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サノスとサーセイとすかしっぺ

それは、サックスを教えている教室でのことだった。
生徒が休みだったので近所のカフェでアレンジをしようと出かけたら、いつものカフェが社員研修で休みだった。
仕方なく何時もの違うケーキ屋兼カフェに赴き作業を開始した。
基本、ケーキ屋なのだが、店内はデカすぎるほどのケーキのディスプレイとテーブルと椅子を所狭しと並べて汲々な状況でお茶とケーキを楽しむ状況で一番快適なのは店員だろうなと思わせる店だった。

しばらくした頃だった。

不快極まりない甲高い声が僕の耳を占拠しはじめた。店に後から入ってきたおじいさんが、若い店員にでっかい声でウンザリするほど長々と小言を言いつづけてたのだ。
僕は、その前に隣のおばあさんがすかしっぺを連発しながら友達と日帰りバスツアーの計画を練っていたせいでグラン・ブルーばりに呼吸困難に陥っていたので、今日はなんという日なんだろうと天を仰いでいた。
小言ガトリングをくらい続けているその若い店員も店員で、ガトリング前はカフェで出すスイーツの講釈を料理を出すたびに全テーブルで長々とウンザリするほど語っていた。
その店の名物メニューらしく、講釈に力を入れていた。いや入り過ぎていた。客の様子は御構い無しでの気合満々の講釈に聞いているこちらが恥ずかしくなるほどだった。どの客も、隣のテーブルで長々とうんざりするほど話してるのが丸聞こえやからもういいよ、と顔におもいっきり書いていたが黙って聞いていた。(さすが芦屋。)
そして、その店員はおじいのテーブルに回った時にも同じことを語られたのだが、「その内容なんか知ってる、もっと勉強しなさい!」という内容でウンザリするほどのうんちくを上回る量と長さの小言をのたまわれていた。ここでの知っている、は他のテーブルの内容を聞いたのではなく、というか(おそらく耳が遠いので聞こえていない)、「そんな教養くらい、わしはもうとおに身につけておる!」という傲慢極まりない意味に思われた。
因みに、おじいは小言の前に他の店員に、おそらく遠いであろう耳のお陰か、でっかいでっかい声で、さも自慢げにフランス語で話しかけたりしていて、そんなカオティックな状況を目の当たりにして僕は、「なんじゃこの店は、、」とウンザリ気味だった。僕はオーディオテクニカ製のカナル型イヤホンをして大きめの音量でアレンジをしていたのだが、おじいの前ではインフィニティーガントレットを装着したサノスを前にしたアベンジャーズレベルで無力だった。このイヤホンはちょっとした耳栓レベルの遮音性能を持っており、飛行機の長距離フライトなどでは大活躍するのだが、おじいにかかればチョチョイのチョイでやられていた。例えるなら、アベンジャーズ繋がりで言うと、インフィニティーウォーでタイタン星でのサノスとの戦いで一捻りにされたアイアンマンのような感じだった。
しかし、もっと恥ずかしかったのは、そのおじいと一緒に来ていた友人だろう。おじいよりも若く、以前におじいのお世話になったことがあったらしく(その会話も聞きたくなくても、オーテクを文字通り土足で家に上がってくるかのように素通りして耳に差し込まれており、まさに丸聞こえだったので内容を脳の深部まで刷り込まれていた)、とてもとても人間の出来杉君な方だった。おそらく、そのおじいのゲームオブスローンズのサーセイのような傍若無人な振る舞いで彼の羞恥心という感覚はズタズタにされ、完全に麻痺していたのかもしれないが、最後まで終始笑顔だったが、もしかしたらCIAの対拷問訓練レベルの過酷なシチュエーションで身につけた完璧な「作り笑顔」だったのかもしれない。
ゲームオブスローンズでの死の軍団との戦いに勝利したアリア・スタークのように、九死に一生でアレンジを一曲終えた時、晴れやかな気持ちと同時に史上最高最強にいつものカフェを呪っている自分がそこにいたのだった。

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