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持続可能性と曖昧さ(2016)

持続可能性と曖昧さ
Saven Satow
Jan. 11, 2016

「成熟は曖昧さと共に生きる能力である」。
ジクムント・フロイト

 今日、世界的に最も重要とされる概念の一つが「持続可能性(Sustainability)」である。政治・経済・社会のあらゆる領域でそれに基づく理論・実践が試みられている。制度一般について抽象的に考えてみよう。

 持続可能性には進化が不可欠である。どのようにすれば持続可能になるかをあらかじめ予想することは難しい。単純な事象であれば、決定論で捉えられる。また、複雑なら確率論で認識できる。この確率論に基づくリスクと違い、それで把握できない事態を不確実性と呼ぶ。これは予期できない。けれども、さまざまな環境の変化に対応できなければ、持続できない。だから、進化が持続可能性の本質である。

 進化する度にコンフィギュレーションが変更され、持続が可能になる。その進化の前提となるのが多様性である。一様であるならば、ある状況に依存しているので、環境の変化に弱い。

 この多様性は曖昧さを意味する。多様性を明確化できるなら、それは管理統制が可能である。しかし、環境変化には不確実性が含まれるから、そうした作為では持続できない。管理統制可能な多様性は見かけだけで、実質的には一様である。つかみどころがないから、多様たり得る。持続可能性には曖昧さが必要で、それが進化の余地である。

 ところが、曖昧さは往々にして多様性と認知されない。不明瞭なものであるから、余分とされる。場合によっては曖昧さが問題の温床とさえ見なされる。しかし、信頼がお互いさまや協力の関係につながり、そこに曖昧さが許される。曖昧さへの忌避は信頼性のゆらぎである。

 曖昧さを排除しようとすると、多元性を一元的に収束させ、管理統制する。その選択は特定のイデオロギーに基づく。そうした作為に恣意が入りこむ。恣意性は曖昧さへの不信から生じる。恣意性は一様性の産物であるから、持続可能を阻害する。

 持続可能性は信頼を基盤にする。信頼が損なわれると、持続可能ではなくなる。信頼は双方向的なコミュニケーションから芽生える。コミュニケーションは共通基盤がなければ成り立たない。そこに信頼が生まれる。こういった信頼とお互いさまの関係が社会関係資本である。

 社会関係資本には現代社会におけるもう一つの重要な概念である「包摂(Inclusion)」が関連してくる。この対義語が「排除(Exclusion)」である。排除は多様性を拒否することだ。持続可能性と包摂は社会関係資本を通じて関係している。持続可能性にはこのソーシャル・キャピタルという曖昧な概念が必要とされるのはこうした理由による。持続可能性は曖昧さと共に生きる能力の現われである。
〈了〉


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