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道頓堀

冬のあめほそく銀座に降りにけり道頓堀のおもほゆるころ 斎藤茂吉

『暁紅』

 この歌について、小池光が『茂吉を読む―五十代五歌集』で、盛大なツッコミを入れている。
 東京にいて、渋民村を思うなら、落差があるから、歌の規範に沿っている。歌には、落差や飛躍が必要だ。この歌は、東西の盛り場を併置しただけで、歌になってないと言うのだ。
 このツッコミがなければ、私はこの歌を大歌人の歌として、失敗に気付かないまま、通り過ぎてしまったことだろう。
 「あめ」がかなにひらかれていて、やわらかな雨が感じられる。この歌は、韻律がうつくしい。外形の端正さと、内容のトンチンカンさのギャップが魅力的だ。
 でも、短歌としては、トンチンカンだけど、感慨としては、よく分かる。旅先の夜の街を歩きながら、地元の夜の街を思い出したりする。逆もよくある。