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カウボーイは今でもいるのか

こんにちは、さちこです。普段は、外国の方に第二言語としての日本語を教えています。どうぞよろしくお願いします。

幼い頃、夜に目が覚めて階下に降りると、
父母が肩を並べてテレビで放映されている映画に見入っていた。
自分もその横に並んで観ていると、

「シェーン、カムバーック!!」

という、今でも忘れられない台詞で映画が終わった。

ラストのセリフは覚えているのに、
途中から観たはずのストーリーは全く覚えていない。幼かったせいか。
ただ、初めて見た特徴的な帽子や服装、ブーツ、そして馬に乗る姿は印象に残り続けた。

それから、うん十年経ち、
日本からカナダへ「カウボーイ」になり行った方の存在を知り、
件の興味が掘り起こされ、
その方が書かれた御本『カウボーイ・サマー 800エイカーの仕事場で』を
読んでみたくなった。

すぐに購入しても良かったのであるが、現在両親が住んでいる大阪で、
著者である前田将多さんがスナワチというレザー専門店を開いていて、
そちらに伺うとサイン入りで御本が購入できると知り、できるならそちらで購入したいと機会を待つことにした。

帰省までの間、呼び起こされてしまったカウボーイへの興味を持て余してしまい、
「ハートランド物語」という牧場を舞台としたドラマをNetflixで見始めた。

(今回のためにNetflixを調べたら、シーズン1〜6が消えてしまっていた。これではストーリーの核がわからなくなってしまうのではないだろうか。とても残念だ)

ドラマ「ハートランド物語」は、
ローレン・ブルックの「ハートランド物語」を原作としているという。

原作ではアメリカのバージニア州が舞台だが、
ドラマではカナダのアルバータ州が舞台となっている。
『カウボーイ・サマー』の著者である前田さんがカウボーイになりに行った
サスカチュワン州は、アルバータ州の隣にある。
ドラマを見ていると、画面いっぱいに広がる四季折々の広大で美しい景色に、時折ハッと息を呑んだ。春の一面の緑と花々の可憐な色、夏の川の流れの清涼さや青い空、山々の深い緑、秋の紅葉の色、冬の荒涼と広がる枯れ地と雪、ロッキー山脈の深い森などなど。
前田さんもこのような景色の中でカウボーイになられたのだろうかと考えた。

ドラマを通して牧場を営む人々の、
馬との関わり方ーどのようにして野生馬から人間の相棒になってもらうのか等ー、
ロデオという職業ー日々のトレーニングと命の危険と誇り、興行という側面等ー、
カウボーイのこだわりなど、様々なことの一端を初めて知った。
ちなみにネット記事で、「ハートランド物語」がカナダ版「渡る世間は鬼ばかり」と言われていると知り、爆笑しつつ納得した。確かに家族の物語である。泉ピン子さんは出てこないが。

そして、ようよう『カウボーイ・サマー』をサイン入りで手にし、読み進めた。
ドラマは何かが起こらないと物語が進まない。
『カウボーイ・サマー』では、ドラマでは描かれることが少ない、カウボーイの日常が丹念に描かれていた。
前田さんが経験されたカウボーイの仕事の一端は、ドラマでも見ることができる。
ただ、その作業が実際に日々どのぐらいの時間をかけて、どんなことに心を配って、何のために行われるのかなど、詳しいことはわからないことが多い。

例えばフェンスの修理は、ドラマだと破れたフェンスのほんの手前から馬に乗って近づいてくるカットから始まり、2人で会話をしながら道具を持ってフェンスを修理する様子がほんの数分流れて終わる。『カウボーイ・サマー』を読むまで、恥ずかしながら長閑でなんてことない作業のように見えていた。『カウボーイ・サマー』には、次のようにある

(前略)等間隔に打たれた有刺鉄線を張って、家畜の移動を制限している。しかし、木は朽ちるし、ワイヤーは錆びたり、腐ってキレたりするから、都度修理が必要になるのだ。カウボーイの基本的な仕事と言える。
 イーグルスの名曲『デスペラード』の中で、"You've been out riding fences for so long now."という歌詞がある。これは、直訳すると「君は長い間、馬に乗ってフェンスのチェックをして回っている」という意味だ。今ではフェンス修理はピックアップトラックで行くが、昔は馬に乗って何日もかけてフェンスを見て回ったのだ。
 それはひどく単調で、孤独で、時に危険な仕事であった。だから、この歌詞は「長い間、孤独でいる」ということを婉曲に表現している。 

前田将多『カウボーイ・サマー 800エイカーの仕事場で』p.52

前田さんがカウボーイをなさった79日間について一日ずつ記録された『カウボーイ・サマー』を読むと、
ドラマで知った馬との関わりやロデオという職業、カウボーイの誇りなどが、
どのようにして育まれたのか、充足されるような気がした。

(お読みくださり、ありがとうございました)

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