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金木犀

 この季節、歩いているとどこからかふわりといい匂いがする。ほのかに甘くて大好きな匂い。クンクンと犬のように空気をかいで見渡すと、どこかの庭に金木犀。あそこにも、ここにも。
 寄り集まった小さな花もかわいい。この色と形にぴったりの幸せな匂いがする。
 楽しく歩きながら、ふと考える。
 子どもの頃にはかいだことがなかったな。甘い匂いなら沈丁花。強い匂いのドクダミ。変な匂いのマリーゴールド。
 そもそもあの小さなオレンジ色に輝く花が記憶にない。秋のオレンジといえば柿の実だった。
 子どもの頃は気にしてなかったんだな、と思いながらもなんとなく調べてみた。すると、どうやら東北の北のほうには生えていないらしい。秋田と岩手県矢巾町までなんだって。そりゃあ記憶にない訳だ、と腑に落ちた。青森出身だから。
 棕櫚の木も初めて見たときにはびっくりした。南国に来たみたいでドキドキした。あとになってわかったのは、生えていない県より生えている県の方が多いらしいこと。今調べて知ったのだけど、ニホンヤモリも秋田県以南に生息しているとか。どうりで見たことなかった。名前だけ。アカハライモリはよくいたし、捕まえた記憶があるけど。
 知っているようで知らないことはたくさんある。それらを知っていくことは楽しい。まだほかにも、たくさんあるのだろう。知らないことに気がつくと、世界がどんどん広がっていく。

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