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あれ、恋愛映画じゃなかったの? 映画「ナラタージュ」感想(ネタバレ)

原作、発売時に読んでた。
発売時っていうのはつまり2005年の初頭。
自分自身20歳そこそこで、いきってたころで、号泣したことを覚えている。
主人公の女の子「泉」に感情移入していたはず。
それ以来、悲しい気持ちになるのが怖くて本棚に差したままだった。
もう12年も前。

そして今回、ストーリーは原作にほぼ忠実なはずなのに、高校教師「葉山」に感情移入して人間の複雑さと弱さにばかり目がいってしまった。映画を見にいって、自分の変化を実感した気分になって動揺した。

◆誰に感情移入するかで、ダメ恋愛人間度が測れる映画

何人もの感想を読んだり、聞いたりしたけれど、「葉山先生を理解できると思うかどうか」はきっぱり別れた。演じている松本潤もインタビューで「葉山を理解できない」と言っている。
自罰の苦しさに耐えられず、好意を振り切る強さも持てず、泉(有村架純)を頼ってしまう葉山。
「好き」が複数あったり、その時その時で変わってしまったり、自分についてきてくれる人の存在そのものを失いたくない気持ち。ちょっとづつ仕掛ける罠にハマる相手に快感を覚えているのだから、客観的にはやはり狡くて弱い人間だとしか言えないけれど、そんな面を持っている人間がいることは意外ではない。

時制は、泉の高校時代、開始点、その後と3つの時系列が並行で語られるのでちょっとわかりづらいが、3つの時制をワープする表現がそのまま、心情を表していて短い時間で登場人物のつながりを綺麗に描いている。

ほとんど富山ロケだというこの映画、聖地巡礼したくなる。終始雨が降っていて湿った曇った感じなのだけど、その曖昧さがテーマを泥臭く現実に持ってくる役割をしている。このざらっとした感じ、同じ行定監督の「贅沢な骨」が大好きなのだが、あれと共通する、と思った。
(で、見終わってから、もしかして贅沢な骨も今見たら感想全然違うかもと思い、焦ってみかえしたのはまた別の話)

◆キャスティングだけで読める関係性
松本潤は今現在日本のトップアイドル、の中でも目立つ存在だ。その「アイドル」を隠した、もっさりと死んだ感はすごかった。それでも彼はオーラを隠しきれないので、生徒が好きになってしまうのがすっと理解できる。
(前情報として松潤ズラだとか、体重増量させた、お尻のラインが中年、とかそういうポイントがあってそちらが気になってしまったのは残念だったが(笑))
有村架純の工藤泉の演技は文句なく、すっきりと意図を描いていて、それでいていやらしくもなく、とても綺麗なのにどこにでもいる女子大生にも見えた。
坂口健太郎の小野くんは葉山とは真逆の性格で、"健全な大学生"に見えて、ぴったりな配役だと思った。松本潤の身長は、そんなに高くなくて、この映画では猫背にした(!)こともあって坂口と並んだ際の差分がかなりあり、絶妙な対比になっていた。

◆精神障害を負った人の責任を誰が感じ、どう発散するのか

松本潤演じる葉山先生の奥さんは病んで東京の実家に暮らしている。葉山は東京を離れ、富山で教師をしている。しかし彼の車はまだ練馬ナンバーのまま。
実は今回、一番泣けたのは奥さんの父親が出張ついでに葉山に会いにきたシーンだった。
奥さんが病んだのは葉山のせいだと昔ものすごく責められ、自分でも何かを間違ったと自分を責めている葉山。奥さんの父親は、彼女が回復してきていること、兄妹の子供を可愛がってることを伝え、そろそろ東京に戻って来ないか?と言う。
葉山はきっとそこで、奥さんに子供を産ませてあげられなかった、という気持ち、自分がいなくても元気になるのか、という気持ちがあったのではないか・・・具体的には描かれていなくて勝手に想像するだけだけれど、きっとまるっとショックだったのだろう。そこで「絶対に受け入れてくれる」泉を呼び出すのが本当に弱い。が、人が精神を病んだ原因は誰か一人にあるものだろうか?
自分が思うのは、「全ては一因だが決定的原因はない」のだということだ。原因を探してもトリガーを探しても、決定的にこの現象だけのせい、というのはないはずだ。誰の責任でもない。そういう意味で、葉山は自分で背負いすぎだし、奥さんと離されたことで時が止まっている。それが原因で泉の20歳前後の数年を搾取しているのだとしたら、負の連鎖だ。

悲しい。

映画の中ではもう1件、葉山先生が顧問をする演劇部の柚子ちゃんの件で似たようなやるせない事象が描かれている。これも泉と葉山の仲のトリガーとなる。

人間が、悲しい。

こんなことを考える映画だったのか?これは。恋愛映画ではなかったのか?
正直葉山先生はそんなに喋っているわけでもない。泉も思っていることを全部モノローグにしてくれたりはしない。
言葉が少なくて、行間がとても多い映画だ。
映像から読み取れることもたくさん、ある。例えば葉山先生の家のティッシュカバーとか。

◆10年温めてくれてありがとう!行定監督

そんなわけで、複雑な人間感を見事になんの結論も出さないまま描いてくれるこの映画、10年前に見てしまったら、ただ泉に感情移入して葉山先生酷い、なんなの!?みたいになっていただろう。今、映画にしてくれてありがとう!

ちなみに「葉山先生なんなの!?」の感情への回答はエンドロールで流れる野田洋次郎作詞作曲、歌adieuの主題歌で吸収されている。

「あなたをちゃんと思い出にできたよ」
「どんな昨日より 明日が好きだと 少しの背伸びと本音で 今は言えるよ」

泉の中では、消化できた、ということに、して、おこう。
ちょっと救われて帰った。
(でもやっぱり葉山先生のその後が気になる)

もう1度見たい。
今度はもっとミニシアターな映画館で、ぬるっと見たいな。

歌詞:
http://j-lyric.net/artist/a05d4f1/l042ac5.html
MV:
https://www.youtube.com/watch?v=456fxjBJ7Tw

※初出時に監督のお名前の漢字を間違えていました。申し訳ありませんでした。

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