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ひとにやさしくされるのがこわい



人に優しくされるのが、ずっと怖い。わたしに向けられたもっとも身近な優しさは、ずっと目的とともに存在するものだったから。

生きているとときどき、無条件に優しいひとに巡り会う。無条件に自分を好いてくれるひと。無条件に存在を肯定してくれるひと。人生で何人かめぐり逢った、今後もずっと出会い直しつづけたい、心からそう思わせてくれるひとたち。

でもわたしは、そんな人たちがもっと優しくなってしまうのがこわくて、優しさの出し惜しみをしてしまう。力を抜いてレモンを絞るみたいに。トパァズ色の香気はきっと立たない。それでも、そんな人たちはわたしにずっと優しくて、そんな優しさに触れるたびに、美しすぎる湖を見たときみたいに、泣きたくなる。

どうしてこんなに人間がこわいんだろう。誰もが自分とはまったく異なる人間だ、そんな事実にぞっとする。関わり合うのは、親しくなるのは、境界線をなぞること。近づいてその線をなぞって勝手にさみしくなって、何回こんなことを繰り返すんだろう。今だって、LINEの通知数が増えるのをぼんやりと待っている。

好かれないように。愛されないように。大切なのに突き放したくて、離れていくのは寂しすぎて。なんてことをいくら言ってもこの穴は埋まらなくて、結局わたしは、突き抜けるほど晴れた青い日に、あの街の甘い香りのする草の上で、何も言わずに一緒に昼寝をしてほしい、きっとそれだけなんだろう。

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