見出し画像

67歳デッドライン

昨年、どうにもやるせない気持ちになることがあって、どこにもぶちまけられないのでここに書いておく。

きっかけ

某家計簿アプリを愛用している。起動するたびに毎回のように「無料家計相談しませんか!」とバナーが出てくる。「相談後、収支が3万改善!」とも書いてある。あまりにうるさいので、まあタダならいいかと申し込んでみた。

ちょうど会社勤めを始めて半年経過し、今後も同じぐらいの収入が得られる見込みがあったので、実家の母の介護のために車を買いたいとか、ましな部屋に引っ越したいとか、漠然と考えていた。相談してみようと思った。
今から半年ほど前のことだ。

家計相談の前に前置きがあった

家計相談の日。Zoom接続した相手のファイナンシャルアドバイサー(以下FA)の男性は、硬そうな信頼できそうな雰囲気の方だった。こちらはカメラオフにさせてもらった。
「最初に、弊社のサービスを紹介させて下さい」と言う。そうか無料で相談する代わりに自社の宣伝をするわけか。それぐらいないとね。
聞き流す気満々で、裏で別作業をしていると
「あの、聞いてます?」
と突然言われて、慌てた。聞いていなかったわけではないけど、すこしまじめに(わざとらしく)相槌を打つようにした。
その会社は、依頼人と証券会社の仲立ちをして、代理で取引をするみたいな話だった。わたしは自分で株式投資をしたいのであまり必要ないなと思っていた。そういうサービスがあるという紹介のみで、無理に利用を強要するわけではなかったのでちょっと安心した。
もしも無理に勧めてくるようだったら速攻Zoomを切って家計簿サービスにクレーム入れようと思っていた。

いよいよ家計診断

そしていよいよ、わたしのデータを見ていくことになった。
家計簿ソフトのデータはFAさんの方にある程度見えているらしいが、家計簿ソフトに入れていない情報などを会話で補足していく。

「食費は月平均6万です。これであってますか?」
「は、はい…」
わたしはバカみたいに食費が多い。これ、削減しなさいと言われるだろうなと首をすくめた。
「〇〇費は、年間でこれだけ、月平均これぐらいです。これでよろしいですか?」
「えっ、そんなに使ってません!!」
FAさんから伝えられる金額と、わたしの家計簿ソフトから見える数字がどうも違う。
「しかし、家計簿ソフトのデータとしてはこの金額なんです」
FAさんが困ったように言う。
「そうなんですか…おかしいな。じゃあ、その金額で」
「では次に△△費です。こちらは月平均〇万です」
「えっ、そんなに使ってな…えええ。おっかしいなぁ」
「しかし、家計簿ソフトのデータとしてはこの金額なんです」
また同じ言葉を繰り返す。FAさんの表情がこころなしかイライラしてきたように見えた。

なかなか、金額に納得がいかない。なんで?と家計簿アプリの数字を見つめるが、FAさんのあきれ顔を見て、すいません、すいませんと首をすくめる。
多分こういうしょうもない人の相談をFAさんはたくさん受けているのだろうなぁ。
支出だけではなく、預貯金、株式など資産についても確認していった。

診断が出た

「それでは、いま確認したデータをこちらのソフトに入力していきます。最終確認です、よろしいですか」
と、画面を見せられる。はい、とうなずいた。顔は見せてないから声だけだが。

「…こちらになるんですが…」
無表情と重苦しい顔との中間のような顔で、FAさんは画面を共有した。
「このように、このままですと、資産が65歳で尽きてしまうんですね」
「は、はあ…」
決して楽な暮らしはできないだろうと思ってはいたが、65歳で資産が尽きるとは思わなかった。貧困を脱したと思っていたが、この結果は…「車を買いたい」「引っ越したい」などと、とてもじゃないけど言い出せる雰囲気ではなくなってきた。

沈黙が流れた。
FAさんが提案した。
「たとえば預貯金もすべて、年間〇%で運用した場合についても考えてみますか?」
「は、はい!」
FAさんの態度が若干投げやりな感じだったのが一瞬気になった。たしかに資産の多くが預貯金だから、それをちゃんと運用すれば希望が?

「(画面リフレッシュ)だとしても、資産は67歳で尽きてしまいます」

「はあ」
と、言うしかなかった。
「ですので、なんとか…考えないといけないですね…」
FAさんは無表情のまま淡々と告げる。

結果のグラフ、まんまシェアはダメらしいので自分で書き直したもの

なにをどう支出を立て直していったらいいかとか、そんな話はFAさんからは出なかった。
わたしは慌ててなにか言わねばと焦った。
「あー、食費が、多いので、ちょっと減らしたほうがいいってことですかね?」
「そうですねぇ」
「収入もなんとかしてもっと増やさないといけないですかね?」
「そうですねぇ」

FAさんの受け答えが平板になってきた。「こいつは客にならねー貧乏人だなめんどくさいはやくおわろう」という雰囲気を感じてしまったのは、わたしが卑屈になりすぎていただろうか。

「家計改善したら、また相談してください」
と言われてZoomは切れた。

わははは、は。
67歳になったら死ぬしかないらしい。

その後

結局この相談をしてから、「3万円支出が改善!」などということはまったくなかった。おそらく食費を半分に減らしたって、67歳が70歳や80歳になることはないだろう。
相談する前より「生きている今のうちに楽しんでしまえ!金使ってしまえ!」という考えに変わってしまった気がする。

そして、そうこうしているうちに、わたしは無職になってしまった。
いまなら、67歳でなくあと数年で資産は尽きるという結果がでるんじゃないだろうか。えー、まだ生きたいなぁ。

実際は死なないだろうけどね。
末井昭さんの本を読むと、負債の感覚が良く分からなくなってくる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?