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ラーメン(テーマ醤油)

<レシピ完全公開>

湯浅醤油生一本黒豆

手揉み自家製麺
真鯛、戸田塩
本鰹枯れ節、本鰹厚削り、利尻昆布
沼津煮干、どんこ椎茸
鶏ガラ、豚ガラ、鶏脂
香味野菜

スイスチャード、白葱
おかひじき、京菜若芽
ラディッシュ、柚子
アスペルジュブラン

本みりん、干し海老、日本酒、大豆

丹波産の黒豆を使用し、古式製法で二年熟成仕込みを行った最高級醤油『生一本黒豆』・・・この嘘偽りなく最高級であるブランド醤油の魅力を、いかに正確に、いかに美しく表現するか、そしてその先には何よりも身近でありながら、何よりも至高たる日本文化「醤油」というものの素晴らしさを誇りに思って欲しいという作り手のメッセージが伝わってくる一杯でありました。
 
この作品は、提供された直後に最初のサプライズを迎えます。
店主様によって、おちょこ一杯分、あるいはそれに満たないほどの醤油「生一本黒豆」がスープに目の前で注がれるのです。
 
その黒く輝く液体はゆっくりゆっくりとその色彩を透明感あふれるスープに重ねていき、スープに淡い彩りを浮かびあげます。
その様子は、時間の流れをゆるやなものに感じさせ、そこに心地よい癒しを誘います。
直前まで期待感にドキドキしていた私の興奮は、優しく頭を撫でられたかのようにしなやかに和らげられ、この一杯に落ち着いて対峙する環境が整えられます。
 
まずはスープから頂きました。
口当たりに感じる醤油「生一本黒豆」の気高き表情に、身震いするような感動を覚え、鳥肌が立ちます。
相当に高いレベルを期待していて、それをさらっと超えられた時の何とも言えない感覚・・・、これは凄い醤油だと確信させられた瞬間です。
 
この作品を未食の方の中には、私が醤油「生一本黒豆」の持つブランド力やその超高額なる価値にその評価を流されているのだと疑う方もいるのかもしれません。
しかし私は、間違いなくこう感じました。
この醤油のクオリティは、今まで味わったことのない崇高さを持っていると・・・。
 
舌先に気品あふれる酸味がすっと広がります。
その酸味の深みある色気にはただただ驚かされてしまいます。
そして次の瞬間、圧倒的に上品で滑らかなる醤油の黒いコクがするっと滑り落ちるように舌を撫で上げ、その奥で旨味をコツリと浮き上げるのです。
 
素晴らしいコクの質感です。
気品に溢れ、すっきりとしていながら、魅力が複雑に織り重ねられています。
醤油のもつ様々な風味が、繊細さと透明感に満たされた魅力的な色彩を一つに束ねられるかの如く伸びやかにスマートに表現されています。
 
そしてそれが口の中に、口の奥にと香り立っていくその様は、感動的以外の何ものでもないのです。
 
強烈に美味しい醤油でありました。
醤油「生一本黒豆」という、世界が認めるブランド力を、露骨なまでに見せつけられた思いであります。
 
この醤油には熟成感が生み出す複雑さと、滑らかさがあり、一切の雑多さや、意味のない豊満さも存在していません。
その味わいは神秘的とすら思えるほどに、醤油でありながら、同時に醤油らしい個性を持ちながら、非日常の美しさを主張してみせたのです。
  
―― これは素晴らしい!!!!
 
そしてもちろんこの作品の素晴らしさは、最高級の醤油を使っただけに留まりません。
これぞこのお店の淡麗系という、唯一無二のスープの美しさがこれに続きます。
 
醤油の上質なる酸味が胸にすっと迫る中、鶏の風味がゆったりとふくよかさを増していき、さらには豚の味わいがここに柔らかに浮かび上がると、その表情が優しく醤油の個性へと溶け込んでいきます。
 
醤油の凛としたその性格に対し、鶏、豚の愛おしくも柔らかな表情が、見事な対比を完成させます。
しかし一方では双方の風味が淀みない個性と大人の余裕を思わす真の贅沢感を持っているため、反発することなく互いの個性を優しく支えあうようにも感じられるのです。
 
後味には沼津煮干の繊細な旨味が舌にじわりと広がります。
潮感を強めずに、魚本来の風味が細やかに散りばめられるように感じられるその上品さに、なるほどこのお店らしい魚介出汁の上質なる味わいを覚えさせられます。
 
そしてそこに鰹節由来でしょうか、魚の香ばしき甘味、旨味がふわりと口の中に送り届けられ、この個性が醤油と鶏、豚の個性を調和に導き、官能的とも思える一体感ありつつも表情豊かな味わいを完成させるのです。
 
更には余韻、そしてフィニッシュも完璧です。
醤油の味わいがゆったりと喉を滑り落ちていく直前、その醤油のふくよかさに昆布の上等なる風味の存在を覚えさせられました。
再びスープを頂き、その味わいを振り返ると、このスープの一体感は昆布が支えとなっているようにも感じられます。
しかしあまりにも滑らかな調和であるために、最初は昆布の存在に気付けなかったのです。
 
素晴らしい調和力ですね。
そして複雑ながらも、完成されたスープでもあります。
意識を注いで味わえば味わう程に、細やかかつ丁寧、全てに配慮が行き届いたその内容に気付かされます。
最高峰と評されてきたこのお店のスープの実力は、醤油「生一本黒豆」の秀逸さにもしっかりと肩を並べる、まさに日本の誇りと思える内容であったのです。
 
そしてその素晴らしさはスープだけに終わりません。
自家製麺の素晴らしさも、圧巻の内容でありました。

今回の自家製麺は平打ち麺でした。
そしてこの麺が、これ程美味しい麺には過去に出会っていないと思えるほどの素晴らしさであったのです。
 
口に含めば、その柔らかな質感が舌にゆったりと自重を携え、そこに小麦の味わいを温かく伝えます。
舌触りの柔らかさと味わいの柔らかさの見事なまでの調和が堪りません。
麺の魅力が、気負いなくすっと舌に溶け込んでくるかのようにも思えました。
 
そしてさらに驚かされるのは、醤油「生一本黒豆」が上からふわりと絡んだ部分の麺を頂いた時の美味しさにあります。
口当たりに醤油「生一本黒豆」の味わいがキリッとその上質さを主張し、香り豊かにその味わいを舌に躍らせます。
麺をすすると、麺の穀物感が舌の上を滑らかに流れゆき、麺の温かな味わいが折り重ねられていきます。
この味わいの対比、そして展開の起伏感が実に刺激的で心地よく、そのダイナミズムある旨味の演出によって、胸に迫るような喜びが誘われていくのです。
この麺を頂く最初の一口の感動は、まさに最高のものでありました。
ラーメンとしてだけではなく、ここ一年に頂いた料理の中でも最高の一瞬だったと思える程に、眩い美味しさを楽しむことができたのです。
 
そしてトッピングです。
この作品が提供されるまでの時間、ランチョンマットに記されたこの作品のコンセプトを読んでいたのですが、すでにこの時からこの作品が表現しようとする物語はスタートしていたのだと気付かされました。
 
―― この作品・・・スープ、麺、トッピング、そして醤油の表現力、全てにおいて完璧さを極めています!!!!
 
この作品が提供する創造的なトッピングの数々・・・、その一つひとつが「これぞ美食!!」という佇まいでありました。

まずは日本文化の象徴であり、日本の食材を代表する縁起モノが鎮座します。
そうです、真鯛です。
しかも真鯛のポワレであります。
そしてその美味しさは、想像を絶するものであったのです。
 
焼き魚として、まさに期待通り、いや期待を過ぎる香ばしさと旨味、食感のコントラストの共演を楽しませ、同時にラーメンのスープに雅やかな情景を描きつつ、その上質なる透明感に幾ばくかの淀みすら与えません。
パリッと焼き上がった皮の旨味、そこから柔らかに舌に溶け込む身の味わいは、一口一口に劇的な演出を施したかのように刺激的な美味しさを主張します。
 
真鯛の上品さは勿論、真鯛がこれほど芳醇な旨味を持っていたと言うことに、驚かされます。
口溶け感を覚えさせる焼き魚、旨味の滑らかさに驚かされる焼き魚・・・日本料理を代表する魚である鯛が「ポワレ」というフレンチの手法によって新たなる魅力に開眼し、そこに日本文化の象徴である醤油の味わいが溶け込んでいくと、その旨味をさらなる高みへと誘います。
 
その美食然とした展開・・・、これがラーメンのトッピングとして提供される贅沢感に驚くと同時に、その秀逸さがむしろこの作品の一体感を築いてしまう程に、スープ、麺の贅沢感もまた完成されているという事実に胸を打たれてしまいます。
 
アスペルジュブラン(ホワイトアスパラ)のトッピングにも心から驚かされました。
ホワイトアスパラと聞いた時、正直言いますと「ちょっと苦手かもしれない」と不安にもなりました。
しかしこれが、予想を覆して感動的に美味!!
これは私にとって生まれて初めてホワイトアスパラを美味しいと思った瞬間だったかもしれません。
 
さらには視界にきらりと眩しさを誘うラディッシュが、この作品に欧州の風を呼び込みます。
目にも眩しく、そして斬新なトッピングの数々に、気持ちが高揚させられます。
そしてこの時、このお店のマジックに気付いたのです。
 
このラーメンが提供される前、ランチョンマットとして一枚の紙が用意されました。
そのランチョンマットに記されたのは、ラーメン、そして醤油が世界で評価されていること、そして醤油「生一本黒豆」が欧州シェフにも愛用され、さらにはこの醤油がモンドセレクション9年連続最高金賞を受賞しているという内容であります。
 
この一枚のランチョンマットは、食べる者にラーメンや醤油が日本文化を代表するものであると意識づけます。
そしてそれらが世界の文化と日本の文化を繋ぐ架け橋の役割を担っていることに気付かせます。
しかもこのアプローチは、この作品が描く物語をより美しいものへと導くための計算されつくしたプロローグであったのです。
 
ラーメンと醤油が世界で認められる料理、食材となっていることを言葉として教えてくれたプロローグに対し、本編である実食ではラーメンや醤油がポワレ、ホワイトアスパラ、さらにはスイスチャードという西洋の素材を調和感で受け止めるほどに包容力ある存在であることが証明されます。
 
ここにこのお店のメッセージがあるのです。
この作品はラーメンという料理を通じて、どんな高級料理よりも高らかに醤油という日本文化の素晴らしさを教えてくれているのです。
 
スイスチャードの味わいにも感動しました。
スイスチャードとは、ホウレンソウの仲間となる葉物野菜でありますが、今回使用されている西洋種?では非日常にも思えるカラフルな色彩と、パリッとした張りのある質感が個性的を主張しています。
そしてその華やかな容姿に戸惑いながらそれを頂くと、その張りのある葉の間から、醤油「生一本黒豆」の味わいがパッと溢れ出てくるように感じられます。
スイスチャードの張りのある葉物ならでは野性味と清涼感に対し、醤油「生一本黒豆」が導くダイナミズム、そして起伏溢れる香味、キリッとした風味の表現が素晴らしく、その気高さが胸に迫ります。
そしてこの時、改めてこの醤油の上等さ、美しさを思い知らされるのです。
 
麺をすすり、スープを味わい、トッピングの妙技に酔う・・・、スープの最後の一滴まで、愛おしさが増していくように感じられる一杯であります。
これ以上ない感動を随所に散りばめながら、その一つ一つが作り手の描く物語を完結させるための伏線としてまるで数学的であるかのように無駄なく配列され、さらにはこの物語を文学的であるかのように情緒豊かに表現されることで心への余韻を広く、広く、広げていくのです。
 
しかし・・・、この作品が与える衝撃は、スープの最後の一滴を飲み終えた瞬間、さらなるステージへと進化するのです。 
料理提供前に用意されたランチョンマットにはこう記されていました。
 
―― 食べ終わりましたら少々お待ち下さい さらなる醤油の魅力をご紹介しましょう・・・と。
 
そして食後に用意されたのが写真の「コレ」であります。
そう、誰がどう見ても明らかにデザートの「コレ」であります。

バニラアイスクリームのしっとりとした口どけ感の中に、ピスタチオの香ばしさがふわりと差し込まれます。
そこにレモンの味わいがっ上品にその魅力溢れる香味を謳い上げます。
そこに添えられたムースは、卵のふくよかさ、そして砂糖の愛くるしい甘味を感じさせ、和えられた醤油がその香ばしさによってムースの味わいに軽やかな肉感を導きます。
醤油の香ばしさ、そして卵、砂糖の味わいはカラメルプリンを思い出させ、なるほどバニラアイスクリームに温かなコントラストを描き、カラフルで華やかな味わいを楽しませます。
 
中からはイチゴ、キウイの酸味が小気味よく顔を出し、意外なほどにその味わいを醤油と馴染ませます。
これも再仕込み醤油の伸びやかな余韻の色気が、しなやかにフルーツの香味を受け止めればこそでありましょう。
 
そしてカップの底を臨むと、最後の最後にさらなるサプライズが待っています。
そうです、そこには「らぁ麺」が入っていたのです。
そしてこの構成が、意外にも一つのデザートとして完成していることに驚かされるのです。
 
麺のしっかりとした食感はタルト生地に支えられたデザートのようでもあり、しかしタルトにはない滑らかな舌触りを表現します。
そしてこの麺は、醤油という力強い風味を柔らかに支え、デザート全体の重量感にバランスを導き、フルーツの個性を独立させないのです。
 
けして面白さや奇抜さだけに終わらない内容にこのデザートは仕立てられていました。
私は「舌の優れた料理人の作品は絶対に裏切らない」と思っているのですが、この作品はまさにその証明と言えるものになったと思います。
 
もし私がこの作品を全く知らないお店で頂いたとしても、この作品を生み出した料理人の才能に可能性を感じ、この作品を生み出した料理人の作品の全てをらーてみたいと思ったことでしょう。
 
今回紹介した〆のアレンジは、醤油をテーマとした作品づくりにおけるエピローグとして、醤油という日本が誇るべき食材へのリスペクトを誘ってくれました。
美味しいだけで終わらない、一つ先にある感動を提供する一杯として、この作品は至高の極みに到達しているようにも思えます。しょう
 
塩をテーマとして前作の素晴らしさに、それを超えることはおよそ不可能かとも思いながらの実食でしたが、今回の醤油をテーマとした一杯もまた完璧すぎる程に完璧な美味しさと芸術性を有しています。
 
日本の食文化って凄い!!
ラーメンって凄い!!
感動という、素晴らしい余韻の中で、この一杯を食べ終えることができました。
御馳走様です!!!!

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