性について子どもとどこまでオープンに話せますか?

"Til de Nysgerrige -En bog om seksualitet og forplantning" af Marie D. Christiansen. Statens Kunstfond. 2011 「好奇心のある君たちへ。性と生殖についての本」マリー・D・クリスチャンセン作・絵 国立芸術財団出版  デンマーク 絵本

どこから書き始めれば良いのか、この本のテーマといい、内容といい、出版が国立芸術財団だといい、ツッコミどころ満載のこの本。ちなみに表紙の妊婦さんの黄色い部分は毛、鉛筆書きで真ん中に小さく描かれているのは、男性の性器。対象年齢が5歳からとされている15cm四方のこの本、全ページで表紙にあるような、子どものペン描きに似たイラストで、性と生殖について、文字通り包み隠すことなく描いている。章ごとのテーマは、1章:男性器、2章:女性器、3章:体毛、4章:セックス、5章:セクシュアリティそして最終章では妊娠について、本当にそのまま、イラストで全部描いている。作者とこの作品のサポーターであるヨセフィーネ・アイビューは、この本を通してもっとオープンに「ママ、子どもはどうやってお腹にくるの?」という質問に答えられる環境を作ろうと考えたという。子どもが少し大きくなって、性の話は恥ずかしいと思い始める前に、純粋な好奇心のある段階からこの話題に触れる環境を作りたい、大切なことを知ってほしいという思いからできた作品なのだとか。

デンマークでは子ども向けの性に関する本は過去にも出版されている。1971年には、"Sådan får man et barn" 「こうやって子どもはできる」というタイトルの絵本が出版され、その時も生殖と妊娠について全てをイラスト化して描いている。その2年後には"Elle-belle-bolle bogen -Sexorientering for børn" という、子ども向けのセックスについての本(え?!)が、こちらは全編、白黒の写真付きで描かれている。もちろん男女とも一糸まとわぬ写真の連続。でももちろんポルノではなく、当時の描き方ではあるものの、子どもにセックスとは何かを全力投球で伝えている。この本は、当時でもセンセーショナルだったらしく、「こうやって子どもはできる」の方はいまだに図書館でも見かけるが、こちらは絶版になった後全く見かけないことを考えると、今の時代にはちょっと大胆すぎて受け入れられにくいのかなと思ったりする。ただレジェンドというか、ここまでやってたんだよね、という意味でこのテーマの本として語り継がれるのは、このセックスについての写真本の方であるようだ。

今回紹介した本は、71年の作品よりイラストもかわいらしく、また、子どもが描いた絵のように描かれている。そして新しくセクシュアリティや体毛、身体の部位の多様さなどについても触れている。内容を少し紹介すると例えば、

セクシュアリティについて、同性同士でも愛し合って、セックスをすること、身体に触れ合うことがあります、という内容。同性愛についても当たり前のこととして扱っているのはさすがデンマークだなと個人的には思います。

セックスについての章。前ページで「大人がどのようにセックスするかは人によって様々です。大人がだれでもセックスが楽しいと思っているわけではありません。エレキギターを弾いている方が楽しいと思う人もいます。」という前振りがあってのこのページ:「そして、セックスをたくさんすることが好きな大人もいます」

これら以外にも、男女の性器や女性の乳房を扱っているページでは、様々な形のイラストで紹介しながら、人間の身体の部位には様々な形や大きさがある、ということを何気なく強調している。これには作者にも意図があるのだそう。例えばポルノなどの影響で、思春期の女の子たちの中には自分の性器のかたちがおかしいとショックを受ける子たちもいるらしく、小さい頃から様々な形のものがあって良いんだということを伝えたいということらしい。深い。そこまでの意図があってのこの本。ポルノやペドフィリアなどの影響もあって、子どもとは何かと性に関する話がし辛い世の中ではあるけれど、性のこと、身体のこと、生殖や妊娠のことって、生きていく上で本当はとってもとっても大切なこと。気になる方は他の2冊も同様に、タイトルをコピペして他ページもぜひご覧ください。日本から見るととっても大胆な絵本ですが、デンマークらしく、オープンに、真正面から子ども向けに描かれた絵本です。

参考記事:

"Ny børne-bolle-bog: De skal jo lære om sex" "Ny bollebog: »Børn skal vide, hvad en klitoris er«" "Fortællingen om blomsten og bien har forandret sig" "’Moren og faren vil gerne have pikken ind i kussen. Det er nemlig dejligt’"



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