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カツ丼と花

 神経が耐えかねるということはないだろうか。
安純花(あずみはな)はバイト先で、顔を思わずしかめた。花はレストランの
くせに、喫茶タイムをもうけているという店で働いているのだが、今日の店の
混み具合はここ数日の中でも最高潮と言えるものだった。
 三月の終わり、もうすぐ桜は咲くだろう。つぼみはいよいよ膨らんで、天に
向いている、そんな時だった。
「いや、ここまで忙しいのは異常じゃね」
 花の仕事仲間で友人である香月は、目を細めて言った。キッチン担当の彼女
は、分厚いコック服にコック帽をつけている。下準備には手間をかけている
が、インスタント的で温めれば完成する料理を出しているのにすぎない店で
は、花から見ても重装備だ。香月も、服の厚さには一言あるらしく、夏はシン
ドいんだよとため息をついた。
 花は頷いた。
「まぁ、ね……はぁ、もっと静かになればいいのに」
「だが静かになると潰れるんですよねー」
「そうなんですよねー」
 花の店は一時期売り上げが悪く、閉鎖の危機に陥ったことがある。何とかそ
れを回避した後は、社員や古くからいるバイトを中心に売り上げアップに勤し
んだのだ。例えばオープンを早めたり、例えばドリンクの新規商品を増やした
り、接客レベルをあげるように努力したり、それはそれはみんな必死だった。
結果店は大繁盛だ……春休みの今の時分は待合いスペースに座れない人がいる
ほどに、行列ができている。
「今回は五連勤になっちゃったし、すごい疲れるなぁ」
「私もだよ……憂鬱だわ」
 でもと花は笑う。
「今日でその連勤が終わるし、ほっとしてる」
「はぁ、いいなぁ」
「ふふ、今度奈々と会うし。楽しみだなぁ」
 すると香月はおやと目を丸くした。その顔には不思議だなという言葉が浮か
んでいる。
 何だろと思ったら、お客様がまた店に入ったというスタッフの声が聞こえて
きたので、花は慌てて出て行った。
「いらっしゃいませー」
 店にほがらかな花の声が響く。

 閉店時刻が近づき、行列だった客も引き、店にいる客の数もかなり少なくな
った。
 閉店作業をしつつも、花が店を見回していると、お客の来訪をつげるチャイ
ムが鳴る。
 どうも女性客が着たようだ。水を出そうかと思ったら、後輩の学生バイトが
先に持って行ってくれた。
 香月はキッチン内で、予約のお客様が使用するフォークやナイフを磨いてい
た。
「疲れたね……」
 香月は眉を上げる。
「まぁね……」
「子どものお菓子を食わせて、床にこぼれたのに拾わないとかすごいですよ
ね」
 香月はこくりと頷く。
「まぁ、わりとここあたりにくる人にしてはマナーが悪い」
「ですよねー」
 花がいる店は高級住宅街が近くにあり、基本的に来るお客はほぼ全員お金を
持っている。とにかく恥をさらしたくないという文化が昔から成り立っている
ような場所ではあったが、ここ最近は新興国の外国人や若い人が流入し、その
恥をさらしたくない文化は崩れつつあった。それでも花が住む町よりはきれい
好きだ。花の住んでいるところのレストランなんて、子どもと学生の大声が響
き、親御は気づいてるのか気づいてないのか、騒ぐ子どもに声もかけないこと
がままある。
「でも、最近はここもマナー悪いのが増えたからなぁ」
「花はこのバイト以外でも、ここあたりで働いていたんだよね」
「まぁ、うん……高校卒業して以来ここでは働いてるから」
「長い」
「うん」
「飽きない?」
「うーん? 常連さんと仲良くなってるしなぁ」
「あぁ、この間本をもらってたね」
「うん……感想を考えないとね」
 私、やってるゲームを進められるのかなぁと花は途方に暮れた。
 それに香月はマスクをはずして、ニヤリと笑う。
「ああ、例の? 彼氏がやってるとか言ってたヤツ」
「……」
「何で、黙り込む」
 花は困ったように眉をひそめた。
「そこでなんで、彼氏が出すのかなぁ」
 頬が若干赤らめ、照れている様子が見て取れたのか、香月はぽんぽんと肩を
叩いた。
「別にいいじゃーん。減るもんじゃないし」
「いや、絶対減ってる」
「何を」
「私のSUN値が」
「正気を失うの。彼氏で」
「う、うるさいなぁ」
 和やかな空気の中、二人が楽しそうに私語に勤しんでいると、勢いよくキッ
チンの扉が開いた。
 見ると花と香月の上司の浜田と水を出しに行った学生バイトの馬場が入って
きた。
 馬場があきらかに困り顔だったし、浜田は顔が険しかった。
「ど、どうしたのですか」
 馬場は困り顔で話しかけてくる。馬場はかなり可愛い顔立ちをしたバイト
だ、性格は明るく素直だが、ちょっとお調子者のところがあった。その彼女が
ここまでの顔をするとはただ事ではなかった。
「それが今入ってきたお客さんが、なんかすごくて……」
「なんかすごい?」
 花が聞き返すと、馬場は小さく頷いた。
「それが……」
 馬場が語り出したところによれば、一人で着た中年の身なりも良い女性は、
馬場が出した水を断ったという。それもすごい剣幕で。馬場が困惑し、水を引
っ込めたところ、態度がなっていないとがなるように言い……それを見ていた
上司が近づくと、上司にも早く手絞りのオレンジジュースを持ってこいと怒鳴
ったという。
「ちょっと対応を間違うと、クレームになりますね……」
 上司は馬場にそう言い、手絞りのオレンジジュースを一生懸命に作り出し
た。どうも馬場には任せられないと思っているようだ。
「紅茶も頼んでるんですけど、どうしましょ」
 馬場が言うと花は香月を見た。
「作るしかないでしょうね。香月さん、お願い」
「うん」
 手際よく、香月は頼まれたブレックファーストのミルクティーを作り出す。
「紅茶は早く持って行こうか、多分待てない人の可能性が高いし」
「安純さんが行くんですか」
「うん」
「大丈夫ですか……」
「あぁ……うん」
 香月は出来たよとミルクティーを乗せたお盆を出す。湯気がポットの口から
のぼっていた。
「多分、相性は悪くはないはずとは思う……」
「はぁ」
 馬場は心配そうである。無理もない、花は接客は嫌いではないしむしろ好き
なのだが、不器用だった。複数の仕事を同時にすることが出来ないし、言葉が
詰まることもあるので、周りに心配をかけまくっているのである。
「えっとねぇ、なんというか慣れてるから。そういうお客さん」
「慣れてる……ですか」
「えっと、うまくいえないけど、うん……慣れてるから」
 そう言って、花は紅茶を持ってお客さんの前に立った。
「ちょっと、ここに置きなさいよ!」
 テーブルにしかれた紙マットの端を、すごい勢いで叩く。ミルクの入ったポ
ッドを置く位置まで指定してきた。それに花は何も言わずに従う。
「ジュースはまだなの!」
「まもなくまいりますので」
 花は穏やかな口調でそう言うと、お客は強ばった目を丸くした。そこで花は
「ありがとうございます」と注文してくれたことに関してお礼を言うと、目を
ぱちぱちとして、それから鼻を鳴らした。
「まぁ、ね! こういう店だからね……お客にはしっかりと接客しなきゃ駄目
なのよ。いいわよ、教えてあげるから、早くジュースを持ってきなさいっ」
 そこで花は、静かに笑って「ありがとうございます」と言った。とりあえず
第一関門は突破したようだと思った。
 花は接客はそれほど得意ではない、だが一つ特化しているとしかいえないよ
うな面がある。それは精神面に問題があるようにしか見えない、変なお客との
相性が非常にいい。上司は客商売といえど相性はあるという……そう、雰囲気
も明るく若々しい馬場の方が、お客様の気持ちを盛り上げて場を華やかにする
が、逆にこの手のお客の対処は分からないから相性が非常に悪いのだ。
 花はこの手の、常識が普通とはズレているお客を見ると、気分が切り替わる
のがよく分かる。この人を見ている世界は、花や香月、馬場や上司が見えてい
るものとは違う。ならばその見ている世界にチャンネルを合わせるように意識
をずらせばいい。花は親族の姿を頭の中に浮かべた。
 狂ってしまって部屋から出られなくなった、ある男の姿を。
 そのお客はオレンジジュース四杯と紅茶を三杯飲んで、満足して店を出てい
った。
 上司はお客が帰った後に、ほっと胸をなで下ろしたように息をつく。
「いや、一時はクレーマーかと思って、警戒してしまいましたよ」
「まぁ確かに……。何とか、伝票をテーブルに置くことを認めてもらえて良か
ったですよ」
「伝票を置くのを認める?」
「あぁ……多分あの人の中でのルールでは、伝票を置くのは、許可が必要なこ
とだと思うんです」
 数瞬、上司は黙り込み、感心したように口を開けた。
「そういう人もいるんですね、奥深いなぁ……」
「そうですねー」
 花はそう言っていると、キッチン内に安井が入ってきた。短い髪の毛をきち
んとならして
、普段はつぶらな瞳が大きくなっている。
「あぁ、遅刻するかと思った」
「おはよう、今日は遅いんだね」
「うん、まぁ……ちょっと用事があって。あぁ、そうだ……なんか聞いたんだ
けど、変な客が来たんだって」
「まぁ来たね、大変だったよ」
「ふぅん、どう大変だったの」
「えっとねぇ」
 花はつっかえつっかえになりながら話し出す。花は端的に言葉を伝えると言
うことが苦手だった。そのため会話が回りくどくなる。安井はそういうのを苦
手としているのは分かっていたが、直しようにもすぐには直るものではなかっ
た。
「へぇ、そんな喧嘩を売るような態度の上に、独り言も激しかったのか。まわ
りのお客も迷惑だろうに」
「まぁ怖がって……席替えを希望する方もいたよ……」
「だろうなぁ。はた迷惑だな、本当。何でそんなのがいるんだろうなぁ」
「あぁ……うん」
 安井はうんざりとしたようにため息をついた。
「マジ訳分かんないよなぁ」
 花の気分は今日一番に暗くなった。
 安井の意見は珍しいものではない。むしろ口に出す安井は分かりやすく世相
の意見を言っているのだろうと思う。そう精神的に何かをキタしているという
人は、迷惑なのだ。ある偉い立場にいる男が総一億活躍社会とのたまおうと、
精神にキタしている人間は迷惑だという意識の改革は何も果たしていない。集
団の和を乱すものを排除しようという動きは消えてない。排除思考は消えない
とは思うが、それを胸の内に抱えているだけではだめなのだろうか、言葉や行
動で出なくてもいいのではと花は思っている。
 二人の様子を見ていた香月が声をかけてきた。
「どうしたの、花……顔色悪いけど」
「あ、うん……ちょっとトイレ」
「え、あぁ、分かった」
 突然だなという表情を隠せない香月を置いて、花はスタッフ用のトイレに向
かった。
 トイレに入り、誰もいないことを実感すると、花は深く息をついた。
 花の親族は精神的におかしくなったという人が多い。その中でも一人強烈と
言える事例があった。その親族は今は病院にいる。六十を越えた人なのだが、
三十年近く家をほとんど出られなかったのだ。精神の症状がひどかったのか、
それとも恥ずかしいと隠されたのか、どちらなのかどちらでもあったのか……
花が物心をついた時にはその親族は部屋でたばこをふかして天井に向かってつ
ぶやき続けることしか出来なくなっていた。冬の時には冷たい川に落ちてしま
ったり、薄着で道路に立ち尽くしてしまったり、文字が書けなくなってしまっ
たり、ろくに病院に行けず、状態に会わせた薬や医療が出来なかった結果、ま
るで砂上で歩き続ける放浪者のようになった。
 それを見て、花は何も思わなかったわけではない。でも子供の花に何か出来
たわけではない。そして壊れたものに今の花が何かやれるわけではない。
「ただ」
 花は呟いた。
「いることが許されれば」
 親族は初めから精神にキタしていたわけではない、人間関係のストレスか
ら、病気になったらしい。そう、そもそもはどこにでもいる普通の人間だった
のだ。確かに常識はある方が良い、その方が話が通じやすい、コミュニケーシ
ョンがスムーズになる。でもそれは誰かを排除するための基準ではないのだ。
本質的にはそうではない。ただ望まれているだけなのだ。だが花とてそれがう
まく出来ないことはままある。お菓子で床を汚して平然としているように見え
る親も、もしかしたら子供の対処に四苦八苦しているだけなのかもしれない。
でも花は綺麗な床を汚されるのが店員の立場としては腹立たしい。
 だれも聖人にはなれないのだろう。その考えはあくまで個人としての、常識
という名の、「正義」に過ぎないのだから。

 仕事が終わった。着替えていると、香月がやってきた。
「お疲れー、終わったね」
「うん……まぁ」
「元気ないね」
「うん……」
「なんかあったの」
「うーん」
 そう言われると花はうまく答えられない。へこむというよりは、心がしんど
くなってしまうことはあった。だがそれについて言及することは花には出来な
かった。花の思考は雄弁ではあった、口から出す言葉はずいぶんと語彙力が足
りなかった。うまく自分の思っていることを伝えられない。
「うーん」
「なんか、言おうとしてるんだけど言えないんだね」
「うん……」
「あー」
 香月は小さく頷きながら、花を見た。
「よし、そんな花さんに一つ提案が」
「何だね、香月さん」
「ここの近くに丼ものが美味しい店があるんだよ」
「へぇ」
「知らなかったでしょ」
「うん、ここら辺高いからあまり物色する気が……」
「まぁ高いは高いけど、安いものも美味しいから」
「それならまぁ、いいかも」
 でもと花は頭を傾げる。
「香月、丼ものをそんなに好きだっけ?」
「あぁ、私の好きな芸能人が行ってるんだって」
「へぇ」
 香月の瞳が一瞬、光を浴びたガラスのようにきらきらと輝いていたことに気
がついていたが、花は何も言わなかった。楽しそうにしている香月は、仕事の
忙しさに絶えているときのような重さがない。香月が楽しそうにしているの
は、友人として花は嬉しかった。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
 花の言葉に香月は頬を緩ませた。

 しかし花はこうも思っていた。
 丼ものの店を連れて行って、香月はどうしたいのだろうと。
もしかして自分の心を覆う重苦しさをどうにかしたいのだろうかと思ったが、
いやいや丼もの一つで自分の心はどうにかなるのだろうかと。
 だがしかし、その驕りに若干似た感情はすぐに平伏することになる。白木の
テーブル、カツ丼、親子丼、天丼……をぞくぞくと作り上げていく、壮年の男
性が多い厨房、緑が目に優しいお茶を運ぶ笑い皺のついた女性店員。お客は日
本人だけではなく、様々な国の人もいた。
「人気だねぇ」
「ここのテーブル席に座ったことがないんだよね、いつもカウンターになっち
ゃう」
「ふぅん」
 そうして花はメニュー表を見る、人気メニューはちょっとぎょっとするほど
高い、二千円、三千円が飛んでいく。
「ホントにこんな高いの」
「まぁその分カツの量は多いし、トッピングは増えるし」
「ううーん」
 花はカツ丼にそれほど執着があるわけではない。美味しいとしてもこんなに
高いとなると考えものだ。どうにか安く食べられないかと思って探してみると
基本のカツ丼の値段はずいぶんと良心的だった。
 香月は言った。
「私上カツ丼」
「私はカツ丼で」
 慌てて香月の後で言う。笑い皺が目の脇にある女性店員は、伝票に書きなが
ら朗らかにありがとうございますと言った。

 そうして十五分ほど待つと、カツ丼がやって来た。赤味噌の味噌汁も一緒に
やってきた。青い唐草模様の器には蓋がちゃんとついている。湯気も匂いも逃
さないらしい。普段は中身が剥き出しの器に盛られた丼しか見たことがない花
は面を食らってしまう。若干の緊張とわくわく感を伴って、蓋を開ける。する
とご飯を覆うほどのカツがどんぶりの中で鎮座していた。甘塩っぱいたれの匂
いも鼻の奥に吸い込む。それだけで表情が緩みそうになり、いそいそと花は箸
をとった。
 香月は後に言った。
「あんなに食べるのに一生懸命なの、初めて見たよ」
 そう驚かれるくらい花は無我夢中で食べていた。カツの揚げ具合もいいし、
お肉と油と、たれが混ざり合って口の中が何も言えないくらい幸せになったの
だ。ご飯ももぐもぐと口を動かして食べ、喉がつまらないように味噌汁とお茶
を飲んだ。お腹をそれほど空いていたとは思わないのに、まるで砂に吸収され
る水のようにするすると食べてしまう。おいしい、いやおいしいと口に出す時
間も惜しい。もぐもぐとどんぶりを持って、最後の米粒一粒まで食べきった。
 花はそうして何もかも空にして、カツ丼に一点集中してた顔を上げる。そし
てようやく思い出したかのように呟いた。
「おいしい……」
 息を吐いた。満腹による多幸感と疲労感、幸せなのに脱力してる。
「いやぁ、いい食べっぷり」
「香月」
「悪くないでしょ、もやもやを晴らすのに」
 花は確かにと頷いた。このカツ丼は魔法でもかかっているのだろうか。
「後、花は空腹と疲れで心が乱れるからなぁ」
「そんなことは」
 言葉が切れた。
「ないかも……?」
 小さく香月は笑った。
「悩むことも多いかもしんないけど、そういう時こそ何かで切り替えなきゃ。
明日も仕事でしょ」
「そうだね」
「明日も頑張らなきゃ」
「うん」
「今度は上カツ丼食べよ」
「え」
 香月が食べていたのは二千円のカツ丼である。
 花が思わず沈黙してしまうと冗談だよと香月は言う。
 その瞳は笑っていなかった。花は本当に一緒に食べたいんだと財布のことを
考えながら戦々恐々とした。
「善処します」
 花はそう答えるので精一杯になってると、香月はおかしそうに大笑いをし
た。

 香月と話をしながら店の外に出る。並木道に植えられた桜の木を見ると、蕾
は大きく膨らんでいる。
 花は言った。
「いよいよ春だねぇ」
「もう少しで桜を咲くしね」
「私、結構桜好きだなぁ」
「うん、そういえば花は花見でもするの」
「出来たらとは思うけど」
 すると香月はにやにやと口角を上げた。
「どうせ、彼氏とするんでしょー」
「そんなことないかもだって、相手の都合もあるし」
「そうは言って、花は結構強引なときもあるらしいじゃん」
「そ、そんなことは」
 そうは言いつつも、花は照れ隠しのように頭を下げた。どうにも彼氏である
裕也のことを話題に出されるといつも気恥ずかしくてたまらない。まいったよ
うなこそばゆいような、花は困って香月から視線を外した。
 まだ夜気は寒さが残り、厚めのジャケットは外せそうにない。二人の楽しそ
うな声は夜の町に響いていた。

小説を書き続けるためにも、熱いサポートをお願いしております。よろしくお願いいたしますー。