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歴史・古典文学関係のコラム

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連載中の「鳥取寺社縁起」(シリーズ物で現在は「宇部神社縁起写」の現代語訳)と「『逃げ上手の若君』全力応援!」、単発エッセイ等をこちらに保管しています。  ※「摩尼寺縁起」「因幡堂… もっと読む
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【『逃げ上手の若君』全力応援!】(155)京の雅を楽しむはずの「端午の節句」が東夷たちのガチな「石合戦」で幕を閉じ……白目を剥いて怒る北畠顕家が見せる「奥州」の文化への「敬意」

 「おやみげ買ってこ おやげみ!」  『逃げ上手の若君』第155話の始まりは、堺湊での心休まるひと時にほっこりを上乗せする(?)新田徳寿丸くん。〝おみやげ〟を〝おみあげ〟と言い間違える子どもは多いですが、セリフをよく見ると、それですらなく二度間違えている(笑)。  「バカだバカだと思っていた若殿が… いつの間にか郎党への気遣いができるように」  感激して涙を流す堀口貞満の本音にはびっくりです。常に「若殿」の傍らで表情を変えもしない堀口でしたが、徳寿丸のことをしっかりと「

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(154)古典『太平記』 では「桃井塚」爆誕!な桃井直常の活躍ぶり……「堺湊」で久しぶりの子どもばっかりに思わずこっちが「フニャる」

 『ほんと性格悪いなあ高兄弟は』  『能力も実績もあるからやりたい放題』  高師直・師泰兄弟の「飼い犬」と「鈍くさい家畜」発言と虐待がひどすぎた『逃げ上手の若君』第154話ですが、よく見ると、この前のページで師直は「仁木は川向うへ回りこめ」「畠山はこのまま突き抜けろ」(「突き」の部分の判別はイマイチ自信なしです)と言って、細川顕氏みたいな粗末な扱いはしていなくとも、足利一門(仁木・畠山)に命令を下して戦っているのがさりげなく描き込まれていました!  そうなんですよね、師直は

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(153)無自覚すぎてヤバイ足利尊氏を隠す直義と隠さない師直、初登場から148話目でフルネームが明かされて七支刀で「御」責めにあう細川顕氏って……

 前回、合理精神の持ち主である高師直が、雫のことを「物の怪のガキ」と言ってやけにあっさり受け入れたなあ(……だから、無駄に反撃することもなく、執事のプライドマウント合戦になったのか!?)などと不思議に思っていましたが、妹から鋭いツッコミを受けました。ーー〝尊氏がバケモンだからじゃないの?〟  第153話で、妹のこの答えが大正解だったのが判明!(……って、私が肝心なことを見落としていただけですね。こんな大物が常にそばにいるのだから、雫の存在なんて師直にとっては余裕で想定内なので

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(152)高師直VS雫の「執事」のプライド対決! 合理主義者の師直ですら「物の怪のガキ」はあっさりと受け入れる鎌倉・南北朝時代の精神性は、現代人に投げかけられた深いテーマでもある!?

 「執事だと? 物の怪のガキが執事の真似事か」  『逃げ上手の若君』第152話の冒頭から高師直と雫の、執事のプライド対決にツッコミどころが多すぎです。そしてまた、本人たちが真剣な分、笑い倍増、かつ、師直のどこか憎めなさを感じる展開でした。  前回の最後で、師直が憎々し気な表情を浮かべて雫のことを「貴様… 人ではないな」と言った時にも思ったのですが、合理主義者の師直でも怪異をあっさり受け入れているというのは、やはり彼も鎌倉・南北朝時代人なのねと思いました(松井先生のキャラクタ

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(151)「極大納言軍」の未来を占ってみた!? 古典『太平記』で桃井直常と高師直を確認! ……いやいや、そんなことより「諏訪の御左口神(ミシャグジ)」が〝気になるの〟

 「御ボコりたいが位が上ゆえそうもいかない」  『逃げ上手の若君』第151話の北畠顕家のこのセリフ、最初よくわかりませんでした。〝顕家は何を誇りたいんだ?〟とか……大勘違い! 「御」「ぶちのめせぁ!!」のコマを見直してやっとわかりました。顕家はお下品な言葉には「御」を付けるのですね。だからこれは、「公家たちの極大納言軍」(笑)を「ボコりたい」という意味でした。  妹が〝公家の顔、あれは手抜きなの!?〟と言って大ウケしていましたが、私も〝「四条様」の顔はどこかで見覚えがあるぞ

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(150)表面化する足利直義と高師直の対立ーー古典『太平記』と亀田俊和氏『観応の擾乱』と本郷恵子氏『蕩尽する中世』で確認してみた

 『逃げ上手の若君』第150話の読後、第一声は〝うわ、足利直義ズルいな……〟。  こりゃまた、女性ファンが増えると思いました。彼の命日は2月26日で、本当にたまたまだったのですが、直義ファンの友人(女性)に連れられて前日に鎌倉・浄妙寺の墓をお参りしました。その日は、私の友人と同じ思いを抱いてか、若い女性がやはり花を携えてお参りをしていました。浄妙寺と、斯波家長が戦って命を落とした杉本寺はすぐ近くで、家長が好きな私はもちろん足を運んでお参りをしました。  「冷静冷徹 僕が死ん

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(149)「茶色い記憶」の「茶色」って、どの茶色だよ!? 「思考停止」レベルの体験を超えて、金色に輝く人生をその手に……!

 「吹雪に続いて 夏までも」寝返ってしまったのかという衝撃的な展開に、不敵な笑みを浮かべた玄蕃の「仕掛け」とは一体……!? 一週間待った『逃げ上手の若君』第149話のタイトルは「茶色い記憶1338」です。〝どの茶色だよ!〟と思わずツッコんでしまいましたが、なにがなんだかわからない夏に、事の真相を明かす玄蕃。  すべてを明かされて驚く夏の顔の崩壊ぶりが好きです。そして、第148話の最後で玄蕃が「クックックッ」と笑ったのは、してやったりという思いだけでなく、「茶色」にまつわる思い

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(148)北畠顕家が新田義貞と合流せずに伊勢へと向かったそのわけは……? (〝嫌な感じ〟の二人のままで終わらせたくないファン心理ゆえに調べてみた)

 〝あれ、どこまでが「冥土」なの?〟という戸惑いで始まり、そして読み終えたという印象の『逃げ上手の若君』第148話でしたが、何度か読み直しているうちに、私たち読者は「三日も昏睡していた」時行の視点で事の成り行きを見ているのだと感じるようになりました。  「昏睡していた」間、「羽を伸ばしたら」という一言で想像される諏訪頼重と時行との二人の時間がもしあったとしても、目覚めたら覚えていない〝夢〟と同じようなことが起きている気がします(私は爆睡か、夢を覚えていられないタイプなのでよく

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(147)史実でもかなりのキーマンである高師冬!……期せずして再会した諏訪頼重が時行を「間違って」ないと断言するのは「冥土」基準だから!?

 『逃げ上手の若君』第147話は、なにもかもが「急展開」!  でも、もっともショックだったのは一縷の希望を抱いていた雫が、弧次郎が外した仮面の下の吹雪の顔を見て涙した場面です(弧次郎が一太刀浴びせられたのもちょっと驚くぐらいの吹雪の凶悪さ……吹雪ファンの私ですら〝え、誰?〟でした)。  「あれはもう 元には戻れない」  第38話「戦車1335」で、清原国司に対してまったく同じ一言を雫はつぶやいています。尊氏の持つ「神力」に強く侵された清原国司と吹雪ですが、彼らの「悪しき神

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(146)古典『太平記』では、高師泰と佐々木道誉が味方の兵の心を一つにした!? そして、高師冬登場! 二年間の成長✕「悪しき神力」の計り知れない恐怖

   古典『太平記』では、京にいる尊氏たちに青野原の戦いがどのように伝わったのかについて記されています。  京都には、奥勢上洛の由、 先立つて聞こえけれども、土岐美濃国にあれば、さりとも一支へはせんずらんと憑まれける処に、頼遠、すでに青野原の合戦に打ち負けて、行方知らずとも聞こえ、または討たれたりとも披露ありければ、洛中の周章斜めならず。  ※京都…京都にいる尊氏たち。  ※土岐美濃国にあれば、さりとも一支へはせんずらん…土岐勢が美濃にいるので、「そうは言っても一戦はもち

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(145)「青野原の祭事」は、北畠顕家が奥州の地で決意した国づくりの理想形「公武合体アキレンジャー」そのものだった!?

 以前より私は、白目を剥いている北畠顕家が好きだということを言っておりましたが、「はははは」と白目を剥いて舞台装置(その中身は「櫓」だったという種明かしもあり!)と化している顕家で始まった『逃げ上手の若君』第145話は、冒頭から笑ってしまいました……。  ※櫓(やぐら)…材木などを組み合わせて高く作った構築物。展望用。また、建築工事などの足場とする。  そして、第145話のタイトルは「公武合体アキレンジャー1338」です。私は最初、顕家の派手さを表現したものだと思い、深く考え

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(144)土岐頼遠にも部下たちにも何かが欠けているーー北畠顕家や雫の父や兄にはあって、婆娑羅大名にはなかったのは「意地」だった!?

 『逃げ上手の若君』第144話を一読して、多くの方は〝そんなところが気になるの!?〟と思われるかもしれませんが、足利天狗衆であることを隠している夏の去就がかかっているのを感じました。ーー夏は、高師直に許してもらうべく「手土産」を持って足利方に戻ろうと企図していましたね(第116話「U.N.K.1337」)。  しかし今、実を言うと夏以上に自分の中で今後が気になるのが、モブキャラの下がり眉君だったりします。彼は、曇りなき瞳で玄蕃の問いに答えます。  「主君が死ねと言えばそれ

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(143)奥州武士たちを吹っ飛ばしまくる、比類なき強さの土岐頼遠に弱点はあるのか……? (最後はやはり北畠顕家の矢しかないと思います。)

   土岐頼遠が、「精鋭騎馬兵約五百騎」と残りの「人間爆弾」の「千余騎」(『太平記』)で「数十倍の顕家軍に勝つつもりだ」という解釈に震撼した『逃げ上手の若君』第143話。ーー右手が半分なくなってしまった(第137話のくじ引きの後遺症…ですね)下がり眉のモブキャラ君には、「五郎坊殿」の分まで生き延びてほしいと、思わず感情移入してしまいます。  「青野原で名を高めたのは…」「土岐頼遠ただひとり」というのは、『難太平記』の記述によるものです(「青野原の軍は土岐頼遠一人高名と聞し

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(142)兵達を「麻痺」らせる土岐頼遠の想像を絶する逸脱っぷり……細川重男氏の『論考 日本中世史』における〝あの事件〟の評価とは!?

 「土岐軍がたった七百?」  「土岐軍は美濃の守護 大軍を動員できるはず 別動隊でもいるのか…?」  春日卿の疑問から始まった『逃げ上手の若君』第142話。そして、この答えは〝NO(ノー)〟でした。  顕家の大軍と小勢の土岐・桃井軍との緊迫した戦場のはずなのに、ネタと笑いの数々すべてさらい、それがまた怖すぎる土岐頼遠。ーー彼が一体何者であるかを知るためには、《《あのこと》》にも触れないわけにはいかないと思いました。  今回は頼遠の話ばかりとなってしまいそうですが、どうかお許