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こっちからみた「ももたろう」

これは昔々のお話

彼は真剣に考えていた。
「・・・どうして、こうなった」

目の前には燃え盛る炎を背中に、屈強な者達。
肌の色は赤黒く、決して一対一でも出くわしたくは無いその姿。
そんな連中が見渡す限り、自分と仲間達を取り囲んでいる。

「クソ!どうして・・・」
あの時、あの瞬間に戻る事が出来れば…。

確かに仏心も在った。
一人で山の中を彷徨く一人の男の姿。
それは、仲間から追い出され、一匹狼として生きて来た自分と同じ様に見えた。

「もし、旅の御方」
始めは彼の声に振り向き、驚いた顔を見せたが直ぐに笑顔を見せた旅人に思わず彼の心が奪われた。
優しくしてあげる筈の自分が、この旅人の笑顔に癒されてどうする?
そう、自分に言い聞かせた時、我知らず彼の腹の虫が大きな声を上げた。
恥ずかしさに戸惑いかけた彼に旅人は

「おひとつ、どうぞ」

抗えない香りが彼の目の前に現れた。
小さな竹の包みから取り出されたソレは彼の一匹狼として生きて来た頑な心を解きほぐすには充分な力が在った。

「あなたの旅の供にして下さい」
知らず知らず口から、その言葉が出ていた。

…ハッと彼が気付くと屈強な者達、それぞれが武器を手にしている。
「ボーっとしてるとやられるぞ!」
かつては天敵とも呼ばれた男が彼を鼓舞する。

この男と並んで闘う事になるなんてな…。
自嘲気味に彼は笑う。

何故、こんな場に自分が居るのか?
その答えも始めから分かっている。

それは
"本能"

あの白い団子を食べた時、思わず尻尾を振りながら舌が出ていた自分。
そんな尻尾を見透かす様に笑顔で手だけを差し出した旅人。
何も乗っていない旅人の手に思わず自分の前脚を載せていた自分。
次の団子を欲して、付いて来た自分。
その全てが野良育ちの自分には初めての事だった。

彼は敵の目に映る自分をジッと見つめた。
「一匹狼を気取っても…俺は犬。狼には成れない、そういう事か」
初めて餌をくれた人間に
思わず尻尾を振ってしまった初めての人間に
忠義を尽くす。
それが彼の犬としての本能。

低く唸り声を上げてからの、その後は余り憶えていない。

気がつくと自分と天敵の猿
余り仲良くなれなかった雉
そして、恐ろしい量の財宝を載せて小舟を漕ぐふざけた羽織の男が目に入って来た。

「いやぁ、鬼強かったねぇ」

ヘラヘラと笑う男の顔に何故か怒りでは無い安堵感を覚える。
「コレが…主従関係」

そんな事を思いながら、犬は静かに眠りにつきましたとさ。

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