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【太陽の城 月の砦】★後追い実況&現場レポ 1~3回

こんにちは。「太陽の城 月の砦」作・脚本の中村小夜(さや)です。
ヘッダーの絵はみかさのさん@kasago_yuuです!

12世紀イスラーム世界、舞台はシリアとエジプトという、多くの日本のリスナー様にとってなじみの薄い世界の物語だったこともあり、毎晩、放送終了後に「後追い実況」をX(ツイッター)に投稿していました。

これが予想以上に反響をいただきまして、なんだかお祭り状態になってましたので、振り返り用にこちらにまとめておきますね。

あと、役者さんファンの方もたくさん聴いてくださったので、収録現場のエピソードなども少しご紹介します。


はじめに

「太陽の城 月の砦」は、2024年2月28日~3月8日NHK『青春アドベンチャー』で放送された全10回のラジオドラマです。中村小夜によるオリジナル脚本で、原作本はありませんが、5月にはシナリオブックを出版予定です。

最初に広域地図はこちら! 赤い★が最初の舞台、アレッポです。

こちらは1回~3回の登場人物とキャストの皆さんです。

1152年⇒1154年
アーミナ17歳(華優希さん) 
ユーセフ15歳(上口耕平さん) 
マフムード35歳(横田栄司さん) 
シリーン32歳(彩吹真央さん)
シールクーフ42歳(酒向芳さん) 
フェイルーズ23歳(桜咲彩花さん)

第1回 ダマスカスの花嫁

イメージイラスト/みかさのさん@kasago_yuu

後追い実況①

始まりましたー☆
今日のマップ&人物相関図はこちら ↑ です。
この時代は13~15歳頃が成人なのでユーセフ君初士官です!

The Bazaar, Markets and Merchants of the Islamic World

上口ユーセフ君が冒頭で「まるで天空に浮かぶ巨大な船みたいだ!」と言ったアレッポの城塞です。この高台の城は紀元前からあったものです(現存する城壁は13世紀のもの)。

ユーセフ君は7日7晩、馬を飛ばしたって言ってるけど、グーグルさんは歩いて3日と11時間と言い張っています。

でも、これは休みなく24時間歩いた場合の時間なので、実際に歩くと3~4倍ぐらいの時間がかかります。
馬だと、旅の仕方にもよりますが、ユーセフ君は急ぐ旅でもないので、わりとのんびりと、各地の市場でお菓子を物色しながら北上したのでしょう。
アレッポ~ダマスカスは367㎞。
東京〜名古屋(344㎞)と同じぐらいの距離感ですね。

各地の王朝が群雄割拠して、十字軍も乱入して争っていた時代なのに、わりと一般人もすんなり旅してるんですよね。なぜこれができたかというと、イスラームの世界では、聖地メッカへの巡礼が義務なので、旅のインフラ(街道、隊商宿、公衆浴場など)が整っていたのと、「旅人はもてなすべし」という暗黙の了解があったからではないかと思います(この風習は現在も生きてる気がします)。

さて、華アーミナちゃん(華優希さん)のおてんばがかわいいですね。最初のひと声だけでヒロインだとわかる輝きを放つ、あの魅力は一体何なんでしょう!
アーミナの父はダマスカスの将軍(支配者)で、敵将のアレッポの君主、マフムードに和平の証として娘を差し出しているといます。この2年ぐらい前にアーミナの父は病没していますが、敵対関係はまだ続いてるので、アーミナは人質状態で、マフムードは長年の父の宿敵なのです。

上口耕平さんの天然ピュアな爽やかボイスに萌えます。
あと横田栄司さんの貴公子然とした若き王っぷり…。
酒向芳さんの酔いどれ荒ぶりシールクーフ。
なにやらわやわやしてる中でも、彩吹真央さん演じるシリーンさんがいると落ち着きますよね。
はつらつおてんばに見せかけた華アーミナちゃんは、心に刃を秘めたまま明日に続きます〜。

そういえばアーミナの部屋にいる鳥の種類はなんですか? ってNHKの音響スタッフさんに聞かれて、「えーと、日本でなんて言うか知らないけどブルブルです」って答えたら、音響さんが「ブルブルですか!」と打てば響くように反応してくださったのが嬉しかったです(今調べたら、アラビア鶯とか呼ばれてますね。ペルシャの詩にもよく出てきます)。

現場レポこぼれ話①

収録は雪予報のあったさむーいある日。
朝10時に顔合わせして、声ならしとセッションのお試しを兼ねて、第2話をさらっと読み合わせします(4回から登場の藤岡正明さんと5回から登場の横山賀三さんはまだ登校していません)。
ラジオの収録はTVや舞台と違って、わりと皆さんラフな格好でリラックスしてお見えになります。上口さんもメガネボーイです。でも女性陣はラフな格好でもおキレイで存在感があって眩しいんですけど。
華優希さんは「台本読んでから少し調べてみたんです」と言ってくださって。なかなか役作りで背景まで調べてくださる方、少ないと思うんです。とても真面目で誠実で、役に全力で取り組んでくださる素敵な方だな~と思いました。
だいたい1話15分を1時間かけて収録します。
まずはリハーサルを1回。
いくつか修正やご要望をお願いして本番1回+α。
皆さん、初めてのセッションとは思えないほど、最初から完成度が高い!
彩吹真央さんはシリーンと語りの2役なのですが、これは別編集ではなく、地続きでそのまま読んでいらっしゃいます。なので、1話の冒頭で、
(アーミナ)「私は何色にも染まらないの!」
(シリーン)「あ、姫さま~っ!」
(語り)「シリアの北の町アレッポ。その中心の丘に聳え立つ白い城砦は…」
みたいにシリーンと語りが連続するところも、リアルタイムで声を変えていらっしゃいます。それを知ってから聴くと、彩吹さんのすごさがさらによくわかると思います。

第2回 アレッポの光と影

イメージイラスト/みかさのさん@kasago_yuu

後追い実況②

今日はアレッポの市街図です、

お城の丘を降りたふもとには、屋根のある巨大な市場(スーク)があります。ユーセフとアーミナがお忍びで行ったのはこの市場。商品ごとに石けんスークとか蝋燭スークとか絨毯スークとか、いろんなゾーンがあります。

こちら ↓ は工場に積み上げられた石けんです。アーミナもふだんから石鹸は使っていたけれど、こんな状態を見るのは初めてだったのですね。アレッポはオリーブ石鹸の名産地ですが、中世ではこの地域のオリーブはまだ食用がメインでした。

The Bazaar, Markets and Merchants of the Islamic World

ふたりが市場に行ったとき、遠くでうっすらアザーンが流れてましたー!!私は常々、中世の物語を描くとき、教会の鐘は使われるのに、アザーンを使わないのは不自然だと思ってて、今回はマイ音源を持ち込んでお願いして使っていただきました…ありがとうございます! NHKさま!

あ、アザーンっていうのは、イスラーム世界で1日5回流れる、礼拝を呼びかける声のことです。アッラーフアクバル(神は偉大なり)っていう声がかすかに聞き取れたでしょうか?

↓ こちらはウィキペディアのアザーンの説明です。声も聴けます。

アザーンが流れる中で、シリーンさんの口真似するユーセフ君、かわいくないですか?
「これはそんじょそこらじゃ手に入らないお品でございますゆえ~」ってやつ。これ、最初にシリーン役の彩吹さんがお手本を見せてくださって、そしたらユーセフ役の上口さんが口調をガラッと変えて寄せてきたので、思わず吹き出しましたよ〜(^^)/ 上口さん、モノマネがお得意だと後で知りました。

それから、フェイルーズタイムいかがでしたか?
女ってこわっ……! と思わずつぶやいてしまいました。
でも悪役でも気高くて素敵なんですよね、桜咲さん。史実の女性ですが、名前が残っていないので(中世女性あるある)アラビア語でトルコ石という意味のフェイルーズって名づけました。だから異名が「アレッポの宝石」。

あと、私地図オタクなんで、おまけです。
↓ こちらはローマ時代のアレッポ 。 

Construction of Power and Piety in Medieval Aleppo

↓そしてこちらが、グーグル先生による現代のアレッポ。

シティプランがほぼそのまま引き継がれているのがわかります。
アレッポ城の位置も、町の外壁も、町の中心地(市場)もそのまま!

ローマ時代にアゴラ(広場)だった場所が、中世イスラーム期にはモスク(イスラームの礼拝所)に変わっていて、それが現在まで続いています。
このあたりの歴史のスケール感! 日本とはまた違った趣を感じます。

アゴラ/モスクに隣接してアレッポの巨大市場が広がっています。この歴史的な市場は、2012年から続くシリア内戦でかなり消失してしまったそうです。
何千年の歴史を一瞬で灰にする争いは今も続いています。

現場レポこぼれ話②

役者の皆様は、基本的には語尾の1語まで台本どおりに読んでくださるのですが、例外もあります。
相手に対するリアクションとか、ちょっとした息継ぎとかは、台本になくても自然と入れてくださるんですね。これがあるとないとでは全く印象が変わるので、これこそ声の演技を聴く醍醐味だともいえます。
たとえば第2回で、馬を乗り回していた華アーミナちゃんが、馬から降りるときにちょっと「んしょ!」って言ってるの、とってもかわいいんですよね。
あと、お忍びでアーミナとユーセフが市場に行った時に、あちこちに目を奪われて動き回るアーミナ様に振り回された上口ユーセフ君が「あ゛、お気に召すものがあれば私が買いますので~」という時に思わず発した「あ゛」という声とかは、役作り(というか役者さんのカンかもしれませんが)で入れてくださっています。
あと、ふたりでミシュミシュ(あんず)の実をかじって
「すっぱ~」
「あま~」
というところはディレクターさんが「せーの!」みたいな合図を出すのかと思っていたら、そんなことはなくて、自然とおふたりの声が重なっていました(というか、華さんの「す」を聞いて、上口さんが瞬時に合わせていたのだと思います)。
ラジオドラマは、ふだんTVや舞台では共演しないような役者さんたちの意外な組み合わせが見られるのも魅力的ですね。

第3回 決戦前夜

後追い実況③

今日は昨日と場面が同じなので、趣向を変えて「劇中出てくるアラビア語コーナー」にしてみました 。日常生活でお使いください。

今日は緊張したわー(*T^T)
いや収録には立ち会わせていただいてますけど、音楽と効果音が入った完成版を聴くのはリアタイが初めてなんですよ。作曲はしたけどアレンジは聴いてないって状態。今日はけっこう対話多めのシーンだからどうかしら? と思ってどきどきしましたが、アレンジ素敵でした、よね?

なんか華アーミナちゃんが初めて民の暮らしを知って無力感に陥り(えぐえぐ泣くのが可愛い)それから2年が過ぎて、少し声が大人びてるのすごいなぁー! 17歳と19歳を演じ分けるなんて! 横田栄司さんのマフムードの威厳と上口耕平さんの天然ユーセフ君の主従関係も説得力あり… 対話だけでもたせるのは本当は難しいんですけど、ずっと聞いていたくなる声です。

この頃ダマスカスはブーリー朝のアバクという少年が統治者で、アーミナ父のウヌルはその王のアターベク(後見人が摂政となって事実上政権を握っている状態)だったので「王族」とはちょっと違います。イスラームは神の前に人は平等だという教えなので、身分差とかは原則ないわけで。だけど権力を握った者が王朝を立てて世襲になることは当然あるので、統治者はマリク(王)とかアミール(将軍)とかスルターン(将軍君主)とか呼ばれます。

マフムード(ヌールッディーン)も、セルジューク朝から分派したアターベクだった父親ザンギーが起こした王朝を受け継いだわけです。このあたりは、日本の天皇家よりは幕府に近いし、西洋の血族による王朝とは根本的に意味合いが違うよっていうざっくりした解説でした。

さて、これにて前半のアレッポ編は終了。明日からダマスカス編に移ります。引き続きよろしくー!

現場レポこぼれ話③

横田栄司さんは、少し休養されていて演技もお久しぶりだったので、なおさら感無量でした。お会いした時に、和田義盛の話はさんざんあちこちで聞かれていらっしゃるだろうなあと思い、なぜか私は「加賀市新幹線対策室」のお話をしてしまいました(;^_^ YouTubeで見られますけど、インパクト強すぎるんで、あれ。(年初の地震の影響がなかったのかなあ?という心配もあったので)。そしたら思いのほか、いろいろおしゃべりしてくださったので逆にびっくりしましたよ。あたたかくて茶目っ気のあるお人柄なのですね。
マフムードの私の史実イメージは、高潔なる貴公子(を意識して振舞っている若き王)で、近寄りがたい孤高の感じなんですが、横田さんは情熱とダンディズムあふれる王者像を演じてくださいました。横田さんと上口さんの密な共演もなかなか貴重なんじゃないでしょうか。
あと、横田さんはけっこうベッドシーン(あ、単純にベッドで寝ているという意味です)も多かったので、眠りと覚醒のあわいにいる時のかすれ声がセクシーでとても素敵でした。
酒向芳さんは豪快で酒飲みのシールクーフのイメージにぴったりでしたね。
あと、このあたりで「ガヤ収録」も行っています。いわゆるモブというか、ざわめきや群衆の声とかですね。後宮でアーミナとフェイルーズがバチバチやりあっている背景で、ウードの響きを聴きながら軽やかに語らう女性たちの笑い声は、華さん、彩吹さん、桜咲さんがやってくださっています。

設定めも

(アーミナを基準にした年齢設定)
アーミナ0    ユーセフ-2
マフムード+18  シリーン+15
シールクーフ+25  フェイルーズ+6
ファーディル+1    ザイド-20

このうち、史実の年齢がわかっているのはユーセフとマフムード、ファーディル。アーミナとシールクーフ、フェイルーズ(サーリフの母)は史実キャラですが、年齢の記録は残っていません。シリーンとザイドはオリジナルキャラです。

中世イスラーム世界では、基本的に誕生年を記録する習慣がないので、没年の記録に享年が記してあるかどうかが分かれ目になります。さらになぜか「多めにサバをよむ」傾向もあるので、記録などが残っていても事実とは限らないのがややこしいところ。後で出てくるファーディルも、本人が年齢を多めにサバよんだ詩を残していたせいで、長らく生年が2説ありました(現在は若い方の1135年説が有力なのでこちらを採用)。

アーミナの生年は不明ですが、マフムードに嫁いだ年齢を考慮するとユーセフより少し年上かな、というのは妥当な推測だと思います。
シールクーフはユーセフの父の弟で、ユーセフは3男(4男かも)なので、そのあたりから考えて設定しました。

イスラームのヒジュラ歴は月齢なので、西暦に換算するとズレが生じます。誕生日もわからないので、登場の時点では正確に言うと、アーミナ16~17歳、ユーセフ14~15歳です。14歳だと通常は子役さんにお願いする年なのですが、今回は華優希さんと上口耕平さんが少女・少年役から演じてくださっています! 

シリーンは意外とマフムードと年齢が近いので(立場は違うけど)、案外、同世代感覚だったんじゃないかと思います。あ、裏設定ではシリーンは結婚して子供もいます。夫はたぶんマフムードの厩番かなんかやってたと思います。

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