こっちからみた「王様の耳はロバの耳」

これは昔々のお話

町から随分と離れ、馬車がごく稀に通る道の脇、草むらの中に“ソレはあった”

「どうも、皆さんこんにちは。
いきなりですが自己紹介をさせて頂きます。
いやぁ別に、しなくても良いんですけどね。
しばらく私の愚痴を聞いて頂く事になるかと思いましてね。
自己紹介ぐらいは、した方が良いんじゃないかと考えまして…。

いや、でもやっぱり無くて良いかな?

先ず最初に語るべきは
私の話しを皆さんが聞いて下さるのは
今、この瞬間しかない、いや、コレが最後と言う事です。

…理由は、まぁ理不尽な物です。

そもそも、私はヒトの役に立つ為に生まれ…というか作られ…じゃなく掘られ…。

まぁ言い方は何でも良いんですけどね。
それがですよ!

勝手な都合で殺され…消され…埋められ…。
いや、コレも何でも良いんですけどね。

とにかく私は!

…そう言えば自己紹介が、まだでした。
自発的に言葉を発するのは、どうも苦手で。
申し訳ありません。

改めまして、こんにちは。
どうも“穴”です。

すいません。
驚かれたかもしれません。
でも、本当なんです。

どうして穴が喋るのか?
それは、その為に、その目的で
生まれ…いや…作られ…いや…掘られ…たからです。

この世のあらゆる物はヒトが命を吹き込む時に役割を与えられ、使命を持って生まれます。

馬車はヒトや荷物を乗せて運ぶ為
剣はヒトが戦ったり守ったりする為
鍋はヒトが食べ物を炊いたり煮込んだりする為

私はヒトの秘密を受け止める為。
…そうです。誰もが知るあの名言!
「王様の耳はロバの耳」
を受け止めた世界一有名と言っても過言ではない“穴”が私です。

最初はヒトが堪えきれなくなった秘密を受け止める為に、髪切り屋の彼自身が掘って形を作り役割を与え生み出してくれました。

そうです。
彼が一番最初の秘密を私に放り込んだヒトです。
その後、暫くするとこの国の王様、大臣、兵士に女王様まで、様々なヒトが私に秘密を受け止めてほしいとやって来ました。

初めのうちは、私も楽しかったんです。
噂ってのは広がる物です。
町中、いや国中のヒトが私に秘密を話す様になりました。

私の周りに露店や宿まで建ち始め、観光名所と呼ばれる所までになったんです!

…ですが、そんな日は長く続かないものなんですね。

夜中に誰も居ないのを見計らって私…喋ってみたんです。

あれだけ沢山の話を聞いたんだから、もしかして声が出るんじゃないかって…。
私の中に落ちた種から芽生えた葦が喋ったんだから私も!って…。

そしたら…声が出て来たじゃありませんか!
私は涙を、いや実際には地面から染み出した泥水なんですけど、まぁとにかくそんなのが出るくらいに喜んだんです。

これで、ただ秘密を聞くだけの幸運の穴!
…なんて呼ばれる事は無くなる!
会話が出来れば他の事も出来るんじゃないか⁈

でも、駄目でした。
何も言わないから“穴”として価値が有っただけなんです。
喋ってしまえば、いつ秘密を漏らすか分からない危険な“穴”なんです。

で、結果はこうです。
今、目の前にいる皆さんに話して私の生涯は終わりです。

最後まで聴いてくれて本当にありがとう。」

そこまで言うと穴は静かになり、穴の目の前に立っていた男達はスコップを手に一斉に穴を埋めてしまった。

「…これでザワザワ鳴りだした気持ちの悪い穴の噂も無くなるだろう」
「でも、本当にさっきまで鳴ってたザワザワって何だったんでしょう?」
「知らん。埋めちまったら、もう鳴らん。気にすんな。ほら、帰って一杯やるぞ」
工事現場の監督の様な男がそう言うと皆、一様に頷き、帰っていったとさ。

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こっちからみたお話シリーズ

昔話や童謡をこっち?そっち?からの視点で書いた物語
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