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パロディができるほど馴染みのある作品


"Bukkene-Bruse vender tilbake" af Bjørn F. Rørvik, Gry Moursund, Coppelen Damm AS, Norge 2014. 「三びきのやぎ まいもどる」ビヨーン・F・ロールヴィーク作、グリー・モールスン絵 絵本 ノルウェー

 「三びきのやぎのがらがらどん」と言えば、日本でもおなじみのノルウェー民話。今回紹介する作品は、そのがらがらどんのお話をパロディ化したシリーズの第2弾。ノルウェーでは既にこのシリーズは3作品が出版されていて、大変人気を博しているのだとか。デンマークでも同様に大人気で、1作目は小学校の教材としても使用されるほど。親の間でも話題になる作品で、私が公共図書館にいたときもとてもよく借りられていた。

夏が近づいたある日、3びきのやぎたちはリビングで何やら話をしている。今年の夏の休暇をどうするか話しているのだ。外国へ行きたいという小さなやぎと中くらいのやぎに、大きなやぎが「むりむり、高すぎるし!今年はいつもみたいに、山へ草を食べに行こう」と倹約ムード。乗り気ではない2ひきも、トロルをからかいにいって、山小屋でおいしいワッフル(ノルウェーのワッフルは有名ですね!)を食べられるならと承諾する。中くらいのやぎは、最近生えてきた角をトロルに試すぞと意気込んでいる。3びきが意気揚々と出発するも、なんと山小屋は閉鎖(つまりワッフルもなし)、そしていつもお決まりの橋の下にいるはずのトロルまでいなくなっていた。がっかりしてふもとのガソリンスタンドまで行ってみると、なんと山小屋もプール(1作品目の舞台)も閉鎖され、トロルは老人ホームに引越してしまったという!それを聞いた3びきは、気を取り直し、トロルに会いに老人ホームへ。ホームの入り口では、お年寄りを元気づけようと、職員たちがバーベキューの準備をしている。3びきがホームの建物へ入ると、廊下の奥から、聞き馴染みのある声が。「おまえをのみこんでやる!」 いったいどうなっているのかとホームの職員に大きなやぎが尋ねると、トロルが好き放題やっているとのこと。彼をホームから追い出そうと試みたものの、300歳を超えるトロルは自動的にホームに入所できてしまうため、どうしようもないと肩を落とす。3びきは少し静かになったトロルの様子を見るために、廊下の奥へと入っていった。すると彼らが目にしたものは、年老いたおばあさんを相手に、トロルとヤギのあの名場面を再現しようと、テーブルの下に隠れてニヤニヤしているトロルだった。これはもう自分たちの出番だとさとったヤギたち。まずは小さなヤギがいつも通りに橋を通過。もちろん台詞もお約束通り。次に中くらいのやぎ。「おまえをのみこんでやる!」というトロルに、本来ならお兄さんが来るから待ってと言わなくてはいけない場面で、中くらいのやぎは「さあ、来い!」と意気込み、最近生えてきた角で戦う気を見せる。びっくりしたのはトロル。「な、なんでやねん、おまえ、それ言うのおまえちゃうやろ!なんもわかってへんやないかい!?」と突っ込むトロル(ここのところが吉本新喜劇を彷彿させるため、つい関西弁ですみません!)。逃げ出すやぎたちを追いかけたトロルは足を踏み外し、荷台に足を取られて窓から放り出されてしまう。落ちた場所はなんとバーベキューグリルの中!大やけどをしたトロルは、もうたまらんと言わんばかりに、いつもの橋の下へと逃げていってしまったのだった。

「三びきのやぎのがらがらどん」は、デンマークでは保育園・幼稚園で最もよく読まれている民話のひとつ。ノルウェーでもきっと子どもが必ず聞いて育つ作品なのではないだろうか。最後はやぎが、怖いトロルに勝つというストーリーに子どもが喜ぶというだけでなく、リズミカルな繰り返しと、予測可能な物語なので安心して聞けるということも大きいのだと思う。デンマークではこの作品を人形劇として図書館や幼稚園で大人が演じ、やぎやトロルの台詞を子どもが一緒に言うということもよくある。暗記してしまうほどに、この物語は就学前の子どもたちに馴染みのある作品。それほどオリジナルを熟知しているからこそ、こうしてパロディがまた小さな子どもたちや親たちにも喜ばれるのだと思う。ノルウェーで出版されて以来、北欧各国からヨーロッパ、中国や韓国でも翻訳されているというこの作品。イラストも、原作の怖いトロルのイメージを完全に払拭する、子どもの手描き風のイラストでおもしろい。ゆるい雰囲気のイラストで油断して読んでいたが、思わず吹き出すほどの面白さ満載の現代版パロディ、三びきのやぎ。これは、ほんとに面白い。

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