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「ありふれた愛、ありふれた世界」7

シーン7 喫茶店

上手に明日香と黒川美南と城田城が座っている。
明日香二つのプレゼントを貰って。
下手に座って目印を置いて本を読んでいる美しい女性・花畑健太郎。

明日香 「わあー。ありがとう!」
美南  「赤ちゃんグッズって可愛いよね。靴も売ってたんだけどこんなにちっちゃいの」
明日香 「実際はもっとちっちゃいよ」
美南  「可愛いんだろうなあー。それにしても同じ日に生まれてくるなんて奇跡だよね」
明日香 「おかげで私は一気に二人の叔母さんだけどね」
美南  「うける」
城田  「なんて名前なの?」
明日香 「男の子のほうが『世界』で女の子のほうが『愛』」
城田  「『世界』と『愛』」
美南  「規模の大きな名前だね」
明日香 「大切な甥っ子姪っ子ですから・・・あ」

修一、今日子が世界を抱いて入って来る。
目印で花畑を見つけて。

修一  「花畑さんですか?」
健太郎 「明神さん?」
修一  「はい。明神です」
健太郎 「どうぞ。ではそちらが?」
今日子 「はい。世界です」
健太郎 「あらー世界ちゃん可愛いでちゅねー」

※   ※ ※

美南  「あの赤ちゃんも世界っていう名前みたいだね」
明日香 「ほんと?」
美南  「ほら」
健太郎 「世界ちゃわわわーーーん(など)」
城田  「流行ってるのかな」
明日香 「知らない。それよりさ今週のしゃべくり見た?・・・」

※   ※ ※

健太郎 「それで。ダウン症で間違いないんですか」
修一  「ええ?21トリソミー型って言われました」
今日子 「21?」
健太郎 「21番目の染色体が一本多い症状のことです」
今日子 「そうなんですね」
修一  「今日は僕が話をするから。あの・・・やっぱり分かります?」
健太郎 「は?」
修一  「いやだから・・・見た目でダウン症って分かるものですか?」
健太郎 「ダウン症は外見に特徴がありますから」
今日子 「確かに」
修一  「すいません」
健太郎 「いえ、こちらの資料をご覧いただけますか?(資料を出す)」

※   ※ ※

城田  「ダウン症だって」
美南  「やっぱり大変だよね。障害児が生まれると」
城田  「大変だって分かってるんだから産まなきゃいいのに」
明日香 「でも・・・実際に出来ちゃうとそうもいかないんじゃない?」
城田  「俺だったら絶対に産ませないね」
明日香 「え?」
美南  「なんで?」
城田  「だって意味ないじゃん。障害者なんて本人だって絶対イヤだろうし、それに今の世の中で何の役にも立たないじゃん。いる意味ないじゃん」
美南  「じゃあさ、もし城田の子が障害児だったらどうする?」
城田  「俺だったら医者に事前に言っておくね。もし障害児が生まれたら死産だったことにして殺してくれって」
美南  「ハッキリしてる」
明日香 「でもさ、その子にも命があるわけじゃん。その赤ちゃんだって痛みを感じて死ぬことになるんだよ」
城田  「俺は障害児の親になるくらいなら死んだほうがマシ」
明日香 「え」
美南  「ちょっと!声が大きい」
健太郎 「いいですか明神さん!」
修一  「え?」

花畑がツカツカと明日香の席に行く。

健太郎 「あなたがたのお子さんの持つ障害なんて大したことないんです」
城田  「何ですか?」
健太郎 「問題なのはこの社会で、こういう差別のある社会で生きていかなくてはいけないことなんです!」
城田  「何ですかいきなり」
健太郎 「この子は現代の差別社会の代表のようですから」
美南  「すいませんこいつちょっと分かってないんで」
健太郎 「あなたはどう思ってるんです?こういう子と一緒にいること」
美南  「ちょっと恥ずかしいです」
健太郎 「なるほど」
城田  「恥ずかしいの?」
美南  「シッ。でも障害のある子が差別されるのは仕方ないとも思います」
健太郎 「どうして?」
美南  「・・・だって何を考えてるか分からないし」
健太郎 「何を考えてるか分からない?じゃああなたは障害がない人のことは何でもわかるのね」
美南  「いえ、そうわけじゃないですけど」
今日子 「・・・明日香ちゃん?」
明日香 「キョンね・・・」
城田  「あのさ、悪いけど障害者なんて世の中のムダ。おばさん?おじさん?だってそう思ってるだろ!」
健太郎 「お知り合い?」
今日子 「ええ。私の・・・妹です」
美南  「え?明日香のお姉さん?」
城田  「何?」
明日香 「うん・・・」
美南  「あーだから世界くん」
明日香 「そう・・・」
城田  「え?何?」
健太郎 「いい機会ですね。折角だからご一緒しましょ」
城田  「え?どうして?」
健太郎 「さ、明神さん」
修一  「はい」

修一、今日子、席につく。

健太郎 「私は障碍者生涯教育研究所の花畑健太郎です」
城田  「障碍者しょうがいしょうがい?」
明日香 「織部明日香です」
健太郎 「織部?珍しい苗字ね」
明日香 「ええ」
健太郎 「へえ、オリベアスカさん」
明日香 「で、こっちが・・・」
美南  「はじめまして・・・明日香と同じ学校の黒川です」
城田  「城田です」
今日子 「明日香ちゃんの姉です」
修一  「明神です。で、この子が世界です」
健太郎 「さて、まず言っておきます。この子、世界ちゃんはダウン症です」
修一  「はい・・・」
健太郎 「つまり病気ではありません」
美南  「病気じゃないんですか?」
健太郎 「はい。ダウン症は症状です。病気とは直接結びつきません」
今日子 「そうなんですか」
健太郎 「ダウン症の場合、内臓疾患、特に心臓疾患という病気が併発する場合が多いのですが、世界ちゃんはそれがない」
今日子 「良かったじゃないですか修一さん」
健太郎 「ダウン症自体は、この方で言えば眉毛が異常なまでに濃いってことと一緒。この方(城田)、眉毛ボーボーですよね」
今日子 「はい」
城田  「ボーボーって」
健太郎 「あなた名前は?」
城田  「城田です」
健太郎 「こういうボーボーな人を『城田症候群』と呼んでも、城田さんは別に病気じゃないでしょう?」
美南  「まあそうですね」
健太郎 「ダウン症も同じ。病気とは違うんです」
城田  「俺ダウン症じゃないから」
花畑  「あなたは城田症ね」
城田  「なんだそれ」
修一  「でも花畑さん。知的障害は病気なんですよね」
城田  「そうだよ」

一同、そう思っている。

健太郎 「なるほど。みなさんは病気と症状と障害をごっちゃにしてるんですね」
今日子 「違うんですか?」
城田  「難しそうな話だな」
健太郎 「ダウン症の症状として、健常者と比べて成長が遅いことが挙げられます。みんな個人差はあるけど大体二十歳前後までは身長が伸びるでしょ」
美南  「はい」
健太郎 「ダウン症の子はその成長が遅いの。健常者と同じように二十歳くらいまで伸びるけど、ゆっくりだから健常者より背の低い子が多いの」
美南  「なるほど」
健太郎 「同じように知能もゆっくり成長する。身体と違って成長が止まることはないけど、健常者より物を学んだり覚えたりするのに時間がかかるの」
城田  「でも障害持って生まれたってことだよね。そんなの親も本人も辛いだけじゃん」
健太郎 「そうじゃないわよ。ちょっと重い荷物を持って歩いてるってことと同じ。あなただってお婆さんが重い荷物を持ってたら手伝ってあげるでしょ」
城田  「手伝わないし」
美南  「あんた、とことんクズだね」

今日子 「かわいそう」
健太郎 「かわいそう?なんでですか?」
今日子 「だってかわいそうじゃないですか。みんなと違って重い荷物を持たなくちゃいけないだなんて」
健太郎 「みんなと同じなら幸せなんですか?」
今日子 「荷物なんてないほうがいいじゃないですか」
健太郎 「私も性同一性障害という障害を持って生まれてきました。障害者です」
城田  「オカマってことですよね」
健太郎 「イエス、オカマです」
城田  「やっぱりな。そうだと思ったんだよ」
健太郎 「お父さん、私が可哀相ですか?」
修一  「え?何かと大変そうだなーとは思いますけど」
健太郎 「何故です?」
修一  「それは・・・一般的じゃないから・・・」
城田  「そうだよ。オカマなんて変じゃん」
健太郎 「城田症!」
城田  「うわあ」
健太郎 「いい意見です!」
城田  「いいのか」
健太郎 「でも私は自分のことを可哀相だと思ったことは一度もないですよ」
今日子 「一度もですか?」
健太郎 「ええ」
修一  「でもそれはあなたが自分で選んだからじゃないですか?」
健太郎 「選んだ?私は生まれたときから自分を女だと思ってましたよ。性同一性障害ですから。ずっと荷物持ってきましたよ」
修一  「大変だったんじゃないですか?」
健太郎 「大変と思えば大変。でも自分なりのがゴールを見つけたから私は楽しいわ」
一同  「へえー」
健太郎 「お父さん、お母さん、勝手に世界ちゃんを可哀相だと決めるのは大間違いです。世界ちゃんには世界ちゃんにしか見えない素晴らしい未来があるんです」
今日子 「そうなんですか」
修一  「世界にしか見えない未来」
健太郎 「彼はきっと素晴らしい人生を送ります。世界ちゃんを信じてあげてください」
修一  「世界を、信じる・・・分かりました」
今日子 「良かったね世界ちゃん」
健太郎 「ご両親は世界ちゃんと一緒に荷物の持ち方を考えてあげて」
修一  「はい」
健太郎 「あなたがたの人生もエキサイティングになりますよ」
今日子 「エキサイティング?」
修一  「覚悟はできてます。俺、頑張ります」
美南  「明日香、私も世界くんを応援するよ」
明日香 「美南」
城田  「俺も」
美南  「あんたはいいや」
城田  「何でだよ」
美南  「分かってないでしょ城田症」
城田  「はい」
明日香 「キョン姉?」
今日子 「あ、何?」
明日香 「何か吹っ切れた?」
今日子 「吹っ切れた?ああ、まあ世界は大切だからね」
明日香 「よかった。世界ちゃんのこと私も一緒に頑張るから」
今日子 「ありがとう明日香ちゃん」
明日香 「え?何でちゃん付け?」
今日子 「ああ、ありがとう明日香」
修一  「今日子ちゃん、疲れてるんだよ」
明日香 「ふーん」
健太郎 「そうそう、明日香さん今日子さん」
明・今 「は、はい」
健太郎 「あなたがた、ヒロって名前のお兄さんがいるんじゃないかしら?」
明日香 「え?いますけど」
今日子 「花畑さん知ってるんですか?」
健太郎 「ええ。よーく知ってるわよお。かわいいわよね」
明日香 「か、かわいいですか?」
健太郎 「ええ、チャーミングよねえヒロちゃん」
明日香 「チャーミング?・・・もしかして花畑さんあいつと」
修一  「ヒロ兄と?ヒロ兄と関係があるんですか?」
健太郎 「うふふ。いい?私と会ったことはヒロちゃんには内緒よ」
明日香 「ないしょって・・・」

秘め事を仄めかすようにウインクする健太郎。

みんな 「え?え?えー?」

健太郎、去る。みんな追う。

喫茶店の前
それを見ていた御麿と宏美。御麿には山盛りに白い生地の入った袋。
そこに来る弘一。

弘一  「・・・(両親に気付くが素通り)」
宏美  「弘一!」
御麿  「御麿でオマ」
弘一  「だから声かけたくなかったんだ」
御麿  「御麿でオマ、弘一でオマ」
弘一  「やめろやめろやめろ。弘一じゃねえだろ」
御麿  「気付いてるなら声をかけるのが礼儀でオマ」
弘一  「ごめんごめん。なんでその格好なの?」
御麿  「普段着でオマ」
弘一  「オマ言うのやめろ」
御麿  「いけずう」
弘一  「まあいいや。どうしたのこんなところで?」
宏美  「どうでもいいだろ」
弘一  「まだ怒ってんのかよ」
宏美  「当たり前だろ。そんな簡単に許せるかって。全く十五年・・・」
御麿  「そろそろ怒るのにも飽きたでオマ」
宏美  「飽きてないよ」
弘一  「それなに?」
宏美  「何でもないよ」
御麿  「こないだは申し訳なかったね」
弘一  「え?」
宏美  「お父さん」
御麿  「御麿からの謝罪でオマ」
弘一  「それ、謝ってるの?」
御麿  「オマ!(深く頭を垂れる)」
弘一  「俺に謝ってもしょうがねえだろ。謝るなら直接・・・じゃなくて俺から伝えとくよ」
宏美  「何か隠してる?」
弘一  「え?ないよ」
宏美  「何?」
弘一  「今更隠すことなんて何もないよ。やだなあ母さん」
宏美  「なれなれしい呼び方しないでちょうだい」
弘一  「だって母さんは母さんじゃん」
宏美  「行きましょう!」
弘一  「どこ行くんだよ」
宏美  「帰るのよ」
弘一  「帰り道あっちだろ」
宏美  「うるさい」

宏美、家方向へ去る。

御麿  「素直になれないお年頃でオマ」

宏美を追う御麿。
暗転。



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同じ日に生まれた二人の赤ちゃん。ひとりは元気な女の子、もうひとりはダウン症を持った男の子。幸せになるために生まれてきた二人の赤ちゃんを授かった、二つの家族の物語です。楽しく、時に息をのむように読んでいただけたら幸甚です。気に入ってくださったらぜひお買い求めくださいね。

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