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ただひたすらに肯定されることを望んでいる。

仕事のことって書きづらいですね。守秘義務があるし、むずかしいです。でも、ぼやかして書いてみますね。

わたしは主に、公的な施設で受付事務員として働いてきました。そこには老若男女問わず、さまざまな人たちがやってきます。中には少し心が不安定な人もいらっしゃいます。

20年前の話です。職場に、車椅子に乗ったご高齢のおじいさんと、付き添いの奥さまがお見えになりました。

ご高齢のおじいさんは、身体の不調にイライラしていて、わたしが働く職場にやってきては怒鳴り散らします。激昂です。要求も半端なく、「ドリップコーヒーで持て成せ!」と言う。わたしがドリップコーヒーを出すと、お決まりのごとく、「こんな不味いコーヒーを飲めるか!」と更に激昂します。きっと何をしても、どんなオモテナシをしても、響かなかったでしょう。

奥さまは、おとなしそうな人でした。その激昂するご主人のいいなりで、自分を押しころして生きているようにみえます。奥さまの顔には、「わたしも困っているけど、どうしたらいいのかがわからない」と書いてありました。

あるとき、そのご高齢のおじいさんが職員を刃物で脅す事件がおきます。車椅子から立ち上がれないので、対面に座っている職員に刃物は届きません。もちろん、職員は無事でした。

ああ、この人は、職員に危害を加えようとしているんじゃない。自分は弱くなんてない。強いんだ。職員に自分の強さを誇示したかったのだと思いました。

刃物を出したので、警察官が来ました。殺意は無かったでしょうが、仕方ありません。ご高齢のおじいさんは、警察官に連行され、わたしが勤める職場にはもう二度と来なくなりました。

仕事をしていると、よく話しかけられます。全く知らない人からワインの知識について披露されたり、自分のこれまでの功績について語られたります。自衛隊で働いていたおじいさんは、月に何度もわたしに勲章を見せに来ました。どれだけ自分が凄かったのかを語りはじめます。みなさん、嬉しそうに話します。わたしは、そのたびに仕事の手をとめ、話を聴きます。

最近のことです。

新聞の切り抜きをもって、わたしに映画を観るように勧めてくるおじいさん。「映画のこと、奥さまにお話ししないんですか?」と訊きました。「あいつはオレに興味なんてない、無視されてるんだ」と不機嫌そうに答えてくれました。ああ、そうかあ、だからわたしに映画のことを話に来ているんだと納得しました。 

勤めている間にわかったことがあります。いつも人は、自分のことを受け入れてくれる人を探しているんだ。ただひたすらに自分を肯定されたい欲を持っている。

それはわたしもです。褒められると嬉しい。「すごいですね」「仕事はやいですね」と声をかけられたら嬉しいし、期待を裏切りたくない、もっとがんばろうと思います。

ただひたすらに自分を肯定されること

それは、20年前から今も変わらず人々が求めているものなんだと思います。

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