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全国自然博物館の旅㉞岐阜県博物館

戦国時代のごとく全国各地で大勢のゆるキャラが名を上げているように、博物館でも可愛いマスコットキャラクターが次々に生み出されています。中でも、岐阜県博物館には魅力的なキャラクターが3人(1人と2頭)もいるので、子供含め多くの来館者は大喜びです。
キャラクターたちと共に館内を巡れば観覧の楽しみは倍増し、各キャラの言葉を通して展示への理解が深まります。来館者を引き込む工夫が満載の岐阜県博物館を訪れれば、充実した学習体験を味わえます。


深緑の公園の中に立つ自然科学探究基地

関市に位置する緑豊かな「岐阜県百年公園」。アスレチックがサイクリングコースが整備された岐阜県民の憩いの場となっており、たくさんの人々の笑顔であふれています。
目指す博物館は百年公園の中に立っており、穏やかな爽快な雰囲気の中、ゆったりと学習することができます。多様な環境に様々な生命が息づき、なおかつ恐竜の化石も見つかっているという素晴らしき岐阜県。博物館での学びが楽しみです。

岐阜市から車で30分ほど走れば関市に到着します。緑豊かな街であり、山や川で生物観察してみたくなります。
岐阜県百年公園。自然を味わいながら、サイクリングなどのレジャーも味わえる広大な里山公園です。
公園内にはレストハウスがあります。博物館の観覧前後でランチや軽食を味わいましょう。

公園入口付近の駐車場に車を停めたら、徒歩で博物館へと向かいましょう。坂道には恐竜の足跡がプリントされており、彼らの歩みを追いながら楽しくウォーキングできます。
諸々の事情で徒歩が辛い方は、無料のスロープカーを活用しましょう。博物館前のスロープカー降り場には、足跡の主の恐竜たちについての解説があります。

博物館へつながる坂道。路面には足跡らしきものがあります。これらの足跡の主は何者なのでしょうか?
路面の足跡の答えは坂道の上にあります。アメリカのテキサス州にて発見された恐竜の足跡化石の再現であり、肉食恐竜と竜脚類恐竜によって刻みつけられたものです。
無料のスロープカー。博物館入口前の坂道はやや勾配がきついので、ご年配の方や足の不自由な方はぜひご利用していただきたいと思います。

本館は1971年に岐阜県置県100周年記念事業として建立が決定し、1976年に開業しました。岐阜県民の方々の想いが詰まった施設であり、岐阜県産の貴重な学術標本が多数展示されています。そのクオリティはマニアが一瞬で引き込まれるほど素晴らしく、観覧を通じて来館者は岐阜県に惚れ込むこと必至です。
岐阜県の森羅万象を探る観覧の旅。心強い仲間ーー探検博くん、アロちゃん、デスモスくんと一緒に神秘の世界へ出かけましょう。

百年公園にそびえる岐阜県博物館。自然科学と人文科学を研究する総合博物館です。
一緒に博物館を観覧してくれるキャラクターたち。研究者志望の探検博たんけんひろしくん、アロサウルスのアロちゃん、デスモスチルスのデスモスさん。

岐阜県の大地にあふれる神秘を見に行こう!

復活せよ、岐阜県の恐竜たち!

エントランスから即、(アロちゃん含めて)恐竜たちがお出迎え! メイン展示への期待が高まります。アロちゃんの可愛いさは最強ですね(笑)。

エントランスの展示コーナー。目を引く全身骨格は、テチスハドロスという白亜紀の植物食恐竜です。
ティラノサウルス類の足跡化石の複製。長さは約80 cmにも及びます。
受付にてアロちゃんのフィギュアを発見。肉食恐竜モチーフのキャラクターは超好みです。

受付でチケットを購入したら、エレベーターで3階へ上がります。メイン展示エリアへの道中にも様々な工夫が施されており、館内には学びと楽しさがあふれています。アロちゃんと共に謎を解きながら、観覧を進めていきましょう。

展示エリアにつながる廊下。不思議な足跡がついています。
博物館からの足跡クイズ。その答えは、ぜひ現地にて確かめてください。

本館の展示は、前座だけでも相当なボリュームの学習ができます。多種多様な鳥たちの剥製標本や天然記念物の展示もさることながら、恐竜たちの脳の実寸大エンドキャスト(空洞部分の型)は他の博物館ではなかなかお目にかかれない資料です。種類ごとに脳の大きさを比較し、恐竜たちの生き方と知能の関係について考えてみましょう。

本館の導入となる展示エリア。前座でありながら、とても濃密な学習ができます。
様々な恐竜たちの脳の型。ティラノサウルスは比較的大きな脳を有しており、知能が高かったのかもしれません。
かっこよさ最強のイヌワシとクマタカの剥製。本館が所蔵する鳥類標本は約3000点に及び、中部地方では最大のコレクションです
ヤマネの剥製。冬眠中の姿も再現されています。
ニホンカモシカの剥製。タッチOKなので、この機会に天然記念物によく触れておきましょう。

インフォメーションエリアに突入すると、いよいよメイン展示のスタートです。かっこいい恐竜や様々な古生物のラッシュに、ワクワク感は一気に高まります。
ユタケラトプスやミノタウラサウルスなどの珍しい恐竜たちに、マニアも大満足! 

中型の角竜類ユタケラトプスの頭骨。トリケラトプスよりも古い時代に生きていました。
ミノタウラサウルスの複製頭骨。白亜紀の鎧竜であり、その名前は神話の怪物ミノタウロスに由来しています。
実物のアンモナイト化石にタッチできる体験展示。アロちゃんのイラストが可愛すぎる!
ナウマンゾウの復元骨格。中型の古代ゾウであり、岐阜県では郡上市八幡町から化石が発見されています。
通路に展示されているイクチオサウルス。魚そっくりの形態に進化した海洋爬虫類です。

魅力的な古生物のみならず、インフォメーションエリアでは岐阜県の顔となる現生動植物の展示を拝めます。緑深き山々と清廉な河川環境を有する岐阜県には、美しい生命が無数に息づいていると教えてくれます。

県の魚・アユのジオラマ模型展示。岐阜県民の方々からの公募によって、郷土の魚に選ばれました。
県の花・ゲンゲ。NHKによって郷土の花に選定されました
高山地域に棲むライチョウ。成鳥のみならず、ヒナの剥製や糞の標本も展示されています。
恵那山にて発見されたヒノキの巨木。樹齢1000年に及ぶと推定されています。

本エリアにて皆様が度肝を抜かれる展示の1つは、岐阜県で見つかった恐竜の卵だと思われます。そう、岐阜県からは貴重な恐竜化石が産出しているのです。
いよいよ、可愛いアロちゃんが本領を発揮。インフォメーションエリアの向こうでは、メインホールの恐竜たちが来館者を待っています。岐阜県の大地に君臨していた恐竜たちの世界へと飛び込みましょう。

岐阜県で発見された恐竜の卵の実物化石。新種の恐竜の卵殻と判明し、ラモプリズマトゥーリトゥス・オオクライと命名されました。
ラモプリズマトゥーリトゥスの化石をもとに復元された、恐竜の卵の実物大復元模型。長さはニワトリの卵の2倍、重さは100 gと推定されています。

本館のメインホールは恐竜たちの世界。岐阜県や海外の恐竜たちが、雄々しく立ち並んでいます。
幸いなことに、筆者は学芸員さんの解説タイムに訪れることができました。それぞれの恐竜たちの特徴や、岐阜県産の恐竜たちについて、詳しくレクチャーしていただきました。プロによる展示解説は各博物館で実施されていますので、学習理解を深めるために、ぜひとも聴講しましょう。

恐竜たちの展示ホール。奥にはミュージアムショップもあります。
目を引くのは、中央のステゴサウルス。誰もが知る有名な種類であり、とてもファンが多い恐竜です。
ホール内には、恐竜たちの復元画が並べられています。大迫力のリアルなイラストに見とれてしまいますね。
アロちゃんたちと一緒に写してもらえる撮影コーナーもあります。ぜひとも、来館記念に思い出のショットを撮りましょう。

岐阜県では、貴重な恐竜化石の発見が成し遂げられています。そのうちの1つが、白川村の山の中にて発見された足跡化石です。足跡からは当時の生き物の大きさ、歩き方、移動速度などたくさんの情報が得られます。白川村の足跡化石は、どのような種類の恐竜たちがどのような状況で刻んだものなのか、本展示にて太古の真実を学べます。

白川村で発見された恐竜の足跡化石の複製。白亜紀の岐阜の大地を、恐竜たちが力強く闊歩していたのです。
足跡化石がある露頭の表面には、波の跡もついています。つまり、この化石の発見場所は、かつて河川か湖だったのです。足跡をつけた恐竜たちは、群れで水辺を歩いていたと思われます。
植物食恐竜イグアノドンの骨格。白川村の足跡化石の主は、本種に近い鳥脚類であると考えられています
白川村の大地に足跡をつけた恐竜の復元画。浅瀬を歩くイグアノドン類の姿が活き活きと描かれています。
岐阜県で発見された恐竜や翼竜の複製化石。岐阜県には、お隣の恐竜王国・福井県と地層を共有しているエリアもあり、今後も貴重な化石が発見されることでしょう。

大人も子供も喜ぶかっこいい恐竜と言えば、ティラノサウルスやアロサウルスに代表される肉食恐竜です。最強の陸上肉食動物と謳われる彼らの解剖学的構造はとても興味深く、その体の特徴1つ1つから戦士としての高い能力を感じ取れます。洗練された肉食恐竜たちの勇姿、細部までじっくりと観察してみてください。

肉食恐竜アロサウルスの全身骨格。アロちゃんのモデルです。
小型肉食恐竜デイノニクス。鳥に近い種類であり、軽快な俊足ハンターでした。
アジア産のティラノサウルス類であるタルボサウルス。ティラノサウルスの仲間は、世界各地で覇王となっていたのです。
ティラノサウルスの左後足。足の構造には俊足恐竜オルニトミムスと同様の特徴が見られ、もしかするとティラノサウルスは走るのが速かったのかもしれません。
スピノサウルスの復元頭骨。水中を泳ぎ、大型の水棲生物を捕食していたと考えられています。

ホール奥の展示ケースにも、魅力的な標本がズラリと並んでいます。恐竜はもちろん、海洋爬虫類や翼竜など同時代の竜たちの展示も充実しています。中生代の数々の生命に触れながら、太古のロマンに浸れます。

肉食恐竜ルゴプスの頭骨。胴体は未発見ですが、全長6 mほどの大きさであったと推定されています。
首の長い海洋爬虫類タラソメドンの頭骨。同じ時代の生き物ですが、恐竜ではありません
翼竜ランフォリンクスの複製化石。ジュラ紀の空を軽快に飛び回ったいたことでしょう。

ダイナミックな恐竜たちに感動をもらったら、その流れで自然展示室1へ向かいましょう。時代は中生代から新生代へ移り、アロちゃんからデスモスさんにバトンタッチです。

郷土の生命史と生態系の秘密を学び極めよう

自然展示室1では、古代から現代に至るまでの岐阜県の自然環境、そして驚異的な生態系のメカニズムについて学べます。岐阜の超壮大な自然史に触れる大冒険に、我らがデスモスさんが導いてくれます。
エリアに入った直後、目に飛び込んでくるのはデスモスさんの親戚・デスモスチルス類です。岐阜県ではデスモスチルスの頭骨が世界で初めて発見されており、本県にとって特別な古生物となっています。謎に満ちた古代哺乳類のミステリーに迫ってみましょう。

古代哺乳類デスモスチルス類の展示コーナー。奥にある2体の全身骨格は、パレオパラドキシアという種類です。
岐阜県で発見されたデスモスチルスの頭骨レプリカ。岐阜県にて、本種の頭の骨が世界で初めて発見されました
デスモスさんによる解説。語尾は「モス」なんですね(笑)。

岐阜県から産出する化石の地質年代はとても幅広く、古生物マニアにとって魅惑のフィールドとなっています。本展示では、時代ごとに多様なはるかな古生代から、時間の流れを歩みつつ、地球の歴史に想いを馳せてみてください。

各時代の岐阜県の環境を、模型・ジオラマ・標本を用いて解説。多角的な情報によって、当時の世界を濃密に学べます。
古生代オルドビス紀のジオラマ。この時代は、オウムガイの仲間であるチョッカクガイ類が生態系の頂点に立っていました。
ペルム紀のジオラマに設置されたアンモナイトの復元模型。軟体部の姿は近縁種からの推測復元となります。
高山市にて産出したベレムナイトの殻。中生代の頭足類であり、イカに近い生き物でした。
恐竜時代の地層・手取層群から発見されたソテツ類の化石。現代のような柔らかい葉ばかりではなく、当時は硬い葉をつける植物が多かったのです。

岐阜県では、新生代の生物化石もたくさん見つかっています。ゴンフォテリウムやヤベオオツノジカといったかっこいい大型哺乳類たちの姿に、来館者は強く関心をそそられるでしょう。古代哺乳類の足跡やマツボックリの密集化石など、マニアックな標本について学べるのも嬉しいところです。

新生代・中新世のジオラマ。ゴンフォテリウムはゾウの仲間ですが、現生のゾウたちとは別系統です。
美濃加茂市で発見された、約1900万年前の動物たちの足跡化石。サイやバクの足跡が確認されています。
多治見市にて出土したオオミツバマツの球果化石密集層。黒い物体は、約1000万年前のマツボックリの化石です
勇ましいヤベオオツノジカ。かつての日本に、これほど巨大なシカが生息していたと思うと、壮大なロマンを感じます。

怒涛の古代を駆け抜けると、現代の自然環境展示へと移ります。たくさんの山々を有する岐阜県は、まさに野生動植物の宝庫。展示を見れば見るほど、森の中へ出かけてみたくなります。

剥製標本を用いたジオラマ。ニホンツキノワグマの親子が木に登っています。
ブナの原生林のジオラマ展示。多くの剥製や模型がふんだんに使われています。
ホンドテンを捕獲したクマタカ。強力な猛禽類は、ものすごいスピードとパワーで地上の獲物を空襲するのです。
アカネズミに襲いかかるホンドギツネ。穏やかに見える日本の山林も、過酷な大自然の戦場なのです。

岐阜県には多数の高山が存在し、そこには亜高山性・高山性の生態系か築かれています。厳しい天空の世界にはどんな動植物がたくましく生きているのか、本エリアでは多様なスタイルの展示で体系的に教えてくれます。

高山帯に棲む生物たちの展示コーナー。天空の世界に息づいているのは、厳しい環境に適応した強者たちです。
高山地域の鳥類の分布を図示。それぞれの鳥が夏期と冬期にどこに棲んでいるのか理解できます。
高山植物の模型展示。標高が高くなるほど高木は少なくなり、草本植物が優勢となります。
高山植物の乾燥標本展示にも注目。コマクサは「高山植物の女王」と呼ばれる多年草です。

岐阜県には海がありません。その代わりに、たくさんの大きな河川、丘陵地帯の湧水湿地、水郷地帯の溜池や水路など、壮大な淡水環境が広がっています。岐阜県の水域特性を学びつつ、清廉な水の世界に棲む生命を見ていきましょう。

上流・中流・下流などの環境ごとにジオラマがあります。地形や動植物の違いに注目です。
河川や湖沼に棲む魚たちの剥製標本。サツキマスはふだん海に生息していますが、産卵期になると河川へ遡上してきます。
スイレン科のオニバスの葉。オニバスだけでなく、溜池で見られる水草は、埋め立てなどが原因で数を減らしています。
水中もしくは水辺に棲む動物たちの標本が多数展示されています。カワガラスは水生昆虫や魚を巧みに捕らえる渓流のハンターです。
モクズガニの液浸標本。とってもおいしいカニです。

水域環境と同じく重要なのが森林です。豊かな森は地球環境維持のために必要であると共に、我々人類に多くの生態系サービスをもたらしてくれます。森林環境の意義と大切さについて、本展示でしっかり学びたいところです。

スギの年輪標本。森林の木々は人間の想像以上に永く生き、生態系を支え続けているのです。
樹木の葉と幹を同時展示。比較することで、種類ごとの特徴を掴みやすくなりますね。
森林の重要性に関する解説展示。多くの木々は、大地の水分量を保ってくれるのです。

筆者が度肝を抜かれた展示は、水域生態系の食物連鎖とエネルギーの流れを解説する特殊オブジェです。逆さになった六角錘のオブジェには、プランクトンから大型魚に至るまでの捕食・被食の関係と、水深ごとの様々な自然エネルギーの動態に関する情報が詰め込まれています。
正直、「考えた人すごすぎる!」と思いました。これほど複雑かつ多量の情報を一元的に解説してくれるなんて、本館の創意工夫には脱帽します。

生態系のシステムを説く六角錘型オブジェ。水域環境の生命とエネルギーの連鎖に関わる情報が詰め込まれています。
水域の下層へ向かうに伴って、エネルギーは移動し、その量も変化していきます。その動態について、オブジェに綴られたキャプションで学ぶことができます。
オブジェ内には、水中の微少生物の拡大模型が展示されています。これは正面から見たミジンコ類です。
表層部分には、光合成のできるクンショウウモなどの藻類の拡大模型が設置されています。各層のエネルギー量と生き物の関係について、体系的に学べる素晴らしい展示だと思います。
食物連鎖の頂点捕食者は下層に位置しています。生態系の中のエネルギーがどのように伝わり、循環していくのか、視覚的に学習できるのです。

自然界の秘密をシステマティックに学んだら、それを環境問題のために活かしていかなくてはなりません。
岐阜県でも深刻化する外来種問題。展示を通して、現状を理解すると共に、我々は身近なところからどのようなアクションを起こすべきなのか考えてみましょう。

日本で猛威を振るう外来魚たちの剥製標本。外来種は決して悪者ではなく、彼らを日本に連れてきた人間こそがそもそもの原因なのです
たいわんか台湾からやってきたタイワンタケクマバチ。本種が生態系に与える状況については、今のところ不明です。
クリハラリス。ニホンリスとの競合が懸念されており、特定外来生物に指定されています。
岐阜百年公園ではアトラスオオカブトの死骸が発見されており、生態系への侵入が心配されています。彼らは日本のカブトムシよりもはるかに強いので、資源競争になったら外来種が国産種を淘汰しかねません。

素晴らしき岐阜の大自然! 多様な生命と出会える探検フィールド

自然展示室2では、生命と自然環境についてのさらなる学びが待っています。
来館者がまず初めに驚くのが、生物系統の立体展示です。様々な分類群の生物標本が系統的に展示されており、生命進化の過程を視覚的に学ぶことができます。動植物の分類単位に関してもわかりやすく紹介されていますので、生物界を総合的に理解するのに最適な展示の工夫だと思います。

自然展示室2に突入。郷土の自然の秘密を、さらに深く学びましょう。
分類群・系統ごとに各生物を分けて解説。視覚的な楽しさと学習密度を両立した工夫満載の展示です。
各分類群に細分化して、標本や写真の展示で生物を紹介。海綿動物のように、ふだん目にする機会の少ない生き物たちの姿も理解できます。
系統的に近い魚類と円口類(左下のヤツメウナギ)は、密接して展示されています。生命の進化の系譜が視覚的に学べるのです。
植物に関しては、葉や花の形状についても分けられています。細かいところまでも学べて、とても奥深い展示です。

先述の通り、岐阜県内には清廉な淡水環境が豊富に存在します。淡水域の王者といえば、世界最大の両生類であるオオサンショウウオ。本館では、成体の液浸標本や骨格標本だけでなく、なんと卵の標本まで見ることができます。両生類マニア、大歓喜!

どっしりしたオオサンショウウオの液浸標本。このボリューム感、たまりません。
オオサンショウウオの骨格標本。郡上市にて採集された個体です。
オオサンショウウオの卵の液浸標本。この美しい卵から、現代最大の両生類の赤ちゃんが生まれてくるのです。

生命あふれる岐阜の山林。本エリアでは、森の動植物の生態とバランスについて教えてくれます。自然界では、食べる者と食べられる者が絶妙な数で保たれ、美しく調和しています。どのような生物も、自然環境の維持において重要な役割を果たしているのです。

テンは主に小動物を捕食します。ネズミやウサギが増えすぎると植物が食べ尽くされてしまうので、自然界で捕食者が果たす役割は大きいのです。
テンよりさらに高次の捕食者であるキツネ。植物食動物の個体数増加に歯止めをかける彼らは、ある意味では自然界のバランサーと言えます。
林のジオラマには、樹木を食害する昆虫の標本がセットで展示されています。マツを枯らす怖い虫たちですが、自然界では彼らも植生のバランスを保つために必要な生き物なのです。
マツの葉を食べるマツケムシと、マツケムシを食べるムクドリ。1本の木の上でも、食物連鎖のドラマが繰り広げられています。

続いては、県内に生息する鳥類についての展示です。本コーナーにおいては、どの鳥がどんなタイプ(留鳥・夏鳥・冬鳥)なのか明確に示して解説してくれています。季節ごとの鳥たちの分布を知れば、生態系の新たな実像が見えてきます。

県内に生息する鳥たちの剥製標本。岐阜県の地図と合わせて展示されています。
サシバ。東南アジアで越冬しますが、夏期には日本に飛来します。
トモエガモ。シベリア東部に繁殖活動を行い、冬になると日本にやってきます。
コジュケイ。渡り行動をとらず、留鳥としてずっと日本で暮らしています。

さて、昆虫マニアの皆様。岐阜県と言えば、絶対に忘れてはならない昆虫がいますね?
そう、ギフチョウです! 岐阜県の名を冠し、「春の女神」の二つ名を持つ本種は、とても人気のあるチョウです。気高く可愛いギフチョウの秘密、とことん知りたいですね。

愛すべき岐阜県の昆虫たちの標本展示。もちろんギフチョウもいます。
日本の固有種ギフチョウ。秋田県から山口県にかけて分布しています。
ギフチョウの各成長ステージの幼虫とサナギの標本展示。幼虫はヒメカンアオイの葉を食べて育ちます。
草原に生息するチョウたち。人間による開発が原因で減少した種類もいて、ヒョウモンチョウは岐阜県内では絶滅したと言われています。
溜池や水田に棲む水生昆虫たち。彼らを守るために、里地里山の水域環境の保全が必要なのです。

創意工夫された本館の展示には、本当に驚きを禁じ得ません。本館を訪れたことにより、岐阜県の自然環境に強烈な関心を抱きました。
太古から現代に至るまで、岐阜県には神秘がいっぱいです。本館の自然科学展示には、きっと全ての生き物好きが心を動かせられるでしょう。

本館は人文科学展示も充実した総合博物館。岐阜県の文化史についても、深く幅広く勉強できます。

岐阜県博物館 総合レビュー

所在地:岐阜県関市小屋名1989

強み:岐阜県産の恐竜や古代大型哺乳類をメインに据えた迫力と情報量満点の古生物展示、学術標本とキャプションを明瞭かつ魅力的に見せる工夫満載の展示スタイル、膨大な調査研究に支えられた岐阜県の自然環境と生態系についての学術的知見

アクセス面:百年公園には広い駐車場があるので、車での来館をオススメします。JR岐阜駅からレンタカーを運転して行けば、約30分で公園の駐車場に到着します。公共交通機関を利用する場合、JR岐阜駅か長良川鉄道の関駅から路線バスに乗って向かいましょう。公園の駐車場から博物館まではややきつい勾配の坂道があり、きつそうならば迷わず無料のスロープカーを利用してください。

置県100年を記念して建立された博物館の実力はすさまじく、あらゆる生き物好きを虜にしてしまうほどの魅力と学術情報にあふれています。白川村の恐竜の足跡をはじめとする貴重な古生物化石、超広大な緑深き山々の生態系、圧巻の流域面積を誇る河川環境といった本県のアドバンテージが各展示にフルに活かされています。次から次へと繰り出される工夫満載の解説展示に圧倒され、来館者は岐阜県の大自然の魅力に呑まれていきます。
探検博くん・アロちゃん・デスモスさんといったオリジナルキャラクターを創出し、展示の解説役を任せている点も素晴らしい工夫だと思います。親しみやすいキャラクターは子供のみならず大人をも魅了し、彼らの口から伝えられる知識がスムーズに頭に入ってきます。
あらゆるカテゴリーの生き物苦手なおいて、圧倒的な数の学術標本が展示されているのも誠に素晴らしいと思います。まさしく、生物マニアが何時間でも楽しめる超ハイクオリティ博物館です。次々と発見される恐竜化石の研究も含めて、岐阜県の自然科学事情から目が離せません。

心強い無敵のトリオ。彼らに会うために、ぜひ岐阜県博物館を訪れましょう。

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