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全国自然博物館の旅⑭神流町恐竜センター

一昔前までは「日本では恐竜は見つからない」などと言われ、多くの古生物学青年は海外での研究を夢見ていました。しかし、現代では国内で恐竜化石の大発見ラッシュが続いており、日本の恐竜研究を発展させたいと考える学生が増えています。
今回は日本国内の恐竜スポットの1つ、群馬県の神流町かんなまちを訪れました。恐竜センターで群馬の古環境を学べば、かつてこの大地にも圧巻の恐竜王国が広がっていたことを理解できます。


観光大使は恐竜! サウルスくんに会いに行こう!!

恐竜が好きな人なら、サンチュウリュウという日本産のオルニトミモサウルス類(ダチョウ型恐竜)について聞いたことがあるでしょう。
埼玉県から長野県にかけて、山中地溝帯さんちゅうちこうたいという地層が続いています。そこから出土した化石がサンチュウリュウの骨格であり、産出地の神流町(発見当時の名称は中里村)では恐竜を町おこしに活用しています。
なお、サンチュウリュウ以降も新発見が相次いでおり、神流町は日本の恐竜化石の重要産地の1つであると言えます。これは恐竜マニアなら絶対来訪すべきですね!

神流町は群馬県と埼玉県の県境付近の山中に位置しており、アクセス手段として、筆者は安定のレンタカーを選択しました。近いから秩父側から向かおうと判断したのですが、これが地獄の始まりでした……。

神流町は埼玉県寄りなので、距離的に秩父から行くのがいいかなと判断しました。ですが、これがとても大変なルートだったのです(笑)。

山道に入った途端、急カーブに次ぐ急カーブ! そして道幅が狭い!
対向車をなんとかやり過ごしつつ、慎重に進みます。運転に全集中しながら車を走らせ、なんとか県境を越えて群馬県へ突入です。

群馬県に入りました。ここからは神流町、恐竜王国です。

筆者と同じ秩父ルートはあまりオススメしません。ここは、群馬県内でレンタカーを借りて藤岡市方面から来訪しましょう。そちらの方が道も広くて安全ですし、可愛い神流町観光大使「サウルスくん」の大きな看板が見られます。

藤岡市方面から車で来ると、神流町の観光大使「サウルスくん」の大看板が見られます。そのうえ、秩父ルートよりも道が広くて安全です。

秩父ルートで来て良かったと思えるのは、恐竜センターへ向かう道中にて、恐竜の足跡が刻まれた漣岩に立ち寄れることです。大地を歩いた恐竜たちの痕跡が、約1億年もの間、神流町に残され続けてきたのです。

3種類の恐竜の足跡が残された漣岩さざなみいわ。藤岡市方面のルートからでも容易に到達できるのでご安心ください。
近くの看板にて、どこに恐竜の足跡があるのか詳しく解説してくれています。手摺付近のボタンを押せば音声解説も始まるので、ぜひ聴いてみましょう。

漣岩を過ぎて、さらに道を下っていけば、いよいよ神流町恐竜センターに到着です。当地で発見された獣脚類恐竜サンチュウリュウの銅像が目印です。

サンチュウリュウの銅像。こちらはセンター建立時に設置されたもので、旧復元のものとなっています。
新復元されたサンチュウリュウの実物大模型。最新の研究に基づき、羽毛をまとった姿となっています。全長は約5 mあり、ダチョウ型恐竜の中では大型です。

センターの駐車場に車を停めたら、博物館へ出発です。本館は太古の群馬県へとつながり、さらにモンゴルの恐竜たちの世界に我々を連れていってくれます。

恐竜センターの外観。太古の神流町には、果たしてどんな恐竜がいたのでしょうか。
センターの表側の壁には、サンチュウリュウとタルボサウルスが描かれています。どちらも本館の主役級のスターです。
入口前の自販機にもサウルスくん発見! めっちゃ萌えます(笑)。

群馬県の山中に広がるロスト・ワールド

サウルスくんと恐竜の世界を大冒険!

今回の来館で筆者はサウルスくん激推しとなりました。館内においても、彼が我々を恐竜の世界へナビゲートしてくれます。

いざ恐竜の世界へGO! サウルスくんは、思わぬところで再登場してくれます。
ちなみに、神流町はアウトドア用品メーカーのmont-bellのフレンドタウンです。mont-bell会員の方は、入館料が割引されます。

まずは、先ほどの漣岩でも見た足跡化石について学んでいきましょう。化石になるのは骨や歯だけでなく、生き物が歩いた跡や這った跡も大地に保存されて鉱物として残るのです。これらを「生痕化石」と呼びます。

大型植物食恐竜の足跡。こういった痕跡から、足跡をつけた恐竜の歩くスピード、腰までの高さなどの情報がわかるのです。
全長10 m、体重7 tにもなる植物食恐竜イグアノドンの足跡(標本の左側のモミジ型の部分)。標本とフィギュアを合わせて置くことで、どんな恐竜がつけた足跡なのかを教えてくれます。
生痕化石は足跡だけに留まりません。こちらは、恐竜の胃の中にあった石。あらかじめ石を飲み込んで、胃の中の食べ物をすり潰し、消化を助けるのです。

本館の主役はもちろん群馬県の恐竜ですので、ほどなくして神流町で見つかった恐竜たちのラッシュが始まります。サンチュウリュウの他にも、実に様々な古生物が発見されています。

サンチュウリュウの胸胴椎骨(腰に近い背骨の一部)とフィギュア。ちなみに、このフィギュアは本館でのみ販売している超限定アイテムです
神流町で発見された大型肉食恐竜の歯。左の歯は福井県産のフクイラプトルのものではないがという説があり、右の歯は遊泳を得意とするスピノサウルス類のものです。
神流町産の植物や淡水二枚貝の化石。これらの標本の研究から、当時の日本と韓国が陸続きであったことがわかりました。

神流町の化石だけでなく、海外産の恐竜・翼竜たちも展示されています。少々悔しいですが、やはり海外の大型種には強烈な迫力がありますね。

角竜類カスモサウルスの頭骨。頭部には穴が開いて軽量化が図られており、そのうえ四肢も頑丈だったので、素早く動くことができたと思われます。
竜類類恐竜(カミナリ竜)アパトサウルスの後脚。これだけ大きくて頑丈な脚を備えていれば、30 t以上の体重を支えられるのも納得です。
翼竜アンハングエラの頭骨。プテラノドンと違って顎に歯が生えていて、獲物をがっちりと咥えたまま飛行することができました。

恐竜・翼竜以外の大型動物の化石にも、固有のかっこよさと迫力があります。個人的に海棲爬虫類が好きなので、魚竜(魚のような流線型に進化した爬虫類)キンボスポンディルスが見られて大満足!

爬虫類版のイルカこと魚竜キンボスポンディルス。この標本は全長2.5 mあります。
こちらは古代の魚、イクチオデクテス。白亜紀後期のアメリカの海に生息していました。尾ビレが超かっこいい。

そして、ここからは特別シアターの時間。我らのサウルスくんの登場です。
ご年配の博士の指示を受け、白亜紀後期のモンゴルにタイムスリップ! サウルスくんが様々な恐竜たちと出会い、彼らの生態や当時の環境について学んでいきます。
ですます口調で慌てふためくサウルスくんが超可愛いです(笑)。

サウルスくんが白亜紀のモンゴルへタイムスリップし、我々に恐竜の世界を見せてくれます。プロトケラトプスとヴェロキラプトルが大激突!
アジア最強のタルボサウルスの迫力に圧倒されるサウルスくん。確かに、これほどの大型肉食恐竜と出会ったら誰でもビビりますね。

日本とモンゴルをつなぐ恐竜研究の道

シアターでサウルスくんの活躍を見届けたら、隣の建屋に移りましょう。1階の展示室には、剣竜類トゥオジャンゴサウルスの全身骨格と、神流町の古生物に関する展示があります。
詳しい解説パネルがたくさんありますので、ぜひじっくり勉強して、アジアの恐竜たちに想いを馳せましょう。

アジアの剣竜類トゥオジャンゴサウルス。背中の骨板と尻尾のトゲが特徴です。やっぱり武装恐竜はかっこいい!
大型肉食恐竜スピノサウルスの頭骨。ワニのように長い顎が特徴です。彼らに近い仲間の恐竜が、太古の神流町に生きていたのです。
たくさんの化石標本に加え、キャプションも充実しています。かなり濃密な解説であり、恐竜マニア大満足です。

続いては、サウルスくんも出会ったモンゴルの恐竜たちが登場します。数々の動植物化石の共通点から、白亜紀の神流町はユーラシア大陸と地続きであったことがわかっています。サンチュウリュウに近縁なダチョウ型恐竜がモンゴルに生息していたことも、その証拠なのです。

スロープを上がって2階に出ると、そこに佇んでいるのは、アジアの暴君タルボサウルスです。全長10 mを超える大型肉食恐竜の威容は、見る者を圧倒します。

2階の展示ホール中央に立つ、アジア最強の肉食恐竜タルボサウルス。顎の力は、大型恐竜の骨さえ砕くほど強力でした。

タルボサウルスの周囲には、多くのモンゴル産の恐竜たちが並んでいます。日本の恐竜たちの進化を考えるうえで非常に重要な標本ですので、マニアならしっかり見て学んでおきたいところです。

アルティリヌスの頭骨。イグアノドンに近い恐竜で、膨らんだ吻部が特徴的です。
鎧竜サイカニアの全身骨格。見ての通り、頑丈な鎧が全身を覆っていましたので、肉食恐竜の強力な攻撃を跳ね返すことができました。
プロトケラトプスとヴェロキラプトルが戦ったまま化石になった「格闘化石」のレプリカ。お互い、相手に致命傷を与えています。当時の恐竜たちの生き様を保存した、まさに奇跡の標本です。

当時のユーラシアと神流町がつながっていたのなら、モンゴルで確認されている恐竜たちは日本でもどんどん見つかるかもしれません。
大きな爪を持つテリジノサウルス類も、モンゴルと日本で発見されています。両国の熱い古生物学研究から目が離せませんね。

巨大な爪を生やすテリジノサウルスの前脚。生前時には角質に覆われていたので、爪の長さは1 mに達した可能性があります。
抱卵中の状態を再現したコンコラプトルの骨格。白亜紀後期にモンゴルと日本がつながっていたのなら、彼らの近縁種の化石が日本国内で発見される可能性はあります。

そして気になるのは、サンチュウリュウと近縁なダチョウ型恐竜恐竜たちです。モンゴルではいくつかのダチョウ型恐竜が見つかっていて、それらを比較研究することで、系統上でのサンチュウリュウの立ち位置が明確になります。

ダチョウ型恐竜ハルピミムス。ダチョウ型恐竜の中では原始的な特徴を残す種類であり、サンチュウリュウに近縁と言われています。
新種と考えられるダチョウ型恐竜。ハルピミムスよりも走行適応しており、自動車に負けないスピードで走れたことでしょう。
ダチョウ型恐竜が高速走行を獲得した過程について、イラスト付きのキャプションでわかりやすく解説。俊足の恐竜の進化、とても興味深いです。

恐竜の進化を深く知るため、モンゴルと日本のみならず、全世界の古生物学者が巨大な研究ネットワークを構築しています。これからも、世界中の研究者が協力して、恐竜の謎にどんどん迫っていくことでしょう。

最後の展示となる最上階のスペースは、恐竜から鳥への進化について考える区画となっています。
鳥とは、現代に生きる恐竜の子孫です。
数年前の図鑑では「6500万年前に地球に隕石が落ちて恐竜は絶滅した」と書かれていますが、あれは嘘です!
鳥は今も生きています。恐竜は絶滅していません!

アジアで発見された羽毛恐竜たち。彼らの化石は、恐竜と鳥の類縁関係を支持する強力な証拠となりました。
羽毛の生えたヴェロキラプトルの模型。エネルギッシュなポーズがかっこいいですね。肉食恐竜に関しては、多くの種類が羽毛をまとっていたようです。

サウルスくんといっしょ

ここからは、ほとんど筆者のサウルスくん萌えの話になります。恐竜のマスコットキャラクターは数あれど、これほど可愛い子は見たことがありません!
博物館の観覧終了後は、さっそくサウルスくんのためにミュージアムショップのグッズコーナーへ行きました。

サウルスくん限定グッズコーナー。神流町恐竜センターでしか買えません!
安定の爆買い(笑)。今後、恐竜の化石展に行くときは、これらのアイテムを持参します!
ミュージアムショップのショーウィンドウ。このサウルスくんは品切れだそうです。悔しすぎる……。

ちなみに、リアルな恐竜フィギュアにも限定グッズがあります。どれもレア中のレアですので、お気に入りの恐竜をぜひゲットしたいですね!

店頭で限定フィギュアの展示。これだけ限定商品あるとは、大型博物館並みです!
武装恐竜サイカニア。骨性の突起をリアルに再現しています。
遊泳中のスピノサウルス。ジオラマを作って飾ったら、きっとかなりの迫力になると思います。

図書コーナーをはじめ、館内にはサウルスが至るところに出現しています。ついつい探してみたくなりますね(笑)。

図書コーナーで発見! 最初はやんちゃな子かと思いましたが、ですます口調のおとなしい子なのは意外性があって良いですね。
顔パズルもありました。きっとサウルスくんは子供たちにも人気があるでしょう。

観覧とお買い物で疲れたら、館内レストラン「Rex Cafe」にてエネルギーを補給しましょう。ここでご馳走になる料理には、地元のオーガニック野菜が使用されていて、とってもヘルシーで美味なのです!

館内レストラン「Rex Cafe」。恐竜博物館のレストランという雰囲気が出ていて最高です。
レストランの内装にも、かなりのこだわりが伺えます。店内のどこを振り向いても恐竜がいます!
恐竜スイーツでエネルギー補給。オーガニックフルーツを使ったジャムが甘味抜群で最高!

サウルスくんをはじめ、たくさんの恐竜たちに会えて幸せ絶頂の日でした。この後、安全運転で秩父へと帰りました。

恐竜一色で、素晴らしい1日でした。サウルスくんメロンソーダを買って、ゆっくりと帰路につきました。

神流町恐竜センター 総合レビュー

所在地:群馬県多野郡神流町大字神ヶ原51-2

強み:サンチュウリュウ含め神流町産の古生物に関する高度な学術的知見、モンゴル産のスター恐竜の網羅的な化石展示、展示と施設PRの両面で活躍する魅力的なマスコットキャラクター

アクセス面:群馬県の山間部なので、レンタカーか自家用車で行くことを強く推奨します。オススメは藤岡市側から向かうルートです。距離的には埼玉県の秩父から近いのですが、道幅が狭い・急カーブ連発という難易度の高い道となっておりますので、秩父側から向かうのは推奨しません。路線バスは本数が少ないので、利用する場合は綿密なスケジューリングが必須となります。藤岡市方面から車で来れば道の駅で休憩したりもできますので、やはり群馬県側からレンタカーや自家用車を運転して来館しましょう。

日本の恐竜を知るうえで非常に重要な施設であり、恐竜マニアなら絶対訪れるべき博物館の1つと言っても過言ではありません。神流町から出土した多数の古生物についての網羅的な展示に加え、モンゴル産の恐竜たちについても数多くの知見が得られます。
日本産の恐竜として有名なサンチュウリュウに出会えるだけでなく、ハルピミムスやサイカニアといったややマイナーな種類が見られるのもマニアには嬉しいところです。
車なしでは到達の難しい山の中の博物館ですが、展示のクオリティと学術性はハイレベルです。この素晴らしい学びの体験をするために、ぜひ群馬県のロスト・ワールドを訪れましょう。

ミュージアムショップには、なんと、恐竜漫画『ディノサン』を連載されている木下いたる先生のサイン色紙があります。恐竜をモンスターとしてではなく、我々と同じ生き物として描いた素晴らしい漫画です。ぜひご一読を!

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