見出し画像

番ねずみのヤカちゃん ~耳に残るは「たいへん、たいへん!」の声~

「番ねずみのヤカちゃん」(作/リチャード・ウィルバー 絵/大社玲子)との出会いも、地域文庫の先輩による「すばなし」でした。
なんと、20分以上の「すばなし」です。
おもしろさに、我を忘れてしまいました。
あっと言う間の20分です。

あるところに、おかあさんねずみと、四ひきの子ねずみがいました。
子ねずみたちのうち、三びきは、おとなしくて、しずかな子でした。
でも、四ひきめは、「やかましやのヤカちゃん」とよばれていました。

ねずみの親子は、ドドさん夫妻の家のかべとかべのすき間に住んでいます。

「おまえたちも大きくなった。もうそろそろ、自分で好きなところへいって、自分でたべものをみつけて、自分でくらしていってもいいころだ。でも、そのまえに、おまえたちに、ひとつだいじなことを、はなしておかなくっちゃ」

ねずみが自分の家に住んでいると知ったら、ドドさんたちは、ただじゃおかない。
だから、気付かれないように気をつけなければいけないよ、とお母さんは子どもたちに言い聞かせます。
そして、最後にこう言います。

「これがいちばんだいじなことだけれど、けっして音をたててはいけない。音をたてれば、すぐドドさんたちにきこえてしまうからね」
「うん、わかったよ、おかあさん」

と、3人のおとなしい子どもたちは、小さな声で返事をしました。ヤカちゃんはと言えば、

と、元気に返事します。

「しーっ、しずかに!」

お母さんは慌てます。そして、ドドさんたちに気づかれたら、ねずみとりをしかけられてしまうよ、と諭します。

こうして、いよいよヤカちゃんはかべの外へ出ていくのですが、ヤカちゃんの大きな声が災いして、家族は危機的な状況に。
けれども、最後には、ヤカちゃんの大声が、ドドさん夫妻を含め、みんなを救うことになるのです。
そしてわかるんです。
ヤカちゃんが「番ねずみ」と呼ばれる訳が。
災い転じて福と成す。

声の大きな人って、生きるパワーも強くて、強運な人が多いような気がします。

このお話をしてくれる先輩もまた、普段からおなかから声を出しているような声の大きい方なんですよ。
そして、また表情も豊か。
この本を手に取ると、今でもその先輩の

「たいへん、たいへん。居間にねずみとりがしかけてあるよ」

という大声が、頭の中に響いてきます。

初めて先輩の『ヤカちゃん』を聞いたとき、「これはもう絶対、娘に聞かせてあげたい」と思い、娘の学年の学校おはなし会で語ってもらえるよう、お願いしてしまいました。
ところが、そのおはなし会の当日、娘のクラスはインフルエンザで学級閉鎖に。娘は聞くことができませんでした。

そこで先輩は、娘が地域文庫のおはなし会で聞けるように、取り計らってくださいました。けれどそれも、東日本大震災のため、叶わなかったのです。

そして震災の一年後、私たちは、関東から九州へ移住することになりました。すると先輩は、引っ越しをする私たちのために、ご自宅でお別れおはなし会を開いてくださり、娘はついに先輩の『ヤカちゃん』を聞くことができたのです!

一緒に通学しているお友達4人も招待され、文庫の先輩お二人の人形劇を見て、ヤカちゃんのおはなしを聞いて、ゲームをして、おやつを食べて…。
本当にあったかくて、楽しい会でした。
あったかすぎて、涙が出ました。

娘も家へ帰るなり、自分の持っている「番ねずみのヤカちゃん」を読み返して、しみじみとしていました。

私たちの大切な大切な思い出の絵本です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?