『老人と海』の「老人」は何歳なのだろうか
週末図書館をぶらぶらしてて、なんとなく手に取った本。
ヘミングウェイの「老人と海」。
そういえば学生の時、読書感想文を書いた記憶がよみがえりました。
でも、何を書いたかさっぱり思い出せず。。
連休だったこともあり、なんとなくもう一度読んでみようかなと。
家の本棚の奥の方からは新潮文庫の本(福田恆存訳)が出てきましたが、今回は光文社文庫の新訳の方で読んでみることに。
老人と大型カジキとの格闘、そしてサメとの死闘。
老人が海上でひとり格闘する最中の言葉、
こんな言葉に象徴されるように、様々な生きる知恵もさることながらその老人の「闘志」や、生きる「意志」の強さを感じました。
読みながら、ふと「この主人公の老人はいったい何歳なんだろうか」という疑問が湧きました。
本書の冒頭、1ページ目の書き出しは
作品中では、特に何歳か、どのくらいの世代かというものは表現されていないような。
「老人」とはいえ、一人で海上で数日に渡ってカジキ、サメとの格闘を繰り広げた人なので、そんなに高齢ではないのではないか。
とは言え、「老人」(The Old man)と表現している。
そもそも、「老人」ってどのくらい年齢を言うのだろうか?
日本の法令上では様々な老人、高齢者、お年寄りの定義が存在しているようです。
「老人福祉法」では65歳以上。
「高齢者医療確保法」では65歳以上を高齢者とした上で、前期高齢者を65-74歳、後期高齢者を75歳以上としている。
「改正道路交通法」では70歳以上。
行政上の目的によって異なっているもものの概ね65歳が基準のよう。
もっとも、「法令」上は「高齢者」という表現がほとんどで、「老人」という言葉はあまり見受けられず。
「高齢者と海」「お年寄りと海」「おじいさんと海」という表現でも、意味が通じて間違いでないものの、味気なく頼りない。
また、そんな言葉では、なんだか別のストーリー、ほのぼのとした情景が浮かんでしまう。
やはり「老人」の表現がしっくりくる。
ちなみに「老人と海」が出版されたのは1952年。映画化されたのは1958年。
この映画の主役スペンサー・トレーシーは1958年公開時の年齢は58歳(彼は1900年生まれ)。
国立社会保障・人口問題研究所調査の統計データによると、米国の1958年時の平均寿命は66歳。
現代の感覚で58歳での老人役は、結構若すぎるんじゃないかとも思いますが、当時の平均寿命が66歳の状況では、それほど違和感のない状況だったのかもしれない。
同研究所の統計データによると2020年の米国平均寿命(男子)は76歳に上昇している。ちなみに、日本の2020年の平均寿命(男子)は81歳。
となると、現代における「老人と海」の老人役は70歳前後の人ということであろうか。
また、実際のところ、日本の漁業従事者の年齢構成はどうなっているのだろうかという疑問も湧き、「漁業センサス」という統計データをみてみました。
「漁業センサス」は5年の一度の調査のようですが、2018年調査データを見ると、気になる日本の現状が浮かび上がってきました。
2018年時点での日本の漁業就労者数(自営のみ)は89,432名。その中で一番構成比が高った年齢層は75歳以上の層で21%の18,543名。
次いで65~69歳17%、そして70~74歳14%と、前期高齢者以上の構成比が合計で52%と過半を占めているという状況。
高齢の方々で漁業が支えれられている現状。
日本の高齢化社会の一面を垣間見つつ、一方で行政管理上「高齢者」という概念でひとくくりにされず、ヘミングウェイの「老人と海」に出てくるような「老人」の漁師が、ホントは数多くいらっしゃるのではないか。
そんな気もしてきました。
「老人」はそのまま読めば「老いた人」。
しかし、「老」という漢字の「老」の形、佇まいからは、「高齢者」というものとは違った何とも言えない雰囲気が漂ってくる。
この「老」には、単に年齢を重ねたという「高齢」ということだけでなく、老子、老師、老練、老舗、老酒、老獪、、、というように、そこに熟成された深み、凄みがある。
そして、深く刻まれた皺の奥底には、置かれた状況に正面を向いて荒々しく向かっていく瑞々しさが隠されているような。
ヘミングウェイの「老人と海」の主人公にはそんな「老」を感じます。
さて、現代において「老人と海」をリメイクした場合、60代、70代の日本の俳優、あるいはハリウッド俳優の中で、誰がいい「老」の雰囲気を醸し出すのだろうか、、あれこれと俳優を思い浮かべた休日の午後でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?