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ガーシュウィン 『ラプソディ・イン・ブルー』

人生に欠かせないオールタイムベスト音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。


このCDを買ったのは、駅。

ほら、駅の改札口の近くとか本屋の前とかで、たまにCDやDVDを売ってるじゃないですか。
なんか500円とかで売ってる海賊版みたいな怪しげな奴。その中にガーシュウィンのコレがあったんです。

音質悪いだろうなぁと思いつつ、なんだか急に聞きたくなったので買いました。演奏なんかな〜んにも期待せずに。

だからこのCDは「間に合わせ」という感じでずっと聞いていたんですね。
一応バーンスタインではあるのだけど、もっといい指揮・演奏は他にあるはず! だって駅で買ったCDにいいものなんてあるわけないし的な。

そのうえ音質だって悪いし、ジャケットだって異様な手抜きだし!(上のタイトル画像はこの駅CDのジャケットです。ガーシュウィンぽさゼロ!)

・・・てな感じで、全然信用していなかったんですよね、駅CD。


その後ボクはいろいろガーシュウィンを買っていきます。

駅で買ったチンケなCDを越えるものがどこかにあるはずだ!というだけの理由で散財を重ねていったわけです。

プレヴィンはどうだ! あら、あかん。だいたい原典からカットをしすぎ。
それじゃぁレヴァインは? ん〜惜しい! 惜しいけどアンダンテがいまいち。
デュトワにモントリオールでは? これまた惜しいけど……なんか違う。カナダだからかな。
よし、ガーシュウィンがピアノ弾いているオリジナル盤ならどうだ!? ・・・うーん。味はあるけどなぁ。

こうなったら同じバーンスタインがロスフィルで1982年に録音したやつはどうだろう!(駅CDは1959年録音) 
いやぁ・・・すごい期待したんだけど、なんかジャジーじゃない。のっさりしている(涙)。


結局聴き比べたのは以下の6枚。
良かった順に並べると、

1.指揮:バーンスタイン/piano:バーンスタイン/コロンビア交響楽団(1959年録音)
2.指揮:レヴァイン/piano:レヴァイン/シカゴ交響楽団
3.指揮:デュトワ/piano:ロルティ/モントリオール交響楽団
4.指揮:ホワイトマン/piano:ガーシュウィン/ホワイトマン楽団
5.指揮:バーンスタイン/piano:バーンスタイン/ロサンジェルス管弦楽団(1982年録音)
6.指揮:プレヴィン/piano:プレヴィン/ピッツバーグ交響楽団

一番上のが駅CDです。
そう、さんざっぱら聴き比べた結果、「駅CD」に栄冠が輝いたのでした。

駅CDじゃ手に入らないじゃん! とお思いの貴兄、大丈夫。
音源はたぶんコレ(↓)です。
ジャケットは違うけど、この録音だと思われます。


聴き比べていくと、惜しいのはレヴァインだなぁ。
アンダンテ・モデラート(よくCMにも使われる有名なメロディのところ)までは完全にレヴァインの勝ちだったのに、アンダンテ・モデラートで弦より管を前面に出してしまいコクがなくなってしまった(個人の好みですが)。おっしい!



それにしても。
それにしても、ガーシュウィンってニューヨークに合うなぁ。

ボクは40代のころ、ニューヨーク出張ばかりしている時期があって、のべ1年くらいはあの魅力的な街に滞在したんですね。

で、あの素敵な街を隅から隅まで歩き回っていたんだけど(ほとんど恋に近く惚れてたし)、歩いていていつも頭に浮かぶ曲がこの「ラプソディ・イン・ブルー」とシナトラの「ニューヨーク、ニューヨーク」でした。

特に時差で朝早く目覚め、朝焼けに浮かび上がる摩天楼なんぞを見ながら散歩をしている時は、「ラプソディ・イン・ブルー」のアンダンテ・モデラートが頭の中に響きわたります。

ゆったりとした弦の響き、ちょっとユーモラスでおっとりした管の支え。
これがそそり立つ摩天楼とよく調和して、なんかすごいカタルシスを感じさせてくれんですよね。

まったくこの街のために作られたような名曲だなぁと思います。

で、このバーンスタイン指揮の「駅CD」(バーンスタイン/コロンビア交響楽団/1959年録音)は、その演奏からテンポからジャジーな感じまで、まさに完璧に「僕の中のニューヨーク」にフィットしたのです。

やっぱりニューヨークのあの感じを出せるのはバーンスタインなのかもなぁ。
ほんと、他のCDとはひと味もふた味も違う。
そして、同じバーンスタインでも、1982年版より1959年版の方がなぜかずっといいんです。


大好きなガーシュウィンや、この曲自体のことを軽く書いて終わりにします。

簡単に書くと、これはジャズの天才にして巨匠ガーシュウィンが初めて作曲したクラシック。そして初めての「アメリカ人の音楽」です。

当時「ジャズ王」と呼ばれていたホワイトマンの依頼で書かれたもので、まだオーケストレーションに自信のなかったガーシュウィンは、ホワイトマン楽団のアレンジャー、グローフェと一緒に3週間で書き上げたそうです。

だから非常に特徴的な楽器の選択なんかは、グローフェのチカラによるものが大きいわけですね。

彼の楽団とガーシュウィン自身のピアノで初演したのが1924年。
大好評だったらしいです。

この曲がクラシックなのか、と言われると難しいところ。
もともとこの曲はジャズとクラシックの融合を目指した「実験音楽」として書かれたようですからジャンル的には「現代音楽」ということでしょうか。

ただひとつ言えることは、現代の都会に住む我々に実にわかりやすい言葉で書かれている音楽だということ。

ともすればクラシックには難解なイメージがあって敬遠する人が多いのだけど、ガーシュウィンのシンフォニーは実に理解しやすい。つまり我々と共通の言語で書かれているシンフォニーだと思うのです。


朝焼けの摩天楼。
早足のビジネスウーマン。
早朝のDeli。
セントラル・パークを走る人々。
行き交うイエロー・キャブ。
地下鉄の轟音。
多種多様な人々のさんざめき。
カフェにたむろす若者達。
ハドソン・リバーからの夜景。
夜会服に身を包んだ男女。
漆黒に浮かび上がるエンパイア・・・

ニューヨークが恋しくなると、ボクは「ラプソディ・イン・ブルー」のCDをかけます。

そのメロディから、リズムから、アンサンブルから、すべてのニューヨーク物質が目の前にバーチャルに立ち上がってくる。

この曲が作曲されてからもう95年も経つけど、激変を続けているニューヨークの街に、ほら、いまでもこんなに似合う。

時代を越えるという意味で「クラシック」という言葉を捉えるなら、ガーシュウィンのこの曲はまさに「クラシック」そのもの、なんだと思います。


Gershwin
Rhapsody in Blue

Leonard Bernstein
Columbia Symphony Orchestra
Leonard Bernstein (piano)
in "Rhapsody in blue"

Leonard Bernstein
New York Philharmonic
in "An American in Paris"

レナード・バーンスタイン指揮
コロンビア交響楽団
1959年録音


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