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やってしまった……

さきほど、歯医者に行ってきました。
診察室しんさつしつに呼ばれ、スリッパを脱いで診察台に乗ると、歯科助手さんが、私が脱いだスリッパを、じっと見ている。
もしかして、邪魔な所に置いただろうかと、私は少し左にスリッパをずらした。それでも、歯科助手さんは、そのスリッパを気にしている。
どうしたんだろう、と思っていると、こう言われた。
「これ、トイレのスリッパなんです」


やってしまった……


なぜ私はトイレのスリッパをいたまま診察室に入ってしまったのか。

この歯医者には入口にスリッパの出る機械が置いていて、ボタンを押すと、殺菌されたスリッパが出て来るしくみになっている。しかし、ボタンを何回押しても、スリッパが出てこない。しかたがないので、私は靴下のまま入った。受付のところには、おばあさんが立っていて、受付の人としゃべっている。私は診察券を渡し、トイレに入った。そしてトイレのスリッパを履いたまま、物顔ものがおでトイレを出てきてしまったのだ。
おばあさんは、まだ受付の人と話している。入れ歯安定剤の話だ。
おばあさんのすぐ隣には、熱を測る機械が置いてある。おばあさんがいるので、私は熱をはかれないでいた。熱がないのは自分の感覚でわかってはいるが、受け付けのお姉さんに、熱がないことを証明しょうめいせねば。私はそのことで、頭がいっぱいになった。ようやくおばあさんがいなくなった。ちらっと、受け付けのお姉さんが、私の方を見た。受け付けのお姉さんも、私に熱を測って欲しがっている。その視線で、私は確信かくしんした。私はおもむろに立ち上がり、熱を測る機械の元に向かった。それと同時にお姉さんは「柿本さん、お熱測ってください」と言った。やっぱり。
36.1。
無事私は熱を測り終わり、待合室のソファーに戻った。
よし。これで、完璧かんぺきだ。

しかし、私はこの時点で、完璧ではなかったのである。私の足には、トイレのスリッパが、履かれていたのだから。

清潔せいけつな診察室に、トイレの菌を持ち込んでしまった……

私は、はげしく後悔した。
歯科の皆様、すみません。