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一番好きな日本茶 「青い鳥」

 もし「今日本で一番美味しい日本茶を飲みたいと思ったらどこのお店に行く?」と問われたら、私は表参道の「茶茶の間」さんを挙げる。

 日本茶に限らず飲食というものは、純粋な味や香り以外の無数の変数(嗜好や精神肉体の状態や知識や相性その他諸々)が関係するもので、そのあらゆるパターンにおいてそれぞれの価値がある。
 だから茶茶の間さん以外にも、無数の美味しくて素晴らしいお茶を出すお店が存在して、そのどれもが愛おしい。
 しかしその気持ちはそれとして、やはり、茶茶の間さんのレベルの高さは抜きんでている。もともとの茶葉の品質の高さ、その個性を最大限活かす完璧な淹れ方、マリアージュを念頭に置いたフード、店の内装の美しさ、店員さんの穏やかな会話と距離感、カフェとしての提供速度、全てが素晴らしく感動的である。
 しかも加えて、価格が良心的で、「特別な時だけに清水の舞台から飛び降りるような気分で訪れる」タイプのお店作りをしていないのも、ありがたくて頭が下がる。

 なので、「本当に美味しい日本茶というものを飲んでみたいの」という人がもしこれを読んでいたら、とにかく一度訪問してみてほしい。

 そんな茶茶の間さんには、様々なタイプの日本茶が扱われているが、今まで私がいただいてきた中で一番好きだな、好みだなと明確に思うのが、この「青い鳥」というブランドのお茶だ。
 蒼風という品種の日本茶だそうで、「茶茶の間とともに歩んできた、シングルオリジンの美味しさが詰まったお茶」と紹介されており、シグネチャーアイテムと言ってもいいのだろう。
 そして私も、多くの茶茶の間ファンと同じ、このお茶に魅了されて日本茶と出会い直したひとりだ。

★★★

 茶茶の間さんで淹れていただく「青い鳥」は、もう感動の一言なので、四の五の言わずにお店に行って注文してみて!としか、言いようがない。
 一方で、茶葉を購入して、自宅で私のような拙い腕の持ち主が恐る恐る淹れてみても、結構ちゃんと応えてくれるというか、透明感のある美味しさを発揮してくれる。

「青い鳥」は、香りがとても美しいお茶だ。
 香りを重視するお茶(ただしフレーバーティー以外で)といえば、中国茶のイメージが強い。中国茶には、「これ本当にカメリア・シネンシスだけなの?」と原材料名を確認してしまうほどの、花のように華やか、香水のように濃密で魅惑的な香りをたたえたものがある。いわゆる萎凋香。
 だが「青い鳥」の香りは、そういうタイプの香りとも少し違う。
 あえて例えるならジャスミンを思わせるような香りなのだけど、「ジャスミン」という言葉で想像されるような濃厚なものではなくて、遠くの空から香ってくるような風味としてやってくる。すーっ……と抜ける風のような清らかさだ。
 ジャスミンの花というより、茉莉花茶の香りに近い……けれど、あれよりもさらに澄んだ感じがする。(茉莉花茶の、あの複雑で自然そのものの香りもまた、私は大好きなのだけどね)

 逆に言えば、多くの日本茶が放つあの香ばしい「覆い香」は、決して強くない。
 強くないのだがちゃんとあって、それが透明な香りとからみあうことで、芯の強さが出るように思う。
 日本茶、それも緑茶が持つ、覆い香のコクと萎凋香の甘さと青葉の爽やかさ、そして私がまだ表現しきれない様々な要素の香り、それらが「ここだ!」というバランスで合わさって、感動的に完成度の高い一杯になってくれる。

 香りの話ばかりしてしまったけど、「青い鳥」はもちろん、ただ香るだけの日本茶ではない。
 甘味やコクや渋味も、どれも備わっていて、しかもそのどれかが突出して主張しない。均整が取れていて、ひとくち、またひとくちと飲んでいった先に、飽きがこない。
 なのですいすいと飲んでしまい、二煎、三煎と淹れていって、最後に名残惜しく飲み干すのだ。

★★★

 日本茶が飲みたいなぁ、と思った時に、私が無意識にイメージするのは、いつもこの「青い鳥」の味わいである。
「青い鳥」以外のお茶を飲むことの方が圧倒的に多いのだけれど、飲んだ時に「ちょっと甘いな」とか「結構しっかりコクがあるな」とか感想を抱く、その基本ラインは「青い鳥」で感じる味わいではないかと思う。
 つまり私にとって「青い鳥」は、一番好きな日本茶であり、常に帰ってくる基準点のようなお茶だ。
 家にある「青い鳥」は飲み終わってしまったから、また茶茶の間さんに行って、買ってこなくてはと思う。

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