91.父の威厳商品

 この頃のパソコンのCMを見ていると、ぼくは唐突に、家庭における父権の危機を感じるのだ。

 ここで、話はパソコンではなく、突然カメラのことになる。
 ぼくが子供の頃カメラというものは、やれ絞りがどうたら焦点距離がどうたらその場合のシャッタースピードは……と、一枚の写真を撮るまでの手順が大変にややこしかった。今もマニア向けにそういった商品はあるが、たいていのカメラはボタン一つで簡単に写真が撮れる。さらに「使い捨てカメラ」なんて商品まで一般的だ。
 しかし昔のカメラは操作方法が不親切だった。だから、かつて家族写真をとる時、カメラ担当は父親に決まっていた。あんなややこしいそうなものに、母も子供も誰も手を出そうとは思わなかったのだ。そしてそれを扱っている父親を見て、
「すごいな」
 と単純に尊敬していた。
 こんな風に、家庭における父の威厳確認用商品とでも言うべきものがあることを、ぼくは発見したのだ。

 一昔前まで、カメラがそうだった(その前は多分自動車だ)。カメラの後は、オーディオが引き継いだ。その後はビデオカメラ。そしてここ10年ばかり、その役割はパソコンが一手に引き受けていたのだ。
 ところがここに来て、かつて不親切の極みだったパソコンの操作方法はずいぶん易しくなり、デザインもオシャレにカラフルになってきた。ほどなく、カメラと同じ道をたどるのは目に見えている。
 このままではいけない! 全国の技術者よ、父の威厳を保てる次なるややこしい製品を早く開発しなくては……。

【モンダイ点】
◎近い将来「使い捨てパソコン」なんてのが出来てくるのだろうか?

(ステラ/2000/1/20)

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