風流と食欲

 桜。
 牡丹。
 紅葉。
 ……実に風流なものだ。

 日本人は、早春には、パッと咲いてパッと散る桜の潔い美しさを愛で、春爛漫ともなれば、花の王とも呼ばれる牡丹の豪華さを愛で、秋には一面に色を変え、散っていく運命のもみじ葉のはかなさを愛で、……とまぁ、それは確かにそうではあるのですが、ここで言っているのはちょっと違う。

 馬肉は「さくら」、
 猪肉は「ぼたん」、
 そして、鹿肉は「もみじ」と言うんですね。そういえば、関西ではわりと一般的だが、
 鶏肉は「かしわ」と言う。
 あれだって、柏の葉っぱから来ている。

 どうも私たちは、動物の肉を食べるとき、植物の名前で呼びたがる。その理由は? と見ると……、
「さくら」は、馬の肉がきれいな桜色をしているからとも、桜の季節に食べるとおいしいからとも。
「ぼたん」は、猪鍋のとき、お皿に肉を並べた様子が牡丹の花のようにきれいだからとか。
「もみじ」は、百人一首でも有名。猿丸太夫の、《奥山に もみじ踏み分け鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき》という和歌からきているとか。
 おお、やっぱり日本人は風流だ!
 ……と言えるのならばいいのですがね。

 他の説では、「猪に牡丹」「鹿に紅葉」は、バクチの花札から来ているとも言うし、馬肉にいたっては、「さくら」ではなく「蹴とばし」なんて呼んだりもする。
 どうも日本人には、風流のカケラもない一面もあるようで……。

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