50年の時を経て今も大切に読み継がれている作品

"Cykelmyggen Egon" Flemming Qvist Møller, Gyldendal 1967. 「自転車乗りのイーゴン」フレミング・クヴィスト・ミュラー作・絵 絵本 デンマーク

デンマークでは、アンデルセンの絵本でさえ、一定期間を過ぎると絶版になってしまう出版事情であるにもかかわらず、この作品は1967年に出版されて以来ずっと刷を重ねているという、大変めずらしい作品。映像化されたり、近年は演劇としても楽しまれた作品で、世代を超えてデンマークでは愛されている。

ある暑い夏の日に、水の中から羽を広げ飛び立った蚊の仲間たち。その中に一匹だけ、ロードバイクにまたがって出てきたのがこの物語の主人公、イーゴン。仲間が羽を自由自在に動かしながら、どれだけ美しく飛べるかを自慢げに披露していても、それには全く目もくれない。イーゴンはただただ、自転車に乗っていることが大好きなのだ。ある日、昼寝をしている人の鼻の中に迷い込んだイーゴン。くしゃみをしたその人の身体から飛び出た瞬間、大好きだった自転車がぐしゃぐしゃにつぶれてしまった。落ち込んでいると、そばにいたハチが、はちみつを運ぶための荷台付き自転車ならあるよと声をかける。喜んだイーゴンは、はちみつの運搬を手伝う。ハチから感謝されつつ、仕事を終えたイーゴンは、また歩いて旅に出る。すると、ノミのサーカス一座が前を通りかかる。「何か手伝えることはありませんか?ぼくは何でもできます!」と声をかけるイーゴンは、サーカスのために働き始める。そんなある日、テントの横にイーゴンは一台の自転車を見つける。あまりの嬉しさに、嬉々として自転車に飛び乗るイーゴン。自転車を自由自在にあやつる様子を見ていたサーカス団長は、イーゴンにサーカスの団員になるように勧める。そしてイーゴンは、サーカスの一員として、その後たくさんの動物や虫たちを楽しませるようになる。

同じように見えても、人は皆同じではないし、同じである必要はない。自分の気持ちにすがすがしいほど正直に、大好きなものへのまっすぐな気持ちを持ち続けるイーゴンの様子は、50年の歳月を経ても、今のデンマークの人々の心を打つのかもしれない。ある記事によると、この作品はそれまでの「子どもはこうあるべき」という大人のモラルを押し付けるような子どもの本とは大きく違ったものとして登場した本だったとのこと*。イーゴンの自転車へのまっすぐな思いのように、大好きなものへの素直な気持ちを、この絵本は読んでいる大人たちにも思い出させてくれる。

"Cykelmyggens far lærer børn at gøre oprør mod normerne"


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