に決まっていませんでした。NORERU?でコーディネーターの寺澤さんになぜ自転車が好きになったのかを聞かれた時に、ふと高校生の時に観た競輪を思い出しました。

いわき平競輪場

いわき市平には、いわき平競輪場があります。高校1年生の時に、ここで行われていた「第60回オールスター競輪」の決勝レースが偶然YouTubeに流れてきたので、何気なくクリックしてみたんです。スマホの画面にながれてきたのは、バンクを競輪選手がものすごい速さで走り抜ける姿、白熱したレースを伝えるアナウンサーの力強い実況でした。競輪場でくり広げられている「スポーツ競技」としての競輪に衝撃を受け、私は競輪にすっかりハマっていました。高校2年生の時には競輪場に足を運び、会場でレースを観たこともありました。

しかし、どうしても「競輪は賭け事だ」というイメージが先行してしまい、学校の先生や友達からは競輪のおもしろさをあまり理解してもらえませんでした。自分が好きだった競輪は人に誇れるようなものではないのだと、次第に競輪の趣味を人に隠すようになっていきましたね。

この場でだったら話せるかもしれないとNORERU?のスタッフのみなさんに競輪の話をしたところ、返ってきたのは予想だにしないリアクションでした。

「大学生で競輪好きだなんておもしろいね!」
これまで隠していた自分の競輪愛をはじめて受け入れてもらえた瞬間でした。いわきだったら、自分の好きな競輪でなにかできるかもしれないと思い、さすかるインターンへの参加を決めました。


自分の表現に向き合う

インターンでは、「防潮堤」と「競輪」の2つのテーマで活動を行いました。競輪ともうひとつ、防潮堤をテーマにしたのは、自然・災害との向き合い方をもう一度考えたいと思ったからです。

震災後、いわきの海沿いには「防災」を目的に防潮堤が建てられ、その上に新たにサイクリングロード「いわき七浜海道」が整備されました。海と陸とが隔てられた景色をみて感じたのは、コンクリートへの違和感。防潮堤や防災緑地があること、ハードを整備することだけが「防災」ではない。自転車に乗って海辺を走ることで、自分が抱いていた違和感に向き合えるのではないかと考えました。

八大龍王のリサーチの様子

七浜海道の道中に祀られている「八大龍王」をたよりにめぐるのがよいというアドバイスをもらい、自転車に乗って各地の龍王をめぐりました。これまでは「防潮堤=七浜海道」というイメージを抱いていましたが、8つの龍王をすべてめぐったことで捉え方が変わりました。七浜海道は、いわきの海にまつわる祈りや伝説に触れることができる道でもあったのだと。気づきと共に、2つの疑問も浮かんできました。

1つは、七浜海道を走るほとんどのサイクリストが龍王を知らないのではないかということ。もう1つは七浜海道に避難の案内が見当たらないため、もし地震がきてしまったら避難するのは難しいのではないかということ。この2つについて、インターン期間中にアクションすることはできませんでしたが、サイクリストの避難経路については、七浜海道を走行中のサイクリストを想定した「いわき市総合防災訓練」という企画につながり、そこで実際に体験することができました。

はじめての競輪ツアー。佐藤さんは手作りの紙芝居でのぞみました

防潮堤のリサーチと同時に進めていた競輪企画は、競輪を知らない人に競輪の楽しみ方を伝える「はじめての競輪ツアー」を実施しました。当日は、約10名の方にお越しいただき、いわき平競輪場を会場に、手作りの紙芝居で「競輪の魅力」をレクチャーしました。

ツアーの参加者との集合写真

私はもともとやりたいことが明確にあったため、参考情報を教えてもらったり、地域のプレイヤーの方々をつなげていただく機会が多かったと思います。その分、見聞きした情報、体験から自分なりにどうアウトプットしていくか、表現していくのかを考えるのが難しかったですね。今振り返ってみると、さまざまなものに触れたからこそ自分のやりたいことをさらに深められたのではないかと思います。


その土地で生きること

競輪が好きだと、やっと胸を張っていえるようになったんです。インターン終了後も、東京オリンピックでトラック競技の会場になった伊豆ベレドロームの事務局にあたる「サイクルスポーツセンター」でアルバイトを行ったり、いわきで3回目となる「競輪ツアー」を、FARO とのコラボで開催したりと、いわきや自転車をテーマにした活動を引き続き行っています。

小名浜の工場夜景をめぐる、夜景散走
3回目の開催となった競輪ツアー

今の時代、高校生のうちから通学でロードバイクに乗っている人も多いので、高校生にも自転車競技の魅力を知ってもらえたら嬉しいですね。そして、今度は私が競技の魅力を伝えていけるように、競輪やボートレースといった公営競技に関わりつつ、実況アナウンサーとして修行していく予定です。

将来どんな仕事をするにせよ、どこかの土地で生きていかなければならないと思います。さすかるインターンは、自分のやりたいことに挑戦するのはもちろん、地域や土地への向き合い方を考えるインターンでもありました。そういう意味では、「まちづくり」や「地方」に関心がある人以外でも、なにかしらの気づきを持ち返ってもらえるのでないかと思います。さすかるを機にできたいわきでのつながりをいかし、これからも何かしらの形でかかわっていきたいですね。