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「享保の暗闘~吉宗と宗春」4

第4景
 
名古屋市中・遊郭
六道屋が喜八を連れて遊びに来ている。
小さん、千早、朝雲が戯れている。

    稽古風景

    「名古屋名物」(2番)              
     https://www.youtube.com/watch?v=o3SLSvI_NDw
    ♪ 名古屋名物 おいて頂戴もに すからたんに おきゃあせ       
     ちょっとも だちゃかんと ぐざるぜえも     
     そうきゃも そうきゃも 何でゃぁも     
     とろくせゃぁこと 言やぁすなも
     やっとかめだこと あらすかえ
     お前様ちょぼっと来やせども お前さん内にはおれせんが       
     やあたらしい事 やめてちょう
     つねぎるぜえも

喜八  「(酔って)決めた!俺が小さんを身請けする」
小さん 「また喜八さん、ご冗談ばかり」
喜八  「冗談じゃねえ。俺は本気にで小さんと暮らしてえんだ」
小さん 「ありがとうございます。優しいねえ喜八さんは」
喜八  「そうなの。ぼく優しいの」
六道屋 「あんたさ、身請けするのにどれくらいお金がかかるか知ってて言ってる?」
喜八  「バカにすんな。俺の作る畳は名古屋で一番なんだ。金なんていくらだってある」
六道屋 「まあ夢を見るのは勝手だけどよ。尾張バブルか知らないけど、春さんも罪作りなことをしたもんだな」
喜八  「え?なんだって?」
六道屋 「何でもないよ」
朝雲  「喜八さん。本気で姐さんを身請けするつもり?」
喜八  「そうだよ」
 
千早と朝雲、爆笑する。
 
喜八  「笑うんじゃねえ」
千早  「何をバカなこといってんだい。そんなの無理に決まってるじゃないか」
喜八  「何で?」
千早  「無理なものは無理なの。あんた長屋暮らしだろ?」
喜八  「だったら何だよ」
朝雲  「絶対無理、絶対無理だから」
喜八  「お前らに言われたくないよ。ねー小さん」
小さん 「喜八さん、私たちは親の借金支払うためにここにいるんだよ。あんたに私の親の借金、肩代わりできるのかい?」
喜八  「いくらあるんだい?」
小さん 「そんなの言えるわけないだろう」
喜八  「教えてくれよ。俺が絶対支払ってやる。いくらなんだよ」
小さん 「六さん」
六道屋 「いいじゃねえか。教えてやんなよ」
小さん 「そんな無粋なこと」
六道屋 「この男が無粋なんだから仕方ねえじゃねえか」
喜八  「教えてくれ」
朝雲  「姐さん、教えてやんなよ」
千早  「私たちは聞かなかったことにするからさ」
小さん 「200両」
喜八  「え?何が200?」
六道屋 「小さんには借金が200両あるんだよ。それに店への身代金合わせたら400両ってとこかな」
喜八  「400両!400両なんて見たこともねえよ」
六道屋 「だから諦めなって。小銭を貯めて、ときどき座敷に上がりゃあいいじゃねえか」
喜八  「でも俺は・・・俺は・・・」
千早  「情けないなあ無理なもんは無理なんだって」
朝雲  「男のくせに泣くんじゃないよ。酒がマズくなるだろう」
喜八  「俺は本当に小さんと一緒になりたいんだよお。小さんには幸せになって欲しいんだよお」
小さん 「もう喜八さん、その気持ちだけで充分だから」
喜八  「小さん」
小さん 「無理しなくても、昼間に会えばいいじゃないか」
千早  「姐さん!いいのかいそんなこと言って」
小さん 「だってしょうがないだろ。お金がないって言うんだから」
六道屋 「さーてと。厠行ってくるわ。おい千早、連れてってくれ」
千早  「はい」
喜八  「六さん、俺も行きます」
六道屋 「えー」
小さん 「朝雲、連れってってあげて」
朝雲  「はい」
 
六道屋、千早、喜八、朝雲、出ていく。
小さん、座敷を少し片づけて
 
小さん 「まったくしょうがないお人だね」
 
小さん、満更でもない様子で別の方向へ出ていく。
 
江戸・尾張藩邸
乗邑、神尾が書状を持って上座に座る。
宗春、下座に座す。

乗邑  「本日は公儀の上意を伝える上使として参りました故、こちらに座らせていただく」
神尾  「よいですな」
宗春  「ははっ」
 
乗邑、書状を拡げて
 
乗邑  「一、遊山等、在所は勝手なるも、江戸は諸大名入交の儀、公儀、三家同様の事に候ところ、相違い候らいては如何のことに思し召し候」
乗邑  「一、嫡子、初のぼり、市人を邸内に引き入れ見物せしむる。万五郎、いまだ表向きに披露も致さず。かつ権現様御旗をも建て申し候よし、雑人触穢(ぞうにんしょくあい)も計り難きところ、軽々しく思し召し候」
乗邑  「一、総ての公儀に従い仰せ、いだされ候、趣を相守らず、倹約令の儀も仰せ出され候由。天下諸士の見聞もあるべくこれ云々」
乗邑  「右三箇条の趣き、お請けあられるべく候事」
 
宗春、更に頭を低くして
 
宗春  「仰せいだされ候の段、おそれかしこみ候。お咎めいただいた議、いちいちごもっともでござる。今後は慎み改めます故、公方様には何卒よしなにおとりなし下さいますようお願い奉りまする」
神尾  「!」
乗邑  「お、おお、さようか。畏まり申した。そのように上様にお伝えさせていただきまする」
宗春  「ははっ」
乗邑  「(安心して)」
宗春  「では」
 
立ち上がり、三人の座り位置が対等になる。
星野、入って来て宗春の後ろに控える。
 
宗春  「お使者のお役目、大変ご苦労にござった」
乗邑  「お蔭様にて、無事にお役目を果たすことができましてござりまする」
宗春  「さて。ここからは雑談になりますが」
乗邑  「はい」
宗春  「世の中とは移り変わるものでございますなあ。かつての名刀も、今となっては錆びついた鈍刀になっていることもある」
乗邑  「?」
神尾  「?」
宗春  「先ほどの口上の中に、三家という言葉がありましたな」
乗邑  「はい」
宗春  「三家とは古来正しくは、公方、尾張、紀伊を指すもの。古より三家は同格。尾張、紀伊は公方に対し『天下』と言うが『公儀』とは言わぬ。『御意』と言うが『上意』」とは言わぬ。『御使い』と言うが『上使』とは言わぬ。『ご返答』と言うが『お請け』とは言わぬ」
乗邑  「・・・」
宗春  「松平殿、ご返答いかに」
乗邑  「・・・」
宗春  「まあよかろう。ご尋問の中に、遊山云々の話がございましたな」
乗邑  「いかにも」
宗春  「つまり国元での物見遊山はよいが、江戸は大名が多くいるから『将軍家』と同様に慎めということだな」
乗邑  「はい」
宗春  「おかしな話だとは思わぬか」
乗邑  「は?」
宗春  「では、人に見られぬところであれば、大いに遊山してもよいということか。将軍家ではそのようにされておるということか」
神尾  「え?あ、いや」
乗邑  「決してそういう意味ではございませんが」
宗春  「俺は、国元でも江戸でも万民を苦しめて己一人が楽しむような遊山をしたことはない。諸大名に対しても何ら恥じるところはござらぬ」
乗邑  「・・・」
宗春  「むしろ裏表のある人をこそ非難すべきではござらぬか。表ではもっともらしくしていて裏でよからぬ動きをする。俺を暗殺しようとしている者もおるようだ。のう松平殿」
乗邑  「そのような者、卑怯者の極みにござりますな」
神尾  「・・・」
宗春  「次に我が嫡子万五郎の節句のことは、人が横からあれこれ言われる類のことではありますまい。こういうものは各地方の風俗に関わること。そもそも町人に節句の幟を見物されてはならぬ、という禁制でもあるのか?」
乗邑  「分かりませぬ」
宗春  「星野、お前は知っておるか」
星野  「いえ、存じ上げませぬ」
宗春  「うむ。そもそも大名の嫡子は元服を以って幕府に届け出るものであり、生まれてすぐに届けるものではない。これは元服に至らずに亡くなる子も多いため、元服を以って慶事とし、幕府に届け出るものだからである。神尾殿、そなたにも小さな子がおったな」
神尾  「は、はい」
宗春  「そなたの子は幕府に届け出ているのか」
神尾  「いえ」
宗春  「なるほど不思議なことだな」
星野  「全くです」
宗春  「それと、権現様の御旗のことだが」
乗邑  「もう、充分にございます」
宗春  「なに?」
乗邑  「これはただの雑談、そうでございますな」
宗春  「そうだ」
乗邑  「では我々はこれで」
宗春  「最後にひとつだけよいかな」
乗邑  「何か」
宗春  「松平殿は倹約とはどういうことか分かっておいでか」
乗邑  「どういう意味でござる」
宗春  「近頃巷では、倹約倹約と言っておるが、正しくその意味を知らないのであれば、それはつまらないことではないか」
乗邑  「聞き捨てなりませぬな」
宗春  「他藩を見渡せば、表向きばかり倹約を口にしているが、口で言う通りにちゃんと倹約をしていればすでに金銀米銭が貯まっていて当然のはず。しかしどこぞの借金は年々大きくなり、町人を虐げ、無理な理屈をつけては大いに搾り取り、それでもまだ足りないと言っている」
乗邑  「宗春様、それは幕府の倹約令のことを申しているのではありますまいな」
宗春  「まさか。松平殿は何故そのように思われたのです」
乗邑  「いや、違うなら構いませぬ」
宗春  「俺は江戸入りや国入りの際に華美に振舞うが、上の者が浪費をすることで経済を刺激し、金の流通が起こり、庶民の生活に潤いをもたらすよう働きかけている。金を動かすことではじめて金は生きるものだ」
星野  「事実、尾張藩は先代までの借金すべて返済を終えておる。町人に辛い仕事を強いることもなく、百姓に課す税も低く抑えている」
宗春  「民と共に世を楽しんでいる」
乗邑  「藩主が民と共に世を楽しむ?」
宗春  「何かおかしなことを申したか?」
乗邑  「藩主と民は相反するもの。共に楽しむことなど考えられませぬ」
宗春  「でも、そのほうが万民が幸せではないか」
乗邑  「それはそうですが」
宗春  「とにかく俺は俺なりに倹約令を進めている。その証拠に尾張には借金もなければ不服を申し立てる者もおらぬ」
乗邑  「・・・は」
宗春  「わざわざご足労いただき感謝奉る。公方様にはよしなにお伝えくだされ」
乗邑  「・・・はは」
宗春  「では」
 
宗春、去る。続いて星野、一礼して去る。
残された乗邑、神尾。
 
神尾  「宗春様、なかなかの切れ者ですね」
乗邑  「・・・」
神尾  「松平様?」
乗邑  「俺は今までこんな屈辱を味わったことはない」
神尾  「え?」
乗邑  「あのナンパ野郎、絶対に許さん」
神尾  「ナンパ野郎って・・・尾張藩主ですよ」
乗邑  「徳川宗春、ぶっ潰す」
 
江戸城内。
控える乗邑と神尾。
吉宗が来る。

稽古風景

乗邑  「上様、私はもう我慢ができませぬ」
吉宗  「乗邑」
乗邑  「は」
吉宗  「お前の感情などどうでもよい。宗春は倹約は大いに行っていると、そう申したのだな」
乗邑  「はい。しかし宗春様は幕府の進めている倹約令は間違っていると強く批判なされました」
吉宗  「そんなことはどうでもいい。わしからの詰問に対しては詫びていたのだな」
乗邑  「はい」
吉宗  「ならば良い。詫びておったならば一度は許すしかなかろう」
乗邑  「御意にございます」
吉宗  「どうだ?宗春は聡明だったか」
乗邑  「さあ、いかがでしょう」
吉宗  「春央、お前はどうだ?」
神尾  「大した人物なのはよく分かりました。あの温知政要を書いたのも酔狂ではなく、宗春様自身が本当に考え抜いて書いたものであると確信いたしました」
吉宗  「そうであろう」
神尾  「ただ・・・」
吉宗  「何だ」
神尾  「敵に回したら、厄介な男になると、某はそのように感じました」
吉宗  「なに。所詮は夢見るだけの若者。厄介なことなど何もなかろう」
乗邑  「ははっ」
吉宗  「わしは宗春の見ている夢が好きだ。だが同じ夢を見られぬこともあろうな」
 
去る吉宗。続く乗邑と神尾。

尾張藩邸
反対側からドタドタと宗春が登場。星野が後に続く。
宗春、ゴロンと横になり、星野は控える。
 
宗春  「俺は言い過ぎてしまったようだな」
星野  「はい」
宗春  「恐らく今日のことで俺の藩主としての命は終わるだろう」
星野  「それはまだ分かりますまい」
宗春  「分かるだろう。俺は吉宗様を直接批判したようなものだ」
星野  「・・・」
宗春  「星野」
星野  「はい」
宗春  「俺は政がどういうものか分かっておらぬのかもしれぬ。民の幸せを考えることこそが政だと信じてきた。だがそれだけでは政は動かせぬものなのかもしれぬな」
星野  「殿、一つだけ申し上げてよろしいでしょうか」
宗春  「なんだ」
星野  「殿はご自身の正義を信じ続けてここまで立派に藩主としてやられてこられました」
宗春  「ああ」
星野  「しかし正義はひとつではなく、他の正義もあるのかもしれないと、そう思うことがございます」
宗春  「正しいことはひとつではないというのか」
星野  「分かりません。ただ、そう考えてみることも大切なことではないかと」
宗春  「ふむ」
星野  「自分の正義だけでなく、他の者の正義もあると考えた場合、正義と正義とで争いが起こることになる。それはきっと一番不幸な争いになります」
宗春  「なるほど、そうなるとどちらも引けぬからな」
星野  「さようでございます」
宗春  「ははーん」
星野  「何でしょうか」
宗春  「吉宗様の考える正義が何であるか、それを考えよと申すのだな」
星野  「私はそのようなこと申しておりません」
宗春  「分かった。考えてみることにしよう」
星野  「は」
竹腰  「殿、よろしいでしょうか」
宗春  「竹腰か。いかがした」
 
来る竹腰。
星野、竹腰の後ろに控えなおす。

稽古風景

竹腰  「公方様はなんと?」
宗春  「何のことはない。幕府に従えと言われただけだ」
竹腰  「それで殿はなんと」
宗春  「俺は俺なりに従っているつもりだが、今後気を付けると申しておいた」
竹腰  「それだけですか」
宗春  「そうだ」
竹腰  「(安堵して)そうでしたか」
宗春  「どうした?」
竹腰  「はい?」
宗春  「何をそんなに安堵しておる」
竹腰  「え」
宗春  「何か心配でもあったのか」
竹腰  「いえいえ別に。聞いておきたかっただけでございます」
宗春  「・・・竹腰家は代々尾張藩に仕えてくれている附家老だ。幕府とのつながりも深い」
竹腰  「恐れ入りましてございます」
宗春  「何か知っていることがあれば必ず伝えてくれ。頼りにしているぞ」
竹腰  「ははっ」
 
宗春、立ち上がり行こうとする。
 
竹腰  「殿!」
宗春  「なんだ」
竹腰  「身辺くれぐれもお気をつけください」
宗春  「どういう意味だ」
竹腰  「・・・」
星野  「竹腰殿、殿はどういう意味かと聞いておる。答えられよ」
竹腰  「松平乗邑様に御諫言をいただきました」
宗春  「なに」
星野  「なんと?」
竹腰  「幕府の意向に沿わない政を続けるならば、藩主を代えるしかないと」
宗春  「乗邑がいいそうなことだ」
竹腰  「附家老として宗春様をお諫めせよ。もしそれが叶わぬときは・・・」
宗春  「なんだ?」
星野  「竹腰殿、叶わぬときはどうすると申されたのだ」
竹腰  「某は附家老の身。元を正せば幕府の者にございます。御察しくだされ・・・」
星野  「竹腰殿!」
宗春  「よい。竹腰にも大儀があるのだ。無理強いはできぬ」
星野  「は」
竹腰  「申し訳ありません」
宗春  「竹腰」
竹腰  「は」
宗春  「俺は公方様が藩主を辞めろというならすぐにそれに従うつもりだ」
竹腰  「・・・」
宗春  「だがそれは乗邑に言われる筋合いのことではない」
 
そこへ若侍が入って来て。
 
若侍  「火急につき申し上げます」
星野  「どうした」
若侍  「御嫡男万五郎様、ご危篤との由にござります」
宗春  「なんだと!」
 
宗春、星野、若侍、出ていく。
 
名古屋・市外
喜八が走ってくる。追ってくるふく、ひで。

稽古風景

ふく  「ちょっと待ちなさいよ。バカ言ってんじゃないよ」
喜八  「ごめんふく。俺、行かなくちゃいけないんだ」
ひで  「どこに行こうっていうのさ」
ふく  「あいつバカだから、西小路の遊女を身請けするって言うんだ」
ひで  「身請け?そんなの無理に決まってるじゃない」
喜八  「そんなのわかんねーだろ」
ふく  「大体身請けなんて幾らかかると思ってるのよ」
喜八  「うるせー。俺は小さんと約束したんだ。必ず夫婦になるってよ」
ひで  「小さん?」
ふく  「そんなの無理だって彼女だって分かってるでしょ。真に受けるんじゃないよこのバカ」
喜八  「金なんてなくたって夫婦になれるんだよ」
ふく  「なれないわよ」
喜八  「なれんだよ。この世でなきゃ」
ふく  「はあ?」
ひで  「あんたまさか、心中しようとしてるのかい?」
喜八  「身請けできなかったらそうするしかねえだろ」
ひで  「心中ってのは美男美女がするって相場が決まってるんだよ。あんたが心中なんて、笑われちまうよ」
喜八  「うるせえ!小さんはこんな俺でもいいって言ってくれたんだ」
 
そこに現れる小さん。
 
喜八  「小さん」
小さん 「喜八さん」
ふく  「小さんさん、あんた冗談だよね。こんな男、本気で好きになったりしないだろ。ちゃんと別れてやってくれよ」
喜八  「黙ってろふく」
小さん 「ふくさん、私は本気なんです。本当に喜八さんに恋をしてしまったの」
ふく  「こんなデブに恋って。どうかしてんじゃないの」
小さん 「どうかしてるのかもしれません」
ふく  「あんたそんなに綺麗なのに、よりによってこんな男を好きにならなくたっていいじゃないか」
ひで  「大体、喜八のどこに惚れちまったのさ」
小さん 「喜八さんは私のためにならすべてを失ってもいいって。そう言ってくれたんです。大店と旦那衆が出すお金なんかよりその思いに惚れてしまった」
ふく  「何バカなこと言ってんだい。目を覚ましなよ」
喜八  「ふくすまねえ、俺は命に代えても小さんと一緒にいたいんだ。ごめん」
 
ふくが喜八の腕を取ろうとすると、ひでがそれを止める。
 
ふく  「なにすんだい」
ひで  「喜八っつあん。いいかい。身請け金が折り合わなかったら必ず諦めるんだよ。足抜けなんてさせたらこの人を不幸にするだけ。心中なんて考えるんじゃないよ。いいね」
喜八  「お、おう」
ふく  「喜八!」
喜八  「お前たちにはホント世話になった」
 
喜八、小さんと去っていく。
 
ふく  「あいつ、バカだ」
ひで  「仕方ないよ、あれが喜八ちゃんの生き方なんだからさ」
 
ふく、ひで、去っていく。

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