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【ショートショート】台s アニバーサリー

「灯台さん、開設百周年おめでとうございます」
 時計台が言った。
「おめでとうございます」
 天文台も続けた。
「ありがとう。でも、私も歳だからねえ。実は取り壊しが決まったんだよ」
「え!」
 突然の告白に二人の台は言葉を失った。
「技術の進歩で船も灯台がいらなくなったしねえ……時代の流れには逆らえないのさ」
「いや、実は……」
 天文台も告白した。
「僕も来年取り壊されることになったんですよ」
 時計台は思わず針を止めた。
「だって天文台さん、この間八十周年を祝ったばかりじゃ……」
「近くに電波天文台ができてね。お役御免というわけさ」
「そうですか……自分もわからないですね」
 灯台はライトを明るくして言った。
「時計台くんは大丈夫だよ。この街の名所だからね」
「そうそう。いつまでも元気でね」
 二人の言葉に時計台は決意した。
「わかりました。これからお二人の開設記念日が来た時は、いつもより1回多くチャイムを鳴らすようにします。みんながお二人のことを忘れないように!」
「おお、それはうれしいね!」
「時計台くん、ありがとう!」

 それからずっと、時計台は灯台と天文台の開設記念日の午前零時にはチャイムを1回多く鳴らし続けた。
 街の人々は年に2回だけ起こるこの現象に首をひねった。

 やがて、再開発に伴い時計台も取り壊しが決まった。

 だが市民は文化財として時計台の保存運動を行い、取り壊しは移築となった。
 移築先は灯台のあった岬を見下ろす丘の上にある天文台跡地。
 時間を知らせる役目はもういいとして、チャイムは停められた。

 だが、なぜか年に2回、動かないはずのチャイムが鳴るのだった。


たらはかにさんの募集企画「#毎週ショートショートnote」参加作品です。
お題は「台にアニバーサリー」。
童話風にまとまりそうだったので、410字いけるかな?
と、思ったけど無理でした。
😅

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