干支シリーズ(2008年/政治・経済)

NHK-FMの「青春アドベンチャー」というドラマ枠に、ずいぶんたくさんのドラマを書かせてもらった。その中で、通称「干支シリーズ」と呼ばれたものがあった。
一年の最後に、その年にあったニュースや出来事を振り返るドラマ(と言ってはいるが、中味は実質ミニコントの集合体)。通常はドラマ枠だが、年末ぐらいはぐっとくだけて、
「今年こんなことがあったね」
「あった、あった!」
と振り返り、笑い飛ばしながら、少しだけ考える企画。

銀河連邦なるものからやってくる宇宙人が、毎年、地球の動物の姿に変身して人間たちの様子を観察。それを次の年担当の動物(の姿に変身した後任)にレクチャーする。大昔からあったそれが「干支」の引継ぎになった…という安直な設定だ。

一年の最後にその年を振り返って、懐かしんだり笑ったりしたい…というのは人間の自然な感情。これが、振り返って《再び・見る》という意味で、《レ・ビュー》。19世紀のパリで始まった、歌と踊りとコントの《レビュー・ショー》なのだ。
だから、毎年私が年末に私が書くバカバカしいコント番組は、実はレビューショーからつながる正統派エンタメの系譜だったのだ。

ちなみに、もう一度振り返って笑う時、自然に冷静な視点が入って来る。やがてこれが批評という意味を持ち、劇評や書評の《レビュー》になるのだ。

1993年から2009年まで、なんと17年も、私は毎年この番組を書いていたのだ。基本は1日に3コント×5曜日、合計15のコントで一年を振り返る(長時間特番の年や、他の作家さんと一緒の年も、ごく一部あった)。
我ながら「よくもまあ、毎年毎年書いたものだ」と思うし、「NHKもよく、こんなやつにずっと書かせてくれたものだ」と感謝する。

「干支シリーズ」はレビューショーの末裔だから、笑いには風刺的視点が入る。それこそがキモなのだ。だが17年を通して、制作側から内容に関してのNG項目はなかった。自由に書かせてくれたのだ。これも感謝している。

最初は手書きだったが、そのうちワープロ、そしてPCで打つようになり、途中から原稿のデータが残っている。
そこで、残っている原稿から「オープニングの導入部分」と「コント部分」と最後の「銀河連邦への報告書」だけを抜き出し、各年・各ジャンルをランダムにUPしていこう。

その年だから面白い究極の時事ネタだ。いま読むと他愛のないコントだったり、どこが面白いのかわからないケースもある。くだらない原稿でスミマセン! 
が、年月を経て読んでみると、当時の時代風俗の記録性の方が面白くなってくるのだ。
「すっかり忘れてたけど、あったなあ~、あんなこと!」
とか、
「そうそう。あの頃、みんなそうだった」
あるいは、若い方は、
「へえ~、この年にもうそれが話題になってたのか」
とか。
…それらを楽しんでいただければ嬉しい。
(そうむつかしい脚本ではないが、ラジオドラマ脚本特有の記号の読み方は、こちらをご覧ください)

毎年、メインキャストは男女がセットで、その年と翌年の年男と年女の役者さんが演じます。前年に引継ぎを受けた年男or年女の役者さんが一年後に再び出演する、という凝った作りでした(一回だけイレギュラーの年がありましたが)。
今回は「2008年」。ジャンルは「政治・経済」。この年なにがあったか憶えてますか?
2008年の干支「ネズミ」役は男性、翌年の干支「ウシ」役は女性でした。誰が演じていたかは、最後に記載します。

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【2008年のOP】
SE  チュウチュウ!

ネズミ 私はネズミだ。今年一年間、ネズミの姿になって、この国をずっと監視してきた。そして、来年を担当するのが?
ウシ はぁ~い、私よ。
ネズミ ええっと…あんたは?
ウシ 見てわからない? この、白と黒のゲージュツ的な肌の模様!
ネズミ 白と黒? …てことは、あんたは、パ…
ウシ あー、ストップ!「パンダ」じゃないわよ。駄目よ、そんな初歩的なボケじゃ。怒られるわ。
ネズミ 怒られるって、誰に…?
ウシ ほら、この白と黒が複雑に入り混じった模様。じーっと見てると、だんだん、わかってくるでしょ?
ネズミ じーっと見てると……、あぁ! だんだん、見えてきた!
ウシ でしょ?
ネズミ えーと……、「両手を広げてる男の人」?
ウシ ロールシャッハ・テストじゃないんですからっ! そういう高級なボケはお客さんを選ぶから、よくないわ。
ネズミ なんか、色々ダメ出しされたくないなぁ、…牛に。
ウシ わかってんじゃないのっ!

SE  モー!

TM CI~BG

N  [タイトル・クレジット]

   ~FO

SE  SF的コンピュータ音~BG

ネズミ この星の文明を監視するため、私たちは銀河連邦から、毎年交代で派遣されている。今年一年は私がネズミの姿。
ウシ  そして、来年は私が牛の姿になって監視するのね。
ネズミ  ではさっそく、私が見てきたこの国のできごとを、きみに伝えていこう。今日のジャンルは…なにがいいかな…、まず、「囲碁・将棋」あたりからにしようか?
ウシ  そ、そんなにジャンル分けが、こまかいの?
ネズミ 当たり前じゃないか。一年間に渡って監視してきたんだぞ。我々の調査はあらゆるジャンルを網羅しているのだ。「囲碁・将棋」「ペット」「暮らしの知恵」「妖怪」「文房具」「家電」「コラーゲン」…などなど全318ジャンル! 
ウシ  へえ…、そんなに。
ネズミ 例年、その中から一部を代表して、「政治・経済」とか「文化」とかのジャンルを伝えているにすぎないんだ。
ウシ 知らなかったわ。
ネズミ さ、今日は何にする? 何でもいいよ。
ウシ じゃ、やっぱり一番気になる、…コラーゲン!
ネズミ ……コラーゲンね。コラーゲン、も…いいんだけどさ、…今日は「政治・経済」あたりからいってみようか?
ウシ ホントにそんなに種類があるの?
ネズミ あるに決まってるよ。全837種類!
ウシ さっきと、数が違ってない?
ネズミ じゃんじゃん増えるんだよ、ネズミだからね。

SE  ワープ音

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