原里実

小説書く。短編集『佐藤くん、大好き』https://amzn.to/39ZQjMa、三…

原里実

小説書く。短編集『佐藤くん、大好き』https://amzn.to/39ZQjMa、三田文学新人賞佳作『タニグチくん』、文学金魚新人賞辻原登奨励小説賞『レプリカ』ほか。英訳作品リスト:https://bit.ly/3c69Dde

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  • ちびものがたり

    電車でも、寝る前にも、待ち合わせまでにも。短い時間と軽い気持ちで読める小さい物語です。

  • 臨月の日記

    臨月の人の日記です

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    なるべく書く。忘れないように。

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    三度の飯よりごはんが好き(?)なわたしが、ごはんをテーマにしたショートショートを書いています。

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    一年半くらいロンドンに住んでいます。日々のできごとをみじかい読みものにしています。

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ここから先は赤ちゃん

「生活むし」は、文章を書く私と、デザインをする夫のユニットです。ふたりでつくるZINEの第一弾、エッセイ『ここから先は赤ちゃん』を現在Boothで販売中です。まえがきと第一章を、このページで公開しています。 まえがき やわらかく小さな、ほんのりと湿り気を帯びた手のひら。ほんの少し前まで、ふやけたようにしわくちゃだったはずなのに、今はもうふっくらと丸みを帯びて、力強くわたしの胸を押し返してくる。  なんにもないところに突然あらわれた、筆の先っぽほどの小さな点が、たった一年ほ

    • 沈みゆく島の高校生A

       どんぶらと窓のすぐ下で揺れる水面をながめながら、この光景も見納めか、なんてベタなことを考える。でも実際、なんだか感情のない生き物のようで不気味だとずっと思っていた灰色の水の塊も、お別れと思ってみるとほんのりかわいく見えてきたりするから不思議なものだ。 「英語では卒業式のことを『コメンスメント』と言うわけですが、これは本来『始まり』という意味の単語でありまして——」  いかにもありがたげな校長の訓示に耳を三度程度わずかに傾けながら、教室のうしろ、ずらりと並んだ保護者の列の中に

      • 文学フリマ東京37に参加します【生活むし L-34】

        11月11日(土)に東京流通センターで開催される「文学フリマ東京37」に初出店します。出店者名は、生活むし【ブース番号:L-34】です。ぜひお立ち寄りいただけたらうれしいです。(ウェブカタログはこちら) 「生活むし」は、文章を書くわたしと、デザインをする夫のユニットです。 販売作品①:エッセイ『ここから先は赤ちゃん』妊娠中から出産後にかけて考えた、生きることや死ぬこと、日常のかがやき、時が過ぎてゆくさびしさ、家族の記憶などについて書きました。夫が装丁をしています。 「毎

        • あわいの日々

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          誕生【臨月の日記 4/18】

          4/18の朝6:49に出産した。 陣痛よりも破水が先にきて、早めに入院し、病院でほかの妊婦さんの分娩中の苦しそうな声や、赤ちゃんの産声、産まれて数日後の入院中の赤ちゃんの泣き声などを病院で聞きながら、陣痛がくるのを一日中待ってからの出産だった。 恐れていた陣痛は、今までに感じたことのないような強さと種類の痛みだった。徐々に強まるので、もうこれくらいで最大かな……? と思ってもそれより上がどんどんくる。腰痛、下腹部痛、お尻への圧迫感、全身の血管が怒ってるみたいなどくどく感。

          誕生【臨月の日記 4/18】

          にんにくマスク【臨月の日記 4/16】

          今日は夫と高円寺で待ち合わせをして遊んだ。集合してまずもんじゃ焼きを食べ、古着屋などを見ながらぶらぶらしたあと、またおなかが空いてきたのでたこ焼きとお餅を食べ歩き、そして最後に沖縄料理屋に入った。 もんじゃ焼きの店で隣になった、4人家族の父親が、どことなく横柄な感じでわたしはあまり好きではなかった。店を出たあとに夫が同じ感想を口にしたので思わず大きな声で同意してしまった。最後に食べたねぎ塩豚もんじゃというのがにんにくが効いていて、店を出てしばらくマスクのなかににんにくくささ

          にんにくマスク【臨月の日記 4/16】

          ビスケットvsシュークリーム論争【臨月の日記 4/12】

          実家に帰ってきてから食べる量が増えている気がする。健診では、胎児の推定体重は一週間前とそれほど変わらなかったのに、わたしの体重は増えていた。 内診の結果では、子宮口は少しひらいてきており、産道もやわらかくなってきている、しかし赤ちゃんはまだそれほど下には降りてきていないということだった。「まだもう少しかかりそうな感じですか?」とたずねてみると、「なかなか予測するのは難しいんですけどね……今日明日ということはないでしょう」と言われた。院長はけっこう淡々としている。「変わりない

          ビスケットvsシュークリーム論争【臨月の日記 4/12】

          プチ引越し(臨月の日記 4/9)

          妊娠初期の頃、漫画で『コウノトリ』を読んでいて、さまざまな妊娠のケースなどとても勉強になったのだが、大きくなったお腹の中で赤ちゃんが動いているコマにはいつも擬態語として「ぐいーん ぐいーん」と書いてあって、赤ちゃんはぐいーんと動くのだろうか……ということがうっすらと気になっていた。今になって、まさにぐいーんという表現がぴったりだと思う。 今日から里帰り出産のためにわたしが実家に帰るので、今朝は残っていた2個のキウイと、2個のスコーンをわけて朝食にした。夫は基本的に料理をしな

          プチ引越し(臨月の日記 4/9)

          臨月の日記 4/3

          キッチン用の棚をDIYしようと、週末にホームセンターで木材を買ってきた。今日はそれをやすりで磨いて、ワックスをかけただけでほぼ一日が終わった。肉体労働したせいか、いつにも増して眠い。 「ワックスをかけたら艶が出たよ」と夫に報告すると、「気づいていないかもしれないけど、艶のほかにも出たものがあるよ」。何かと思ったら「愛着」ということだった。たしかに。 晩ごはんは鮭の西京焼きと、近所の養鶏場で買った卵の卵かけごはん、里芋の煮物、玉ねぎとじゃがいもの味噌汁、野沢菜の油炒め。

          臨月の日記 4/3

          うぐいすの方言、お母さんヒス構文(臨月の日記 4/1)

          今日は朝から天気がよくて、ベランダに椅子とテーブルを出して朝食兼昼食を食べた。フレンチトーストと残り物のポテトサラダ、ウィンナーとミニトマト。フレンチトーストはたいてい適当につくるけど、黄金比とかあるのだろうかといつもぼんやり気になってたので、クックパッドで殿堂入りみたいなレシピを見てつくってみたらすごく美味しかった。卵液の卵・牛乳・砂糖の比率のほか、短時間でパンの中心まで液を染みさせるコツと、ふんわり焼き上げる火加減のコツがあった。やはりレシピは偉大だ。 最近ちょっと気取

          うぐいすの方言、お母さんヒス構文(臨月の日記 4/1)

          怖い夢と演技派(かもしれない)の女性(臨月の日記 3/30)

          だいぶおなかがぱんぱんになってきた。靴下を履くのにもおなかが邪魔だ。胃が押されて、満腹になると苦しいし、膀胱も押されて、トイレが近い。 夜中、また痛みに襲われた。最近たまに、下腹部から背中にかけてが猛烈に痛むことがある(たいてい夜中)。体感としては下痢のときの痛みに似ている感じがするのだが、トイレに行っても治らず、できることといえばじっと横になって、湯たんぽで患部を温めながら痛みが過ぎ去るのを待つしかない。だいぶ痛い気がするけど、陣痛と比べたらましなんだろうな、と思うと憂鬱

          怖い夢と演技派(かもしれない)の女性(臨月の日記 3/30)

          なぜ焼きそばの麺は3袋入りなのか?(臨月の日記 3/26)

          冬用のモコモコしたパジャマから春用の薄手のパジャマに変えたら、なんだかすごくお腹が出ている。思わず洗面所から、入浴中の夫に「すごいお腹が出てる!」と報告した。風呂から出たあとで夫はわたしの姿を見て、「なんか変なキャラクターみたい」と(途中から自分の発言の不適切さに気づいていつつ、それでも言わないではいられないというふうに笑いながら)言った。それを聞いてわたしも笑ってしまった。 夫は最近、片桐仁の息子・春太くんをしきりにかわいいと言っている。「あの、唇が厚い外国の女優、誰だっ

          なぜ焼きそばの麺は3袋入りなのか?(臨月の日記 3/26)

          SMAP『KANSHAして』に描かれた女性が好きという話

          SMAPの『KANSHAして』が好きだ。前から好きだったけれど、今朝風呂場で歌っていたらあらためて歌詞のよさに気づいて、そのことについて書きたくなった。 「Maybe 男は 女の子のこと 知らなすぎるよ 教えてあげましょう」ではじまる歌詞は、とある女が「男の知られざる」女の子のさまざまな一面を教えてゆくという内容だ。 特にいちばん最後のなんて、まさかそこまでひどいことしないでしょ、と思ってしまうような非道っぷりだが、明るいメロディーもあいまって、なんだか笑えてしまう。こん

          SMAP『KANSHAして』に描かれた女性が好きという話

          宇都宮春彦の日常

           宇都宮春彦は、経理部で働いている。芝刈機メーカーに新卒で入社して、もう七年目の二十九歳。小さな頃から人とのコミュニケーションが不得手で、休み時間には友人と談笑するよりも、ひたすら机に齧り付いてドリルを解いている方が落ち着くようなところがあった。仕事でも経費の精算や取引先への支払いについてあれこれ社員とやりとりするのは気が進まないが、エクセル表と睨み合っているときは時間の経つのを忘れることができた。  毎週月曜日の午前中は、各所へのメール返信や一週間のスケジュール確認など雑務

          宇都宮春彦の日常

          どんなグループにもそれぞれの物語があり、人とひととの関係がある

          11月1日で解散するV6の『SONGS』(NHK)を見た。V6の活動期間は26年。最年長の坂本くんが50歳で、最年少の岡田くんが40歳なので、全員が人生の半分以上をメンバーと過ごしてきたことになる(岡田くんに至っては3分の2に近い)。もはや足音とか、トイレの個室のなかから聞こえる衣擦れの音、トイレットペーパーをがさがさと繰り出す音で誰だかわかるらしい。 まだあどけない顔をした、やせっぽちだった少年たちは、きっとがむしゃらに努力してデビューをつかみとり、それから26年間スポッ

          どんなグループにもそれぞれの物語があり、人とひととの関係がある

          わたしたちよ、幸福であれ

          ※台湾で発行されている日本カルチャー誌『秋刀魚』に掲載されたテキストの和訳版です。「女性」をテーマにした特集号にエッセイを寄稿しました。『秋刀魚』ウェブサイト掲載ページはこちら わたしだけ、どこにも行く場所がない中学生や高校生の女の子が、クラスの友達と連れ立ってトイレに行ったりするのは、万国共通なのだろうか。わたしは日本のことしか知らないけれど、日本の学校ではそれが普通で、そしてわたしはそれが苦手だった。 女の子たちは仲良しグループをつくって、トイレにも音楽室にも、体育前

          わたしたちよ、幸福であれ