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矢野顕子と坂本龍一。「千のナイフ」「ひとつだけ」「ごはんができたよ」

夏の矢野顕子トリオ恒例「ブルーノート・ライブ」に初めて行ったのは2009年。

それからコロナ期以外は全部行っているのかな(数回抜けてるかな)。
でも、気持ち的には毎夏行っている気分だから、もう14年行っている。


いや、行っているというより、連れて行ってもらっている、かな。
アッコちゃんの大ファンである中島夫妻が毎年チケットを押さえて誘ってくださった。
今年は違う仲間たちと行ったのだけど、また中島夫妻ともご一緒したいなぁ。


さて。
今年は、ご存知の通り、坂本龍一が亡くなった年である。
アッコちゃんは、これまたご存知の通り、坂本龍一と婚姻関係にあった。

毎夏のお盆過ぎにやるこの矢野顕子ライブ。
今年はきっと坂本龍一への想いもこめたライブになるのだろうなぁ、どの曲をやるのかなぁ、きっと静かで深い時間になるのだろうなぁ、、、などと想像しながらブルーノートに向かった。

・・・というのは一部ウソで、実は「千のナイフ」を演ることは事前に知っていた。

SNSで流れてきたのをうっかり読んでしまったのである。

でも、「あぁ・・・千のナイフを演るんだ・・・」としみじみ考える時間があったのは逆に良かったのかもしれない。


アッコちゃんは坂本龍一と1982年に正式に結婚する2年前、1980年に坂本美雨を産んでいる。

つまり、坂本龍一のソロデビューアルバム『千のナイフ』が発売された1978年は、坂本美雨を産む2年前なのである。彼らがすでに恋愛関係だったのは想像に難くない。

もしくは、坂本龍一の「千のナイフ」を聴いて憧れて、恋をして、坂本美雨を産むに至ったのかもしれない。

いずれにしても、彼が亡くなった今年このタイミングでアッコちゃんが選んだ「千のナイフ」には、いろんな意味とそのころへの想いがこもっている。それだけは間違いないと思う。



ライブ中、アッコちゃんが坂本龍一について言及することは一度もなかった。

「ブルーノートでは毎年一曲はYMOをやってるのよねぇ。。。で、今年は何をやろうか考えていたんだけど、前からやりたかったこの曲をやることにしました。いざやると決めると、3人で(ウィル・リーとクリス・パーカー)いろいろ話しあって作っていくんだけど、それをやってきてわかったことがあります。この曲は・・・とても難しい(笑)」

こんな言葉を前振りに、おもむろに伝説のピアノ、ベヒシュタインで弾き始めた「千のナイフ」。

それは想像していた「深く鎮魂的なもの」とは違い、明るく激しくちょっとファンキーな演奏だった。

1978年ころの熱い関係を想像させるような、そしてちょっとした怒りも感じるような、ドライブ感溢れる演奏だった。


そして、この曲を終えたあと、アッコちゃんはニッコリ笑って、静かに「ひとつだけ」を歌うのである。


♬ 離れているときでも私のこと 忘れないでいてほしいの。ねぇお願い
悲しい気分のときも私のこと すぐに呼び出してほしいの。ねぇお願い




それだけではない。

この後、♬ ごはんができたよ〜、と、「生活」の歌、「死」と一番遠い、まさに「生」の歌に続くのである。




2009年のこのライブでアッコちゃんは最後にこう言った。

「忌野清志郎の葬式に4万人とか40万人とか集まったんだって? そんなのに集まれるくらいだったら、生きてるうちに来い! 生きてる矢野顕子を見に来い!」




悲しみより、鎮魂より、祈りより、「いまの生」なんだなぁ。

ビシビシ伝わってくる見事なライブだった。


ありがとう、アッコちゃん。





矢野顕子については、こちらもどうぞ。


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