見出し画像

【ショートショート】走らないけど飛ぶ

「走らない…けど、飛ぶクルマ?」
 私は博士に聞き返した。
「そうだ!助手よ、今度こそ画期的な発明だぞ!」
 助手として勤めて3年。
 この人の「画期的な発明」が本当に画期的だったことはない。
「安価でコンパクトな、空飛ぶ乗り物!これこそ人類の夢じゃろう。ただし走る機能は割愛した。そのまま垂直上昇して空中に飛び立つようにだな…」
「あのー、それってただのVTOL(垂直離着陸機)じゃないんですか?」
「ぶいとーる?なんじゃそれは?」
「知らないんですか? ほらハリアーとかオスプレイとか…」
 まただ。
 この人は、科学に対する野生のカンとしか言いようのない才能と技術には長けているものの、一般的な常識や世間に流通している知識がまるで欠けているのだ。
 常識はないけど、天才科学者…
 その白髪頭からは、とっくに世界で普及しているものばかりが出て来るのだ。
 私はため息をついて、かたわらに置いてあったクルマのボンネットに座り込み頭を抱えた。
 それは先日、博士が『飛ばないけど走る飛行機』とか言って造り上げた、ウイング付きのスポーツカーだった。



#シロクマ文芸部 さんの企画に初参加です。
お題は「走らない」という書き出し。
よろしくお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?