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駐妻が見た中国㊿中国「ゆとり教育」導入の衝撃

2022.02.09by 岡本 聡子

Hanakoママwebリニューアルにともない、私が取材・執筆した記事を、関係者の許諾を得て、こちらに転載しています。

2018年より中国・広州に駐在した、6歳児ママです。独身時代は上海で暮らしたことがありますが、現地で子育てしてみると驚きと発見の連続(2021年本帰国)。
中国の子ども達は、小さい頃から大学受験のために長時間勉強します。強いプレッシャーや教育費負担が社会問題化していましたが、政府が突然、教育改革をはじめました。

大学入試で激しい競争やプレッシャーに苦しむ親子

中国は、日本とは比べものにならないほどの競争社会。受験、就職、結婚、不動産購入と生活の様々な場面で厳しい競争が存在します。

なかでも一生を決める「高考(ガオカオ)」と呼ばれる大学入試を目指す競争は、し烈です。
以前、中国人から「中国の小学生は遊ばないよ、遊ぶ時間はないから」と教えられ、ある小学生の1週間の予定を聞きましたが、確かに勉強と習い事でびっしりでした。

第㉔回 「中国の小学生は遊ばない?!~ある小学生の一週間~」

都市部の小中学生が宿題に費やす時間は、1日平均2.82時間(注1)。中国の小学校は低学年でも7時限まであり、下校時間は17時前後です。そこから塾に行く場合もあり、それから学校の宿題をして、親が内容をチェックします。眠りにつくのは深夜になりがち。

子どもが宿題を終えられない、間違いが多いなどは、親の責任だと考えられています。中国人に聞くと、勉強が原因の親子間のけんかが絶えず、信頼関係を損なうことも多いとか。

勉強のために、平日は中学生から寮に入る場合も多いそう。夕飯後、22時近くまで自習を行います。高考が近づくと、零時をすぎても寮で全員自習。

ちなみに勉学の妨げになるので、中国の学校では恋愛は禁止です。交際がばれると、最悪の場合、退学。疑いがある時点で親が学校に呼び出されます。日本のような部活動はほとんどありません。

話を戻しましょう。こうして、親や社会からのプレッシャーに押しつぶされ、心を病み、自殺する子ども達の増加が大きな社会問題になりました。なかには小学生の自殺や、校内で自殺した事件も。

中国版ゆとり教育化政策

そこで、中国政府が「中国版ゆとり教育化」政策をとりいれました。

2021年7月、「宿題時間の制限」「塾の非営利化」政策導入
2021年7月、中国政府は「学内:宿題負担の軽減」と「学外:学習塾の削減」を求める、通称「双減」という通知を出しました。

一見、日本と同じような「ゆとり教育化」にも思えますが、日本のように「詰め込み教育を改め、自分で考える力を育むこと」を目的としたものではありません。

前段で述べたように、中国の親子は受験にむけて厳しいプレッシャーにさらされ、教育費が家計を圧迫するまでになりました。結果、子どもは1人までが限界、という夫婦が続出。少子高齢化に歯止めをかけるべく、第3子出産を認め、出産を奨励する政府の思惑とは逆へ向かっていました。

今回の政策は、学生・保護者の労力・教育費の負担を減らし、出生数を増やすのが目的です。

主な内容は以下です(注2)

①学内
・宿題については、小学1・2年生の宿題禁止、小学生3~6年生の宿題は平均60分以内、中学生の宿題は平均90分以内。
・保護者の宿題チェック作業や指導などを禁止。
・就寝時間を厳守。家事やスポーツ、読書などを奨励。

②学外
・放課後の教育サービスの充実。(学校の教師等が放課後、自習サポート、解説など)
・全ての地域で学生向け学習塾の新規開設を停止。
・既存の学習塾は、非営利団体として再登記する必要がある。営利目的の学習塾は閉鎖。
・学習塾は、株式上場による資金調達の禁止、投資会社からの投資も禁止。
・週末や祝日、夏・冬休みに、塾などの教育サービスを提供してはいけない。
・就学前の児童に対する学習類(外国語も含む)の塾も禁止。

ほとんどの学習塾が閉鎖に追い込まれた

実は学内の宿題負担軽減は、2013年にも施策が出されていました。そのため、学外の塾などへのニーズが高まり、関連サービスが急激に増加しました。
2019年、小学生~高校生までの教育サービスの市場規模は、約8,000億元(約13兆円、1元17円計算)と巨大産業に成長しました(注3)。

しかし今回、学習塾の大半がすぐに業務停止。政府からの補償はもちろんありません。急成長中の巨大市場をつぶしてしまうわけですから、中国政府の覚悟は相当なものです。

次回、「中国『ゆとり教育』導入の効果は?」に続きます。

注1:週刊ダイヤモンド「橘玲×ZaiONLINE(2019年)」

https://diamond.jp/articles/-/216185

注2:中華人民共和国中央人民政府

http://www.gov.cn/zhengce/2021-07/24/content_5627132.htm

注3:中国K-12 教育サービス市場の成長レポート https://www.oliverwyman.cn/content/dam/oliver-wyman/v2/publications/2020/august/china-k-12-after-school-training_cn.pdf

(今回の記事は、2021年12月末時点の情報をもとにしています)

中国については、2005年「上海のMBAで出会った 中国の若きエリートたちの素顔」(株式会社アルク)を加筆・改題し、2016年「中国のビジネスリーダーの価値観を探る」を出版。

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