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試写会『対峙』アフタートークレポート(登壇:ジャーナリスト/金平茂紀氏)

※本記事は2023年1月に参加した試写会レポートです。


あらすじ

あらすじ:アメリカの高校で、生徒による銃乱射事件が勃発。多くの同級生が殺され、犯人の少年も校内で自ら命を絶った。それから 6 年、いまだ息子の死を受け入れられないペリー夫妻は、事件の背景にどういう真実があったのか、何か予兆があったのではないかという思いを募らせていた。夫妻は、セラピストの勧めで、加害者の両親と会って話をする機会を得る。場所は教会の奥の小さな個室、立会人は無し。「お元気ですか?」と、古い知り合い同士のような挨拶をぎこちなく交わす 4 人。そして遂に、ペリー夫人の「息子さんについて何もかも話してください」という言葉を合図に、誰も結末が予測できない対話が幕を開ける──。

試写会アフタートーク

この日のゲストはジャーナリスト/金平茂紀氏とドキュメンタリー映画監督/坂上香氏でした。今回の映画のテーマである『修復的司法』をメインに対談形式でお話され、映画への理解度がさらに深まりました。また、司会の映画ジャーナリスト/立田敦子氏により披露された制作エピソードも記載しています。

修復的司法とは

本作では「被害者家族と加害者家族が話し合うシーン」がメインで描かれているが、実はアメリカでは『修復的司法』といって、割とポピュラーな取り組みとなる。ゲストの坂上さん曰く、修復的司法は1970年代のカナダが発祥。犯罪自体を''損害''と捉え、加害者、被害者、そして地域が話し合って、今後同じ事件が起こらないように解決策を探るプロセスを指すんだそう。多くの場合、民間の団体が間に入り、事件が起こった数年後に開催される。一般的には当事者の他にファシリテーターが参加するそうです。

日本の司法制度

ゲストの坂上さんによると、今の日本は『被害者感情を代行するのが司法の役割』という考えが根強いという。しかし、より良い社会にするためには、報復感情を晴らすだけでは解決にならず『なぜこういった犯罪が生まれたのか』社会や環境からのプロセスを紐解いていくことが大事になってくる。
実際、2000年代には日本でも少年犯罪に限定して『修復的司法』を取り入れ、良い効果をもたらしているというエビデンスもあるが、何らかの事情により今は実施されていない。

被害者心情について

ゲストの金平さんは、1980年に起きた『新宿西口バス放火事件』を例に挙げた。この事件は多くの被害者が出たこの事件、社会に不満を持ったホームレスの犯行だった。身体の80%に火傷を負った被害者の一人は、犯人が逮捕されたあと、まさにこの映画のように積極的に犯人と交流を持ったそう。この事件に限らず、何かの事件に巻き込まれた被害者は『なぜ自分はこんな目に遭ったんだろう』『加害者のなぜこんなことをしたんだろう』と、犯人への高い関心を持つ。
日本では加害者の親が自害するケースが一定数発生しているけれど、それでは社会は変わらない。加害者がどういった環境で育って、どんな人格形成をされたのかなど、加害者側を理解する機会を積極的につくる必要があって、それが同様の事件が再び起こらない社会づくりに繋がると思う。

本作品を制作するきっかけ

司会の立田敦子さんによると、本作品を制作するきっかけは米国の高校で発生した銃乱射事件だそう。本作品の監督が10代だった頃、コロンバイン高校銃乱射事件が起きた。アメリカは今でも年間400-600くらいの銃乱射事件が起きていて、こうした銃乱射事件のニュースは、子どものいる父親という立場になると以前とは違う感じ方になっていて『こうした事件を繰り返さないためにはどうしたらいいか』『こうした社会で生きていくにはどうしたら良いのか』を考えるようになり、映画を作るきっかけになったそうです。
余談ですが、アメリカのハイスクールにおける銃乱射事件への対策について聞かれたトランプ元大統領は『学校の教師が銃の取り扱いを覚えたら良い』というこぼれ話があって、修復的司法とは真逆の考えだね…と苦笑していたゲストたちが印象的でした。

赦さなくても良い

アフタートークのなかでとても印象的だったのは坂上さんの仰った『法律も社会も、他者に対して赦すことを強要してはいけない。赦すかどうかはその人自身(被害者)が決めることだから』という言葉。どんな償いをされたとしても、悲しい気持ちや憤る気持ちは、全部その人だけのもので、他人が何か口出しして良いものではないというのは、この映画を観たあとだからこそ余計に心に残りました。

試写会のアフタートークレポートは以上になります。
この映画のテーマでもある『修復的司法』について、自分は初めて知ったので、とても考えさせられました。

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