橋の上で会いましょう 第3話

「死んでからやりたいいくつかのこと」

「じゃあ、とりあえずやりのこしたこととか書いてください」
 妙にあかるい声で悔い法被の人が言った。
「なんかあるでしょう。死ぬまでにあれをしておきたかった、やっておけばよかったってこと」
 そんなこと、急に言われて困る。死んでみないとわからないし。
「いや、もう死んでますから」
 いたわるようにほほえまれ、ぼんやりする頭で考えた。そうだった。私はもう死んでるんだった。
 朱色の欄干のとても大きな橋がかかっている。そのふもとには机といすがたくさんある。誰か新しい人が来ると、どこからともなく黒い法被を着た人が現れる。皆ずいぶんと体が大きい。見上げると首が痛くなる。
「でも小柄なものが配属されてるんですよ」
私の担当になった男の人は説明した。
「あんまり大きいと来た人がびっくりしちゃうでしょ。だから三メートルより大きいのはここには配属されないんです」
 つまりここは死後の世界の受付的なところで、三メートル以下の小柄な鬼が担当しているということらしい。
「まあ、基本は四十九日が終わるまでは自由に過ごしてもらってるんですけど」
鬼は言いにくそうに口ごもる。
「日高さんの場合、ちょっと問題があるというか」
問題?私の死にどんな問題が。
「簡単に言うと地獄ですね」
「地獄?」
衝撃的な言葉に聞き返してしまう。
「はい。のんべんだらりの罪というか。まあたいがいの人は何も成し遂げないですけど、ちょっとその程度がひどいということです。ただずっとぼんやり生きてきただけですね」
ぐっと心臓に言葉が刺さる。確かに、私はずっとぼんやり本を読んでいただけだし、それが一番の喜びだった。まさか地獄に落ちるほどの罪だったとは。
「あ、でも地の池とか針の山とか、そういうんじゃないんで安心してください」
私の顔色を見て、鬼は慌てたように言った。
「とにかく、生きているうちにしておきたかったいくつかのことをやってもらって、実績にできるようにするんで」
この用紙にリストアップしてください、と紙を渡し鬼は席をたった。
「ちょっと申請してきます」
私はペンをにぎり、用紙をにらみつける。一番上に「死んでからしたい つのこと」と丸ゴシックの太字で書いてある。いくつになるかは書き出してから決めていいみたいだ。その下にやや小さな字で、「生きているうちにいつかやりたいと思っていたけれどできなかったこと、死後だからこそできることをなんでもいいのでたくさん書いてみましょう」とあった。学校みたいでなんだかいらつく。
 顔をあげてあたりをみると、何人か鬼と向かいあって説明を受けている。でも一通り聞き終えるとすぐに立ち上がって橋へ向かっている。私のように居残りしている人はいないみたいだ。
 とにかく何か考えよう。私はペンをにぎりなおした。こういうのは苦手だ。なんでもいいというのが一番こまる。死後だからこそ、という言葉に注目し、ゆっくりと書き始める。
一、一昨年亡くなった落語家の落語を聴きたい
 高齢の落語家で、テレビで見てあこがれていた。いつか聴きにいきたいと思っているうちに亡くなってしまってとても悲しかった。ある意味では死ぬ前にやりたかったことでもある。彼の死の前だけど。
 それから。
二、死んでしまった犬たちに会いたい
 方向性は一と同じだ。死んだら会えるかな、とずっと願っていた。その感じでいくと亡くなった作家とか俳優とかにも会えるのかもしれないけれど、きりがないので一度やめる。
 生きているうちにいつかやりたいと思っていたこと、に焦点をあてて考える。
三、フィンランドのオーロラをみたい
四、あるパンクバンドのライブに行きたい
五、神保町で古本屋と喫茶店めぐりをしたい。あと下駄屋にも行きたい
 こういうものならまだまだ思いつくけどな、と考えているうちに鬼が戻ってきた。
「どうですか」
止める間もなく用紙を取り上げられる。途端にものすごくくだらないことばかりに思えて、恥ずかしくなった。心の中を見られるのは嫌いだ。
「なるほど」
鬼はすぐに用紙を返してくれた。用紙のタイトルが死んでからしたい五つのこと、に変わっている。
「では一番から行きましょう」
そう言って鬼はチケットをくれた。
「あの橋は亡くなったみなさんが四十九日までを過ごす場所です。基本的に飲み食い自由だしすべて無料です。ただ日高さんは地獄中ですので、この札をかけてください」
そしてネームプレートのようなものを私の首にかける。真っ黒な板に真っ赤な字で「地獄中」と書かれている。紐も真っ赤だ。恥ずかしい。
「こういう方はけっこういますから、恥ずかしくないですよ」
鬼は心を見透かしたように言った。だから、心の中を見られるのは嫌いなんだってば。
「橋のまんなかあたりに劇場があります。このチケットを見せるとちょうどいいところに入れてくれますから」
そして私の背中を軽く押す。
「どうぞ。いってらっしゃい」

 橋の上は混雑していた。おまつりのように見えるけど、歩いている人たちはみなぼんやりしている。両脇にびっしりと屋台が出ている。お好み焼き、たこ焼き、りんご飴、かき氷、やきそば、綿菓子。射的、くじ、ヨーヨーすくい、雑多ななにかを売っている店。たくさんの店がある。店の人は見えないけれど、なにか大きなかげのようなものがいる。
 食べ歩いている人も、そこらのベンチにこしかけている人もいる。私はきょろきょろ急がしくあちこち観察しながら歩いた。今のところ「地獄中」の札をさげた人はまだ見かけていない。そのかわり、こちらを見咎める人もいない。全体に他人のことには興味がなさそうな雰囲気だった。
 橋のまんなかってどのへんだろう。先はまだまだありそうだ。くるりと振り返ると、存外にふもとは近い。まだ先なのかな、と思ったところで左手の看板が目に入った。
「復活 落語会」
これか。入り口でチケットを出すと係りの鬼は私を横道に案内した。正面の入り口ではなく通用口のようなところから入る。そして示された席は前から三列目のまんなかあたり。とてもいい席だった。ちょうど幕間のようでみなざわざわと話したりおやつを食べたりお茶やビールを飲んだりしている。うらやましく思ったところへ売り子さんがやってきた。
「こちら特製おつまみセットです~いかがですか~」
さほど大きくはないけれど、まっすぐに耳にとびこんでくる声だ。私はどきどきしながら手をあげた。
「ひとつください」
「はい、どうぞ~」
売り子はまだ子どもの鬼のようだった。私と変わらない背丈に見える。くるんくるんの髪の間から小さなつのがひとつのぞいている。
 受けとったおつまみセットは一合瓶におちょこ、あられのセットですべてに鬼のイラストが描いてある。とてもかわいい。あられはつのの生えたおにの顔をかたどっている。浅草とかで売ってそう、とよく知らないけど思った。
 さっそく瓶をあけ、おちょこについでみる。すっきりとしたお花のような味わい。あられと一緒に食べ、なくなるころちょうどあかりが消えた。
 出囃しとともに出てきたのは、あのあこがれの落語家だった。私の記憶にあるよりも少し若い姿で、健康そうな姿に涙が出そうになる。晩年は骨と皮ばかりになって、管を通しながら高座にあがりつづけたという。その彼の落語を今やっと聴くことができる。
 じっくり聴こう、と思っていたのに私はいつのまにか声を出して笑い、涙をこぼし、夢中になっていた。くるりとさげられた頭に手が痛くなるほどの拍手を送った。私だけではない、会場中のみなが惜しみない拍手を送っている。すすりなく声も聞こえる。ああ、もっと聴きたい、終わりなんてもったいないな、と頭のすみで思っているといつしか橋のふもとの机の前に戻っていた。
「え?」
慌てて手をたたくのをやめる。担当の鬼が私の用紙をチェックし、返してきた。一のところに「済」と朱が入っている。
「この感じでどんどんいきましょう」
にこりともせずに鬼は言った。
「はあ」
まだ余韻の残る頭で、そうだったやりたいことリストだった、と思い出す。
 だったら次は犬たちに会える。

 私の期待は無惨にうちくだかれた。
「実は死んだ動物のことは管轄外でして」
鬼は申し訳なさそうに言った。
「今どこにいるかも把握できないですし、残念ですが二つ目はとばして三つ目にいきましょう」
がっかりして泣きそうな私の手にチケットをにぎらせる。
「フィンランド行きの特別切符です」
気がつくと今度は飛行機に乗っていた。窓側の席だったので景色がよく見える。
 飛行機から森を見下ろすと、いつも苔のようだと思う。しゃがみこんで苔をみたときのもこもこ感と、空から森をみたときのもこもこ感は似ている。長いのもあればひらべったいのもあるところも、緑の濃淡に差があるところも。外国を空からみるのは初めてだったので、窓に鼻をくっつけるようにして眺めた。黒い針葉樹がにょきにょきしている。クロゴケのようだな、とひそかに微笑んだ。
 空港をでると迎えが来ていた。私をみて手をあげる。目の色も髪の色もうすい。
「お待ちしておりました。フィンランドでオーロラをみたいということでうかがっております。ほかになにかご希望はありますか」
 その人はヘイッキネンと名乗った。何でも言ってください、と丁寧だけどにこりともせずに言う。私は小さな声でお礼を言い、ヘイッキネンさんについて車に乗った。
「タンペレの美術館にも行ってみたいです。あと森も歩きたいし、もちろんサウナも。コーヒーとシナモンロールも食べたいし、町を歩いてみたい。島にも行ってみたいです」
しばらく車が走ってから、そっと希望を言ってみた。話しているうちにどんどんやりたいことが増えてしまう。
「カンテレも弾いてみたいし、あとサルミアッキも食べたい。お酒も」
次々並べたてる私をちらりとみてヘイッキネンさんはほほえんだ。
「わかりました。オーロラはすぐに見えるとは限らないので、きっとぜんぶできますよ」
どうやら私はヘイッキネンさんの経営しているホテルに泊まることになっているらしい。家族経営の小さなホテルで、客室はふつうのお客さん用のものだ。馬や羊もいてお客さんはふれあい体験もできるという。
 屋根裏部屋に案内され、私は有頂天になった。あこがれの屋根裏部屋。ホテルの中はもちろん近くの森も自由に歩き回ってよいと簡単な地図を渡され説明される。ただ一応死んだ身なので、ほかの人の前に現れないように念を押された。ヘイッキネンさんは特別な契約をして仕事として関わっているけれど、家族もお客さんもなにも知らずふつうのホテルだと思っているという。確かに、万が一私を見たら悲鳴をあげるだろう。
 橋のところにいたときからずっと気になっていたのだけれど、私はお気に入りのラベンダー色のワンピースを着ていて、それが血塗れになっている。目に入るたびにとても悲しい。ヘイッキネンさんが言うにはきっと事故か何かが亡くなって、そのときに着ていた服だろうということだけど。下に重ねた白いワンピースも真っ赤にそまっている。
「こういったことは担当鬼がきちんと説明するべきです」
ヘイッキネンさんは怒ったように言った。そして
「サイズが合いそうな服を持ってきましたから、好きなものを着てください」
と服をくれた。ヘイッキネンさんが若いころに着ていて、今はもう着なくなった服だそうだ。
「ありがとうございます」
私は喜んで幾何学模様のワンピースに着替えた。大胆な色と構図。アンティークの着物みたいだ。フィンランドはもう秋だけど、私に気温は関係ない。ただ好きな服を着てるだけでよい。
 昼間は森を散策したり動物と遊んだりし、夜は屋上で天体観測をした。オーロラが見られるにはいくつかの条件があるらしいけれど、まだまだ見られそうにない。それでも北欧の星々を眺めているだけでもうれしかった。ヘイッキネンさんは熱いコーヒーを持ってときどき一緒に観察してくれた。
 そう、コーヒー。フィンランドの消費量は知っていたけれど、本当によくコーヒーを飲む。私も一人暮らしをしていたときは一日中コーヒーを飲んでいた。インスタントだったけれど。ヘイッキネンさんのコーヒーは豆をひくところから始まるからとても香り高い。必ず私の分も残しておいてくれるので、私も存分にコーヒーを楽しむことができた。もちろんシナモンロールも。死んだ身だけど、飲み食いはできるようだ。そういえば落語を見にいったときもお酒を飲んだな。サルミアッキは常備してあったのでいつでも食べれた。サルミアッキ味のお酒もあった。ヘイッキネンさんの見守る中、初めて口にしたけれど私は嫌いじゃなかった。食べれば食べるほどひきこまれる不思議な味。やっぱりな、と私はにんまりした。世界一まずいと有名だけど、きっと私は好きなんじゃないかと常々思っていたのだ。
 なによりもうれしかったことは、犬がいたこと。大きくてふかふかの毛を持つ賢い犬は私のことを認識して、一緒に散歩してくれた。時に首や背中をなで、ときに抱きつき、私はすぐに仲良くなった。やっぱり相棒には犬が一番だ。羊は私に気づいているのかいないのかわからないし、馬は私が行くとおびえるのであまり近づかないようにしている。
「ヒダカ、このバンドは知ってますか」
ある朝ヘイッキネンさんに声をかけられた。差し出された雑誌を受け取り、私は思わず声をあげた。
「これ、よく聴いてました」
「日本人なのに?」
ヘイッキネンさんは意外そうな顔をする。
「フィンランドが好きで、フィンランドのバンドを知りたかったんです。とくにこのバンド好きです」
私はくいいるように雑誌を見つめる。フィンランド語はあまり読めないのが残念だ。
「じゃあライブにいきますか」
予想外の誘いに、してもいない息がとまりそうになる。
「明日、タンペレでライブがあるんです。よかったら日中は美術館に行ってそのあとでどうでしょう。たぶん町を歩いたり買い物したりもできますよ」
「行きます。ぜひ」
私は飛び上がらんばかりだった。リストの四つ目にあげていたバンドとは違うけど、このバンドも好きだから四つ目もクリアでいいと思う。
 次の日、ヘイッキネンさんの運転でタンペレに行った。幽霊なのだから飛んでいけないのかとも思うけれど、そもそも飛行機に乗ってきたわけだしたぶんできないのだろう。ジャンプしてもすぐに落ちるし。地理もわからないし。
 美術館はすばらしかった。死んでからだけどみれてよかった、と何度も思った。とくに作者が作ったお屋敷の模型はじっくりと眺めた。自分もその中に入り込むくらいに。買えるわけでもないのにミュージアムショップものぞいて、あれもこれもほしくなって困った。
 展望タワーにも行き大聖堂にも行き博物館にも行った。博物館では今まで知らなかったフィンランドの歴史を知った。キャプションは読めないからなんとなくだけど。ヘイッキネンさんも難しい顔をして展示を見ていた。
 ところで、私が話しかけてしまうとヘイッキネンさんは一人で会話をする人に見られてしまう。だから私はなるべく話しかけないように気をつけていた。ヘイッキネンさんは慣れていて、電話のふりをして会話をしたりカフェでも二人分頼んでくれたりした。
 ライブの時間が近づいて、驚くべきことが発覚した。なんとヘイッキネンさんはチケットを持っていなかったのだ。
「私がみるわけじゃないから」
ヘイッキネンさんはこともなげに言った。
「ヒダカは幽霊だから無料なのよ」
そして私の首にかかってある「地獄中」札を指さす。
「もしヒダカのことが見える人がいたとしても、それを見せれば大丈夫」
というわけで私は生まれて初めてのライブには一人で行くことになった。フィンランドで。しかも、死んでから。
 ライブの感想はよくわからない。言葉はわからないから盛り上がっていることしかわからない。でも知っている曲もいくつかやってくれたし、目の前で演奏が見られたことがうれしい。すっかり満足して私はヘイッキネンさんのもとに帰った。
 ある日。ヘイッキネンさんが珍しく興奮したようすで話しかけてきた。
「ヒダカ、今日はオーロラ見られそうですよ」
ようやく条件が整いそうだという。ホテルのみんなで観測会をするからと誘ってくれた。私は喜んで支度した。ヘイッキネンさんも防寒具を身につけてお客さんを案内してきた。私は目立たないようにすみに移動する。
 ことさらに寒い夜だった。みんなの吐く息が白くこぼれる。私もはあーっと息を出してみるけれどなにも見えない。
「あ」
誰かが声を出した。そらには白い雲のようなものがうかんでいる。ゆらゆらと動き、空が明るくなった。
 光のカーテンが頭の上にゆらめいている。肉眼でも見えるほど強い光。私は大きく目を見開いてじっとみつめた。いつまでも記憶していられるように。頭の中にすっかりとりこんでしまうように。
 気がつくと光のカーテンが目の前にあった。青に緑に色を変え、なびいている。私は手をのばしそっとカーテンを開いた。ひんやりとろりと手にまとわりつく。隙間を抜けるとそこは、また橋のたもとだった。

「おかえりなさい」
担当鬼がすぐに出てくる。
「おや、着替えたんですね」
私は頭がおいつかなくて混乱する。ヘイッキネンさんは?犬は?お礼もお別れも言わずに来てしまった。血塗れのワンピースも置いたままだ。
「よくあることですから」
と鬼は平然としている。私が泣き出すと困った顔をして
「手紙を書いたらどうでしょう。こちらで送っておきます」
と提案してくれた。私は泣きながらうなずき、差し出された便箋を手に机に向かう。便箋は全体にうっすらと朱色の橋が描かれていて、すみに黒い鬼のシルエットがあった。
 手紙を書き終えると鬼はそれをポケットにしまい、どこからかリストを取り出した。
「では三つ目四つ目まで終了ということですね」
五つ目はなんだっけ、と思いだそうとしていると鬼が言った。
「実は上司からちょっと言われてしまいまして」
上司がいるのか、と驚く。
「日高さんはのんべんだらりの罪ということで地獄中なんですけど、結局生前と変わらないのではないかと指摘されまして」
ぎくりとする。そうかもしれない。ただ目の前にあるものを享受しているだけ。
「たとえば音楽家ですとか職人さんでしたら、その技術を磨き続ける道を選ぶ方もいるんです。そうすれば四十九日が過ぎても橋を渡らずにいられます。先日見た落語家さんもああしてご自分の技を磨き続けています。どこまで行ってもこれで良いということはない、とおっしゃっていました。これで良いということがないからやめられないと。もう意味などなくても構わないから、自分がどこまで行けるのか行ってみたい。そういうものを持っている方々がいらっしゃいます。日高さんはなにかそういったものはありませんか。いまからでも遅くはありません。本当にやりのこしたこと、やりたかったことを教えてください」
 私は黙って下をむいた。やりたかったこと。今まで何度も考えたことがある。あのときからずっとやっていたら、何か違ったのではないか。やり続けていたら今頃。生きている間に考えていたこと。死んでから考えないようにしていたこと。
 私はずっとお話が書きたかった。小さなころから小さなお話を書いて遊んでいた。大人になってもぽつぽつ書いていたし、それで生活していけたらどんなにいいだろうと願っていた。でも書くことはときに面倒で、生活や仕事に流れてしまう。一度流れるともうつかまえる気にもならなくて、思い出したようにときどき書くだけの日々だった。もっと努力するべきだったといつも後悔していた。
 だから今、私はこれを書いている。死んでしまったけれどまだ遅くないかもしれないから。時間は無限にあるから、精一杯書きたい。私はようやく本当に生き始めたような気がしている。

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