96.違和感芸
ミュージカル嫌いの意見は次の二点だ。
①さっきまで普通に喋っていた人たちが、突然歌いだすのはヘンじゃないか。
②どう見ても日本人なのに赤毛のかつらをつけて「ジョニー」だの「イライザ」だのと呼び合うのはキモチ悪い。
先日、新国立劇場で『アイ・ラブ・坊っちゃん2000』というミュージカルを観て来た。タイトルは夏目漱石の「坊っちゃん」から来ている。その名の通り日本の創作ミュージカルで、これは1993年以来の再々演。
ぼくはミュージカルが好きで、だから逆に①こそが魅力となる。さっきまでケンカをしていたはずなのに、突然歌いだした相手に(打ち合わせもなく)正しいハーモニーをつけ、対位法にのっとったメロディーでの掛け合いが始まると嬉しくなるのだ。
しかし②については、わからないではない。確かに違和感あるもんなぁ。
今回観たミュージカルは国産だから、それはなかった。ばあやの清なんか、着物姿に白髪のかつらという典型的な日本のお婆ちゃん姿。安心できる。しかしだからこそ、そんな人が突然朗々と歌い始めると、ちょっとヘンな感じがした(清役の大方斐紗子さんの歌が素晴らしく上手い!)。
けれど考えてみれば、外国でだって、よぼよぼのお婆さんが突然美しく歌い出せばヘンなのだ。元々ミュージカルとは、そういった違和感をも楽しむ芸能なのだから。
ひるがえって、テレビというのは違和感芸に最も向かないメディアだ。ミュージカルしかり、コンサート、歌舞伎、落語しかり、そうした造り込んだ非日常よりも、手を加えないリアルタイムの方が見ていて面白い。
すべてをテレビというフィルターを通して判断してはいけない、というわけだ。
【モンダイ点】
◎坊っちゃん役の中村繁之がもう32歳になっているとは知らなかった!
(ステラ/2000/2/24)
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