見出し画像

1年。

ずーっと下書きだったの忘れてたから公開w

兄貴に初めて会ったのは2002年。
あの強烈なキャラクターも何故か記憶に留めることなく、ただのきっかけに過ぎなかったようだ。

それから10年が経ち、私が企画したイベント会場で偶然、兄貴が通りかかった。
「お、久しぶり」と声をかけられたが、誰だかわからず、2、3秒黙り込んだ。それから私の脳裏に浮かんできたのは、10年前に見せて貰った兄貴の写真が先だった。そこから当時がじわじわと蘇って来たのを今も鮮明に覚えている。

私は兄貴を「絶滅危惧種」と呼ぶ。兄貴ほど人生に経験はないが、あんな人見たことないからだ。

このご時世、携帯電話もなく家電もなく、手紙を書くか、自宅に狼煙が上がらなきゃ連絡も取れない人なんているだろうか。

どんな大きな木だろうが、梯子とロープだけで登ってゆく。しかも梯子にも木にも登るのは長靴だ。「安全ベルトはいざという時に逃げられないからいらない」と言う。高く高く登って枝にまだがり、下を見下ろして「にっ」と笑う。下から見上げている私は、毛穴が開くほどの恐怖が走る。それでもまわりを見渡して楽しそうにしている。それが兄貴だ。

兄貴を助手席に乗せていると、いつもカーナビとケンカをする。「そっちじゃない西だ、西‼️」
西ってお日様沈む方だよね…🤔としかわからない私は「左右で言ってよ‼️」と文句を言うと、
カズナビは、
「佐予ちゃんは目印がカラスだからダメなんだ」
と意味のわからないダメ出しをして、また楽しそうに笑っている。

夏、手賀沼で蓮見舟に乗っていると、気持ちよく揺れている蓮の葉の中、ピンク色の花に紛れて白い花が見える。が、しかし、よくよく見ると、花ではなく白いタオルを姉さん被りしてる兄貴だ。
カヌーを出して、気に入った蓮の花が、気に入った光になるまでずーっとファインダーを覗いている。もちろん気に入らなければシャッターは切らない。でも兄貴にとって撮れないことも撮れることも日常なのだ。

蓮の花びらを食べたらピンク色の味がしたとか、
「もう少ししたら花吹雪がおこるぞ」と本当に風が吹いてきたこともあった。突然スコップ持って走ったと思えば、モコモコした地面にスコップを突き立てて、モグラを捕まえて見せてくれたり、トトロの曲がアコーディオンで響けば飛び跳ねて手を叩いて喜んでたり。こんなもの作りたい、あんなことしたいと言うと、面白がって私が思い描いてたものより遥かに魅力的なモノにしてくれる。私にとっては、まるで玩具箱をひっくり返したような人だった。

実家で初めて開催したイベントも、鎮守さまで開催してる朝市も初詣イベントも、開催出来るまでの体力や忍耐、豊かな人脈、殆ど兄貴が作ってくれた。私にとってはどんな人よりも身近な兄のような存在だ。

「佐予ちゃん、やってればいつか終わるだよ」と
笑って話す彼の手は、手袋なんてしたことないからいつだって真っ黒だ。「『カラスのクソカキ棒』って言うんだ」。所々無くなってる歯を気にせず、おおらかに笑う。

いつだか子供に「何で歯がないの?」と聞かれ、
「これから生えて来るんだ」と笑笑。兄貴はいつだって兄貴だ。

ゴツくて分厚くて真っ黒いその手は、繊細で優しくて温かい。兄貴の人柄そのものだ。

普段はペラペラよく喋るおばちゃんみたいな兄貴だけど、仕事してる時と写真撮ってる時の兄貴は
本当にカッコ良かった。だからカッコイイと思う兄貴しか撮らなかった。

「兄貴は絶滅危惧種だ‼️」と私が言う。
「俺は絶滅してるんだ」といつも、歯のない顔でニカっと笑っていた。

でも本当にいなくなった。まるで動物が自分の死を察するようにいなくなったのだ。

あれから1年が経つ。
でも本当に居なくなったのか?と思う時がある。

今でも兄貴の話が始まると、色褪せた故人の話ではなく、たっぷりと水を含んだように蘇る。「ども‼️」と、兄貴が現れても誰も不思議に思わないんじゃないか?兄貴の写真があちこちに飾っているように、兄貴の話もあちこちに散らばっている。面白いくらいに誰もが兄貴のエピソードを持っている。

きっとこれは兄貴が仕込んだものだ。未来を予測して仕込んだものに違いない。彼が置いていったモノの中に「森かずお」が見えてくれば、兄貴はそれできっと満足なのだ。

みんな兄貴にしてやられているのだよ 笑笑

「佐予ちゃん、いいか。話し合いで自分のアイディアを実現したいと思ったら、人の意見は絶対に大事だ。その意見を尊重しつつ、最後に自分のアイディアを出せ。そーすれば大抵はひっくり返る」

兄貴は知能犯だ。
みんな兄貴にしてやられているのだよ。

笑笑。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?